ぐるさん
2026-04-09 02:04:08
1617文字
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【指切り】逆視点

3.28 ふみりかワンドロの逆視点です。

「あ。俺、今日遅くなるから」
 
この言葉を告げるのは、今週で何度目になるだろうか。

いつものように理解に叩き起され、寝惚け半分の食卓は一気に驚愕と狂乱に包まれる。

何時に帰るのか晩御飯を外で食べないか、急に出かけて何をするのか危ない事はしないか、久しぶりのミステリアスセクシー等々……

そんなに驚く?と毎回思うが、よく家を空けていた1stシーズンの頃と比較すると、確かにこういう外出は久しぶりな気もする。

 PPPPPPPPP!
「ご飯を食べながら騒ぐな!!」

お前が一番騒がしいよ、とお決まりの冗談はさておき、茶碗に残っていた米を掻き込み箸を置く。

本当はもう少し眺めていたいけど、ツアーのブルーレイとアニメとアプリが同じ月の中で発表されてしまって、正直俺も色々忙しい。

一つだけ、聞きそびれた言葉を呑み込んで、そっと食卓を後にした。
 
◇◇
 
「疲れた……

 丸一日、あちこち移動してはこれからについて色々まとめたり、金策に奔走していたら、あっという間に日が暮れ真夜中になってしまった。

「ただいまー……

玄関の扉を開けると、真っ暗な廊下が広がる。流石の奴隷こと依央利と、夜更かし常習犯の大瀬も、今日は部屋で寝ているようだ。

何となく電気をつけるのが億劫で、そのままリビングに足を進めると、誰も座っていないソファが視界に入る。

疲労に身を任せてそのまま寝転ぶと、心地よい眠気に瞼が自然と降りてきた。

そのままぼんやりと過ごしていると、朝に聞きそびれた事を思い出す。
 
それは、理解に貸した小説の事。

偶然古本屋で見つけて、読んでみたら意外と面白かったから、せっかくなら他の人感想も聞きたいと思って少し前に理解に渡した。

だけど、結局理解が読み終わったのか、内容についてどう思ったのか、結局俺は聞けていない。

あちこち出かけて、帰る頃には理解は寝ている時間で、朝が来たらまた出かけて、の繰り返しで、どうしても互いの生活リズムが合わない。

……はぁ」

どうにもならない事を気にしても仕方がない。考えるのも面倒になってきた頃、カチャリとリビングの扉が開く音が聞こえた。

こんな時間に誰だろう?起きて確認したいけど、眠気と怠さが勝って動けない。

しばらく目を閉じてジッとしていると、誰かが近づく気配がする。

起こされるか、そのままにされるか。そのどちらかだろうと思っていたが、その考えはすぐに打ち消された。

「ふみやさーん……

理解の声だ。何故かは分からないけど、理解が夜中に起きて、こんな所で寝ている俺に話しかけている。

あの理解が、この状況で俺を起こさない意外性と、小声でおそるおそる話しかけてくるのが何か可愛くて、狸寝入りを決め込む。
 
「あの本、面白かったです……
……

やっぱり理解もそう思う?そう言いそうになったのを堪える。でも、ちょっとだけ口の端が動いてしまったかもしれない。

「明日お返しするので、ちゃんと家に居て下さいね……

ぽそぽそと話す理解は、自分の右手の小指と俺の小指を絡めた。

それは多分、所謂指切り。他者との約束を誓うおまじない。でも、理解のそれは、指を切るなんて物騒な名前からあまりにもかけ離れた、健気でささやかな願いだった。

「お、おやすみなさい。ふみやさん」

やっぱり起きて話そうとした瞬間、絡んでいた小指はするりと離れて、理解はそそくさとリビングを後にしてしまった。
 
「はぁー……

流石にそれはズルすぎる。そんな事されたら、明日……いやもう日跨いでるから今日?の予定は全部別日に回したい。

……ちょっとスケジュール確認しよ」

怠い身体を起こして、右手にスマホを持ちながら、指切りをした左手の小指を見やる。

せめて針千本飲む事にならないように調整するから、お前もちゃんと家に居てくれよ。理解。