白殊皎(しらよし こう)
2026-04-08 19:00:00
3182文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

桜雲の夜の随意に

現代転生パロディ。
仕事の終わりがけ、近藤からの突然の着信。
爛漫の桜花の中二人は──。

この作品は2026年4月4日・5日に開催された、ぐだぐだ鯖WEBオンリー「ボイラー室横より愛をこめてW~二回目~」での白殊独自のリクエスト受付企画【白殊に歳勇小説リクエストを投げつけようVol.2】でリクエストいただいたものです。

◆リクエスト内容◆
現代転生歳勇設定で、桜祭りに行く話。
桜にはしゃぎつつも色気より食い気な近藤さんと、そんな近藤さんに付き合う土方さん。

参考に地元の桜の名所に行ったのですが、キッチンカーどころか屋台も出ておらず、とっても寂しかったです……。
田舎だし、傍に大きめの商業施設があるのがいかんのか……?
口惜しいので歳勇にはおもいっきり楽しんでもらいました!
お楽しみ頂けましたら幸いです。

桜雲おううんよる随意まにま



 そろそろ就業時間も終わるだろうその頃、自分のデスクにいた土方のスマフォが微かに鳴動して着信を知らせた。
 その番号を見て土方はそっと席を立った。
 私用の電話にデスクで出られるほど土方は図々しくはない。
「近藤さん?」
『歳! 仕事は何時に終わる? 花見に行こう!!』
 相手は前世からの土方の恋人・近藤勇。
──かなり、浮かれた声がする。
「構やしねぇが、随分と急だな?」
『今週末、雨が降るそうだ。そうすると散ってしまうだろう? その前に! 今日、行こう!!』
 他人が聞けば酔っ払っているのではないかと思ってしまうだろうが、土方にとって近藤のこのノリは今に始まったことではないので大した問題ではない。



 そう、本来近藤は明るく屈託のない太陽のような人物だった。
 それを曇らせ、己を消し去るとまで思い詰めさせたのは自分なのだと、土方にはそういう引け目があった。
 今世において、自分に前世の記憶があると気付いた時は別にどうという感慨もなかった。
──近藤に出会うまでは。
 取引先で新たな担当者として引き合わされた時、すぐに気付いた。
 外見は多摩で出会った頃そのままの豊かな黒髪に涼やかな瞳。
 柔らかい笑みを浮かべ差し出された名刺には、前世そのままの名が記されていた。
 こちらからの名刺に『何か縁がありそうですね』と嬉しそうに微笑んだその顔はいまでも忘れない。
 その後、土方は今生では関わることで彼の人生を変えたりしないようにと、近藤に記憶があるかどうか確かめることはせず、相手会社の担当という以上の関係になるつもりはなかった。
 だが、二年ほど担当として付き合ったあと、土方に役職がつくことになって担当から外れることになりその旨を伝えた時、おずおずと近藤は言った。
『時間が取れるのなら、少し個人的なお話をさせてくれませんか』と。
 特に断る理由もないので断ることはしなかった。

 そうして──

「土方さん……
 時間を取り二人で向き合った近藤は、思い詰めたような目で土方に呼びかけた。
「?」
「歳……そう呼ばれることは、嫌ですか?」
 その言葉に土方は顔が蒼ざめるのがわかった。
…………
「──歳、やっぱり……
 無言のまま固まった土方を見て、近藤はその柳眉を寄せて泣きそうにも見える笑顔を作った。
「私のことを思って言わなかったんだろう? でも……
 近藤は土方の手を取りぽろり、と涙を零した。
「逢えて、嬉しいよ……
「こんどう、さん……
 土方の手は震えた。
「いいのか……? また、俺なんかと……
「目の前におまえがいるのに、一緒にいられないなんて、私には考えられないよ……?」
 土方の目からも水滴が滑り落ちた。
 それから、二人が恋人同士になるのに時間はかからなかった。
 まだ同棲はしていないが、遠くない将来共同名義で、と今は物件を探している最中である。



「わかったよ。もうすぐ終わるから、いつもの場所でいいか?」
『あぁ。近くの公園で桜祭りもしているそうだから、そこに行こう! じゃあ、歳、またあとで!!』
 自分も仕事終わりギリギリにかけてきたのだろう、バタバタとした雰囲気を電話の向こうに感じさせながら、近藤は会話を終わらせた。
 苦笑をしながらスマフォをしまい席に戻ると、少しだけ残っていたデスクワークを片付けて職場を出た。



「歳!」
 いつもの待ち合わせ場所に着くと、近藤は既に来ていた。
「お待たせ、近藤さん」
「待ってないぞ、歳は生真面目だな」
 二人並んで暮れかけた街を歩き、公園に向かう。
 桜の名所として作られたその公園はライトアップがされ、花はまさに今が満開だった。
「綺麗だな、歳。雨で散ってしまうというのが残念すぎる」
「見事なもんだ。まぁ、散るのは摂理だから仕方ねぇだろう」
「むぅ……
 近藤は土方の言葉に少し不満げに唇を尖らせたが、周りを見回してぱっと表情を明るくした。
「キッチンカー、結構出ているな。歳、腹が減らないか?」
「減ってはいる」
 そう来たか、と近藤に合わせてぐるりと周りを見回す。
 コーヒーやソフトドリンク、ビールなどのアルコール飲料はもちろん、香ばしい匂いをさせる肉料理、ラーメン、ハンバーガー、フィッシュアンドチップス、クレープ、かき氷まで、こんなにもと思わせるくらい、ありとあらゆる料理が揃っている。
「よし、ここで夕飯にしてしまおう」
 近藤は嬉しそうにキッチンカーに駆け寄った。
「俺は一杯やらせてもらうかな」
 土方はその後ろ姿を見送りながら別のキッチンカーでハイボールを調達する。
 近藤はいくつかのキッチンカーを回ってケバブにフライドポテト、フランクフルト二本、ローストビーフ丼を確保してきた。
「相変わらず凄いな」
「いろいろあるから、目移りしてしまってな。歳も食べるだろう?」
 にっこり笑ってフランクフルトを一本、土方に差し出す。
「ありがたくいただくよ」
 飲むか? とハイボールの入ったコップを示すが、近藤は首を横に振った。
「私は弱いから、帰れなくなったら困る」
「そうなったら送っていくさ」
 こういう時の互いの合鍵だろう? と近藤に笑いかける。
「それもそうだけど、ね?」
 食べ物を頬張りながら近藤も笑ってみせた。
「まぁな」
 渡されたフランクフルトを口にしながらハイボールを飲み、近藤の横顔を見つめる。
 本人は花より団子の様子だが、土方にとってその光景すら眩しいものに見えた。
「綺麗だな」
「ん?」
 ケバブを平らげ、ローストビーフ丼にかかった近藤は、土方の呟きに何か言ったか? というように顔を上げた。
「花よりも、あんたの方が綺麗だってことさ」
「な、なにをいきなり……
 けほん、とむせて顔を赤く染めた近藤に、土方は目を細め、ふ、と微笑んだ。
「本当のことだろう、照れるなよ」
生前むかしはそんなこと言わなかっただろう」
 近藤の言葉に土方は目を伏せた。
「あの頃の俺は、その大事さが……それがどんなに素晴らしいものかわかってなかったんだろうな」
「歳……
 軽い気持ちで言ったことに、思った以上に土方が深刻に受け止めたことに近藤は申し訳なさそうな顔をした。
「今度は間違えねぇ……今度はあんたの言葉をちゃんと聞く」
「私も、ちゃんと話すよ……もう勝手はしないから」
 二人が自然と額を合わせ見つめ合い、そっと口付けを交わすと、どこからか黄色い歓声が聞こえたような気がした。
「ところで、歳」
 いい雰囲気のところに近藤はわくわくした顔で土方の腕を取った。
「歳もフランクフルト一本じゃ足りないだろう? もう少し食べないか?」
 食い気の勝った近藤の言葉に、土方は盛大に吹き出した。
「わかったわかった。いくらでも付き合うぜ」
 土方は、その後近藤が満足するまでに、ホットドッグ、揚げピザ、ラーメン、そしてデザートのメロンパンなどを二口三口ずつ付き合う羽目になったのだった。
「流石に……ギブアップだ」
 最後のクレープに近藤が取りかかったところで土方は降参を申し入れた。
「そうか、じゃあこれは私が独り占めだ!」
 近藤は嬉しそうに数種のフルーツとクリームがたっぷり巻き込まれたクレープにかぶりついた。
「これで、桜は見納めだな」
 土方は近藤がクレープを平らげたタイミングで手を差し出す。
「残念だけど、また来年、というところだね」
 近藤はその手に自分の手を重ねて微笑んだ。
「また、一緒に見よう」
「ずっと、な」
 二人は手を繋ぎ、夜桜の下をゆっくりと歩く。
 春の夜は都会の喧噪も飲み込んで、静かに時が流れていくようだった。