ゆべし
2026-04-08 11:05:22
2722文字
Public 銀色の夢
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あなたの隣で

gntk夢
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さくらさくら私は刀を持てないし

私は人を傷つけることはできない

それでも、あなたの隣にいることが許されるなら



盾にだって、なんだってなる





さくら!」

 庇う必要なんてなかった。後になって思ったけど、体が勝手に動いたんだから仕方ない。包丁で指を切った時も痛かった。それが服を割いて、素肌を切り裂いたのだから、傷は熱いし痛い。なのに、体温は全身から引いていくみたいで冷や汗がじわりと滲む。怖い、頭の中が暗闇に包まれる。

「ぎ、さん……
「喋んなッ! ちょっとコレ被って待ってろ。オイ! 新八! こっち来い!」
「ぎん、さ……ッ!」
「動くなって」

 頬に傷ができてる。伸ばした手は触れたいところまで届かず、代わりに分厚くて硬い大好きな手に掴まれた。どんどん遠くなっていく声、瞑りたくないのに閉じていく瞼。その温もりが離れていく瞬間、私が発した言葉は届いたのかな。

「ぜってェ戻ってくっから、いい子で待ってろよ」

 そこで、私の意識は途切れた。次に目が覚めたのは見慣れた天井と消毒液の匂いが鼻を掠める。燃えるように体が熱いのは切られた傷があるから。その痛みを感じているということは生きている証だ。
 体自体は一ミリも動かせない。力が入らないと言ったほうが正しい。唯一動かせるのは視線と頭を左右に傾けられるくらい。左側には天井と同じく見覚えのある襖がある。右側には壁かと思いきや、ふわふわと揺れる銀色が見えた。

……ぎん、さん?」
「んん〜〜〜 ア? さくら?」
「銀さん」
……オメーはよォ」
「?」

 上げてくれた顔をまた伏せるから、見えなくなってしまって不安になる。どこか動かせるところがないかと熱い体に神経を巡らせて、辛うじて腕が動きそうだった。ふわふわの銀髪にポンッと手を置いて、優しく撫でる。傷はあるけれど五体満足、命があるだけ儲けものなのだ。

「銀さん?」
「俺ァ、肝が冷えたよ。オメーが勇敢にも刀から庇ってくれるなんて、考えてもいなかった」
「あの時は……体が勝手に」
「そういう奴だって分かってたのに、護れなかった」

 悪ィ、痛ェよな。苦しそうな声で言うから、まるで自分が切られたみたい。見たところ怪我はあるようだけど、起き上がれる程度のものってことだ。本当に私が出る幕なんてなかったのかもしれない。

「ごめんね、銀さん。余計なことして、心配させちゃった」
……んな言い方すんな」
「だって……
「助かったよ、ホント」
「なら、良かった」

 よくねェよ、嫁入り前の女がこんなデカイ傷拵えて……何してんだ。消え入りそうな声で言う。私は少し考えてから、思いついた言葉を口にする。いつもなら恥ずかしくって言えないことも、今はどうでもよくなってしまう。生きてるからできること、生きてる時にしかできないこと。

「銀さんが傷モノでも良ければ、問題ないでしょう?」
……
「ダメなら私、ずっとひとりね」
「ひとりになんかさせねェよ? 絶対に、な」

 この手を握っていれば、どんなに暗い闇の中へ落ちても帰ってこられる。だから、ずっと離さないでいて。それが例え血の降る戦場でも構わない。私はただ、

「あなたの隣で生きていけたら、それでいい」
「スゲェ殺し文句だな」
「本当のことだもん」
……でも、あまり無茶すんなよ」
「そうね。もう、斬られるのはゴメンだわ」
「次はねェよ」
「ねぇ、銀さん」
「あ?」
「ちょっとだけ、少しだけ寒いの」
……しゃーねェな」

 同じ布団に入って、溶けていく体温に安堵の息を吐いた。気を抜くと途端に痛みが駆け上がってくる。額にじわりと滲んだ汗、そこに触れた唇はカサついていて、少し冷たい。でも、私には一番効くみたい。

「次に目ェ冷めたときは、新八と神楽にも会ってやってくれ」
「二人にも怖い思い、させちゃったよね」
「初手は怒られるだろうが……許してやって」
「私が怒られるのに?」
「もう、寝ろ」
「ん……おやすみ、銀さん」






 熱い、ベタベタする、痛い、苦しい。ハッと息を吐いて、追いかけるように瞼が開く。隣に銀さんの姿がなくて、吸っても、吸っても苦しい呼吸に身の置き所がない。置けなくても動かせないから、なおさら苦しい。

「お姉、大丈夫アルか?」
「かぐ、らちゃん……大丈夫だよ」
「全然大丈夫そうじゃないアル!」
「そ、だね」

 おでこに乗せたタオルが温い。何かしてほしいことないアルか?って心配そうに聞いてくれる。近くに水の入った桶があるか尋ねると、タオル濡らす?と聞いてくれた。コクリと頷いたあと、水滴が垂れない程度に絞ってほしいと伝えたら、任せろヨ!と慎重にタオルを絞ってくれる。

「どう?」
「きもちぃ……ありがとう、神楽ちゃん」
「痛いアルよな。でも、ワタシちょっと嬉しかったアル」
「嬉しい?」
「お姉が守ってくれてなかったら、銀ちゃんがもっと怪我してたヨ。もちろん、誰も傷ついてほしくないアルよ? けど、危ないって分かってくれて、飛び込んでくれたから、銀ちゃんは今ここにいるアル」

 だから痛いだろうけど、ありがとうヨ。少し目尻に涙を浮かべながら教えてくれた。戦うってことになると、私にできることは少ない。それでも一番周りを見ることができるから、体が動いたんだと思う。力になれただろうか、万事屋銀ちゃんとして、家族として。
 神楽ちゃんと話をしていた時間なんて数分くらいなのに、見上げる天井がぐるぐると回り始めた。うぅ、と唸れば、神楽ちゃんが慌てて新八くんの名前を叫んだ。あぁ、今、銀さんがいないんだ。思った瞬間、私の心は脆く崩れていく。大丈夫だよ、すぐに良くなるから、頭の中に浮かぶ言葉は口から出てはくれない。
 新八くんが薬を持って来てくれて、気持ち悪さは込み上げるけど、なんとか飲み下した。フラフラと移ろう手は神楽ちゃんが握ってくれる。こんな風に甲斐甲斐しくお世話される立場でもないのに、みんなの優しさが心に沁みた。


……
「起きたか?」
「ぎんさん
「無理して喋って具合悪くしてたら元も子もねェだろ」
「ごめん、ね」
……まっ、アイツらで対処できたから、回復したら甘やかしてやって」
「うん……神楽ちゃんが、さ……教えてくれたの」
「神楽が?」
「怪我はしてほしくないけど、銀ちゃんを守ってくれて嬉しかったって」
……
「私、少しは……肩を、並べられたかな?」
「少しどころじゃねェし……元々並んでるよ、俺たちは」
「ふふ、ありがとう」
「また気分悪くなるぞ。さァ、寝た寝た」