Maid in LOVEのVIPルーム、ご主人様のお部屋で清司は膝に乗せたむらさきを抱き締めながら、彼に見えるように紫色のカバーが付いたスマホを傾けていた。
「こっちとこっちならどっちのほうが好き?」
「えっとね……」
画面に映るのは煌びやかな部屋の数々で、広々とした空間のものやそれぞれの趣旨に沿って尖った内装であったり、プールなどの設備が充実したものもある。所謂高級ラブホであった。
葉桜の目立つようになった時分、近くにむらさきの誕生日がある。当日はテーマパークへ行く予定であり、むらさきの好みそうな可愛らしい店で夕食を摂ったあとにホテルへ向かうという段取りになっている。清司は当初、テーマパークに併設されているホテルも候補に入れていたのだが、ざっくりとした方針を決めるためにむらさきへ誕生日をどう過ごしたいかと訊いたところ、彼は美しい白面に朱を刷きながら「いっぱいえっちしたい……」と照れた声で言った。清司はその場でむらさきを抱いた。人としての当たり前であり、むらさきの腰が立たなくなるまで、ぬかるんだ後孔からごぽごぽ♡と精液が溢れて止まらなくなるくらいに抱いた。それはその日の恋人としての健全な触れ合いだったので、清司は後日となる今日に改めて予定を組み立ててむらさきの職場を訪ったのだ。メッセージでのやり取りでも出来るのだが、直近会えるのがそのときだったので。
VIPルームでむらさきを膝の上に抱き、何度もキスをしたり頬を寄せ合いながら他愛のない話を幾つかしたあと絞ったラブホの候補をむらさきに見せている清司は、可愛い恋人が楽しそうに画面をスワイプしているのに目を細めながら絶えず蟀谷や頬に唇で触れる。むらさきの細過ぎる腰に回した腕できゅっと下腹を押すなどの悪戯も考えたが、そうすればむらさきはデートの予定などまともに考えられなくなるだろう。幸いにも時間的に自分がむらさきの今日最後のご主人様なので、多少触れ合っても艶めいた彼の顔や雰囲気に下心を持つ客もいないだろう。同担拒否なのか、とむらさきがテーブルにつく前に少し話したメイドから訊かれたことがあるけれど、清司はむらさきの仕事上、彼が人気になるのは喜ばしいと思っている。むらさきはとても魅力的なひとなので、彼に惹かれる気持ちはよく理解できた。その上で、自分はむらさきの恋人なので、彼に触れていいのは自分だけだと思っているのだ。公私は分けて考えられるが、独占欲自体はしっかりある。
「……んー、此処!」
「お、決まった?」
むらさきの決めたラブホは外観からして可愛らしく、部屋も夢色で彼の周りにある小物と重なる印象の詰まった内装だ。大きなベッドにかかる天蓋が特徴的である。
「いいじゃん。楽しそ」
「んふふ…………誕生日一緒に過ごせるの楽しみだなあ」
「俺も。お休み取るの大丈夫だった? 今月イベント重なってるから大変じゃない?」
「んーん、大丈夫。うち、メイド長がスカウトする子も多いから休み取るのそんなに難しくないんだ」
「そ? 良かった。一緒に誕生日過ごしたいけど無理はさせたくねえもん」
むぎゅ! とむらさきの痩躯を抱き締めて、清司はしみじみと言いながら彼のすべすべな頬に自身の頬を擦り寄せる。気持ちいい。
むらさきは照れたように首を竦めてから清司の項に両腕を回し、ちゅ! と唇にキスをしてくれた。ぽっと染まった頬が可愛らしい。むらさきが今日もキュートとビューティフォーで優勝していて清司の胸はほくほくである。
「今日さ……」
「うん」
「……お泊まり、できる?」
「できるよ。うち来る?」
「行く!」
目を輝かせるむらさきに「かーわいい」と零し、清司はそのさらさらな髪に指を通す。ふんわりと香るシャンプーの良い香り。ずっと腕のなかに閉じ込めておきたくなる。
清司の自宅にはむらさきの私物が幾つかある。殆どはむらさきが持ち込んだものではなく、清司が彼と一緒にデートがてら買いに行ったものだ。自身を重いと言うむらさきは連絡などは頻繁にくれるのだが、どこかで控えめな部分がある。清司としてはそろそろ同棲に誘うつもりなのだけれど。
「ねえ、清司クン」
「んー?」
「……ほんとにえっちしないの?」
それは此処で、という意味だろう。
「……もう一回確認するけど、今日は俺でラストだよね?」
「うん」
それならいいか、と清司は頷いて、むらさきの後頭部に手を添えながら彼の唇をちむちむと吸った。唇を擦り合わせて、薄く開いた口のなかに舌を忍ばせて、積極的に伸びてきた舌と絡める。ちゅるちゅると絡み合う舌は柔こくてぬるぬるとしていて、合間に零れるむらさきの呼気や小さな声が腰に響くほど色っぽい。ぎゅう、と背中で握られる服。清司はむらさきの太腿に手を這わせてコルセットピアスを辿った。真っ白な太腿に濃い紫のリボンが目もあやで、清司は他者に見えない内腿に痕を残すのが好きだった。
唇を離せば唾液が糸のように伝う。
「……えっろい顔♡」
「だ、って……♡」
とろんと潤んだ目にぽってりと赤くなった唇。白皙の美貌はほんのりと赤く染まり、幾つものピアスに彩られた耳はなぞれば熱かった。
清司は腰を揺すり、衣服越しにむらさきと性器を擦り合わせながら彼の頬に手を添え、親指を口に含ませる。ちゅ、ちゅ、とすぐに吸われ、這わせられる舌の動きにはよく覚えがある。
熱っぽく湿った吐息を零し、目を細めた清司はむらさきの内腿の奥へと手を忍ばせた。
「──これね、プレゼント」
天蓋付きのベッドの上でバスローブ姿のむらさきが、同じくバスローブ姿の清司が渡す小さなラッピング袋に長い睫毛をぱちぱちと上下させている。まさか、プレゼントをするのが意外とは思われていないだろうけれど、こうしてホテルで散々に睦み合ったあとに贈られるとは思わなかったのかもしれない。
夕食を摂った店など贈る機会は別にもあったのだが、清司のプレゼントを考えると事後のほうが都合良かったのだ。
「あ、開けてもいい?」
「勿論。むしろ、いま開けてほしいな」
「そなの? ん、待ってね」
ベッドの上にぺたりと座りながら、むらさきは細い指で丁寧にラッピングの紫色をしたリボンを解いていく。出てきたのは小さな箱で、むらさきはぱっと清司に視線を向けると先程よりも焦ったような、でもぎこちないような動きで小箱を開いた。
「……ピンキーリング?」
小箱に収められた小さな花の透かし模様が彫られたピンクゴールドの指輪。むらさきが首を傾げたのはピンキーリングにしても小さく見えたからだろう。
「残念、トゥリングでした」
「トゥリング?」
「そう。これなら仕事中でも着けられるかなって……嵌めてもいい?」
「う、うん」
上擦った声を上げるむらさきから小箱を受け取り、トゥリングを取り出した清司はむらさきの左脚を取る。転ばないように後ろ手を突いたむらさきの伸ばす脚はすらりと長く、清司はその爪先に口付けると薬指にC型のトゥリングを嵌めていく。
「きつくない?」
「大丈夫……!」
「ん」
きゅっとトゥリングを締めてからもう一度爪先に口付けて、清司はむらさきの脚を放す。彼はゆっくりと脚を引き寄せるとまじまじと爪先を見つめて「わ……」とじんわり喜びの滲む声を上げた。トゥリングの嵌まった脚と清司の顔を何度も見比べ、むらさきは勢いよく清司へ抱きつく。
「ありがとう……! あのね……オレ、その」
言いたいことが纏まらないというように言葉を詰まらせるむらさきを抱き締め返しながら、清司は彼の蟀谷にキスを落とす。
「誕生日おめでとう」
「うん、うん……ありがとう」
ぎゅうぎゅうとしがみつくように抱きつくむらさきを膝の上に横抱きにして、清司は彼の爪先を飾るトゥリングに目を細める。
むらさきの誕生日プレゼントを考えたとき、清司の頭にはトゥリングが真っ先に浮かんだ。個人の自由ではあるだろうけれど、きっとむらさきの仕事上は左手の薬指に指輪があるのは枷になってしまう。でも、爪先を飾るトゥリングであれば仕事中でも身に付けることはできるだろうと考えたのだ。むらさきの仕事は尊重するけれど、恋人としての独占欲もしっかり持つ清司の心の表れだった。
「ふふ、俺の可愛い寿乃くん。愛してるよ」
ちゅ! と唇にキスをすればふにゃふにゃと笑みを浮かべたむらさきが、寿乃が「オレも……」と頬にキスを返してくれる。その薄紅に染まった頬は本当にほんとうに可愛らしく、清司は宝物にするように寿乃を掻き抱く。
「いつか、こっちの手にも指輪贈らせてね」
ぎゅっと握った寿乃の左手。覗き込んだ彼の目はうるりと涙の幕が張っている。
清司はこくこく頷く寿乃にもう一度「愛してる」と繰り返し、にっこりと笑った。
「それでさ」
──続ける同棲の提案に寿乃は頷いてくれるだろうか?
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