モモハナ
2026-04-07 18:41:02
7188文字
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続 風邪引きの特権

タイトル通り、前作(ちょこっと加筆修正してます)の続きとなります。
堀鍔学園で黒ファイ・龍ユ要素あります。
ほぼ捏造です。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

……所で、龍ユって難しいですね。

 黒鋼の部屋を出た後、立ち話も何だからと言ってユゥイは小龍を連れてすぐ隣の自分とファイの部屋に移動した。
 一先ずテーブルに小龍を座らせると、ホットココアを淹れたマグカップを彼の前に置いた。
「ホットココア淹れたからどうぞ。熱いから気を付けてね」
「有難うございます‼」
 小龍が飲み始めるのを見守ってから、自分のマグカップにもココアを淹れるとそれを手にユゥイは小龍の向かい側に腰を下ろした。
「小龍君、今日は本当に有難う。買い物を手伝って貰ったお礼にお昼、御馳走するよ。何か食べたいものとかある?」
 ココアを飲み、ホッと一息ついたところでユゥイは改めて小龍にそう問いかけた。
「ユゥイ先生の作って下さるものなら、何でも嬉しいです‼」
何か、ボクが作るの前提になってる?」
 ユゥイの問いかけに間髪入れずにそう返事を返した小龍に、ユゥイがあれ? と小さく首を傾げた。
 てっきりカレーとか炒飯とか、そう言ったメニューが上がるとばかりユゥイは思っていた。しかし、その意に反して、キラキラと鳶色の瞳を輝かせ、想定外の返事を返してきた小龍にユゥイは呆気に取られてしまう。
 聞き方が悪かったんだろうか、と内心思っていると小龍がユゥイ先生? と伺う様に声を掛けてきた。
あぁ、ごめんごめん。予想外の返事が返ってきたから吃驚しちゃって。ボクとしては、折角だし、小龍君を家まで送りがてらカフェか何処かに寄ってランチでもと思ってたから」
 何せ、学生の貴重な休日を此方の都合で半日潰してしまったのだ。せめて、そのお詫びも兼ねて、お昼くらいは少し贅沢をさせてあげようと思っていたのだとユゥイは話した。
あっ!? そういう意味だったんですね!? 部屋に上がらせてくれた上に『御馳走する』っておっしゃったから、てっきりユゥイ先生がここで何か作って下さるのかと思ってしまいました」
 早とちりしてしまいました、とユゥイの話を聞き、恥ずかしそうに頬を染める小龍にうぅん、とユゥイが首を横に振った。
 確かに、自分が小龍の立場だったとして、同じような状況で『御馳走する』と言われれば、手料理を振舞って貰えるものと勘違いをしても仕方がないだろう。
 そう思い、ユゥイは再度、ごめんね、と小龍に詫びを告げた。
「ボクも、聞き方が悪かったよ。まぁでも、料理するのは好きだし、小龍君が本当にそれで良いなら今から作るけど」
「おれは全然、構いません!! さっきも言いましたけど、ユゥイ先生が作って下さるものなら何だって嬉しいですっ!!」
「そこまで言われちゃあ、ボクも引き下がれないなぁ」
 正直、ユゥイとしてはこうして生徒に慕われるのは嬉しいし、自分の作ったものをファイや黒鋼以外に振舞う機会もあまりないので、誰かに美味しいと言って食べて貰える事も料理人としては素直に嬉しいと思ってしまう。
「本当に何でもいいの? 今ならまだリクエスト受け付けるけど
「はい! 作って頂く訳ですし、メニューはユゥイ先生にお任せします‼」
 再度、確認するように聞いてきたユゥイに小龍はこくりと力強く頷いて見せる。それを素直に受け止めると、ユゥイはがたりと椅子から立ち上がった。
「本当に君って子は先に言っておくけど、作り終わってからやっぱり別のものが良かった、とかは無しだからね」
 椅子に掛けてあった愛用のエプロンを身に付けながらそう言い置いて、キッチンへと向かうユゥイの白い頬が僅かに朱に染まっているのを小龍は見逃さなかった。
綺麗だ」
 ぽつりと零れた呟きはユゥイの耳に届くこともなく、ホットココアと共に小龍の喉へと流し込まれた。

* * *

 現役の調理実習教諭で、自身も料理が好きだと言うだけあって、調理するユゥイの手捌きは完璧で動きにも無駄がない。
 ホットココアを飲みつつ、じぃっと此方の動きを見つめている小龍の熱の籠った視線を気にしつつも、ユゥイはテキパキと調理を進めていく。
 綺麗に切りそろえられた野菜やソーセージと予め茹でておいたパスタがフライパンの上で炒められ、途中で加えられたトマトソースと絡められて、次第に室内に香ばしい香りが漂い始める。
 室内に漂い始めたトマトソースの香りに、思わず鼻をひくつかせた小龍の腹が空腹を訴える様に小さく鳴った。それを誤魔化す様にカップに残っていたココアを飲み干したのと同時に、ユゥイがコンロの火を消した。
「よし、出来たっと」
 30分ほどで出来上がったナポリタンを二枚の皿に均等に盛り付けると、ユゥイは一皿を先に小龍の席の前に置いた。
「はいどうぞ、小龍くん。ユゥイ特製ナポリタンでーす」
「有難うございますっ‼」
 一度、踵を返して自分の分の皿と粉チーズの筒を手にテーブルに戻ってきたユゥイは、エプロンを外してから小龍の向かい側に腰を下ろした。
「粉チーズは自分で好きなだけかけてね。小龍君の口に合えば良いんだけど
「凄く美味しそうです。いただきます」
「召し上がれ」
 慣れないフォークに苦戦しつつもくるくるとナポリタンを巻き付て口に運び、美味しいです! と顔を綻ばせる小龍に、良かったと安堵の息を吐くとユゥイもナポリタンを食べ始めた。


 ユゥイ特製のナポリタンは小龍にとても好評で、ユゥイは気に入ってもらえたなら良かったと、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ナポリタンってスパゲッティーを使った料理ではあるんだけど、日本発祥の料理なんだよねぇ。日本に来て初めて食べた時は本当にびっくりしたよ」
 イタリアでは茹でたパスタをトマトソースで炒めるなんて事はしないから、と言いながらユゥイはナポリタンを口に含む。
「そうなんですか?」
「うん。イタリアではね、茹でた麺に様々な味のソースを絡めたものの事を一般的にパスタって言うんだよ。だから、此方に来てファイに作ってもらったナポリタンを初めて口にした時は本当に驚いたよ」
 懐かしそうに話すユゥイの話をうんうんと真剣に聞きながら小龍はナポリタンを食べ進めていく。
「御馳走様でした! ナポリタン、凄く美味しかったです‼」
 綺麗に完食し満面の笑みで美味しかったと述べた小龍に嬉しそうに笑みを浮かべると、ユゥイは胸の前に右手を添えて小さく頭を下げてみせた。
「お褒めに預かり光栄です。それじゃあ、食後のジャスミンティーをどうぞ」
「有難うございます‼」
 食後、すぐ飲めるようにと予め用意しておいたジャスミンティーを小龍に振舞えば、彼はそれも甚く気に入ったらしく、ゆっくりと味わう様に口に含む。
 その様子を微笑ましそうに見つめたユゥイは、自分用のカップにもジャスミンティーを注ぎ入れた。
「お代わり、まだあるからね」
 ポットを指さしながらそう言うと、ユゥイはふぅふぅと吹き冷ましながらジャスミンティーを一口飲んだ。
 二口目を飲もうとカップに口を付けたのと同時に、テーブルに置かれていたユゥイのスマートフォンがピコン、とメッセージの受信を告げた。
 カップをテーブルに置き、代わりにスマートフォンを手に取ってメッセージアプリを起動すると、そこには今は隣室の体育教師に付き添っている双子の兄からのメッセージが届いており、ユゥイは思わずファイ、とその名を口にした。
「ファイ先生からですか?」
「うん、そう。……ファイ、今日はこのまま黒鋼先生に付き添うみたい」
 朝一で隣室の体育教師から電話を受け、自分たちの部屋から必要そうなものを抱えて彼の部屋へと駆け込んでいった兄の様子からして、十中八九そうなるだろうな、と予想はしていた。
 予想はしていたものの、いざそう告げられるとユゥイの胸中は霞が掛った様なもやもやとし気持ちが満ちてくる。
 最愛の双子の兄と同僚の体育教師が深い仲なのは、イタリアから日本へ渡って来た時から分かっていた事。
 兄と彼から告げられた時に、お互い好き合っているなら自分には止める権利はないと言って、二人の付き合いだって認めている。
 それなのに、いざこういった場面に直面すると、無くてはならない大事なものを突然奪われてしまったような、嫌な気持ちに苛まれてしまう。
 もやもやする気持ちを誤魔化す様にユゥイがカップの中の少し冷めたジャスミンティーを飲み干すと、その様子を静かに見守っていた小龍がユゥイ先生、と声を掛けてきた。
ファイ先生が黒鋼先生を優先するのが、嫌なんですか?」
「なっ、にを急に言い出すのかな? 君は」
「気に障ったのならすみませんっ! でも、ファイ先生からのメッセージを読んでから、何だか辛そうな顔をしてるから」
 よく見ている、と思う反面そんなに分かりやすかっただろうかと思いながら、ユゥイは小龍の顔を見る。
 心配そうに此方を見つめてくる小龍にあまり顔を見られたくなくて、ユゥイは思わずふいと顔を背けた。
……分かった様な事を言うの、やめてくれる? 大体、ファイが黒鋼先生にべったりなのはいつもの事だし、具合の悪い人の傍に居たいって思うのだって当然の事でしょ? だから、今更寂しいとかある訳ないじゃない」
「確かに、それはそうかも知れないですけどでも、おれも双子だから、何となく分かるんです。ユゥイ先生の気持ちが
 小狼もサクラという恋人が出来るまでは、双子の兄弟である自分を最優先してくれていたのに、いつの間にか彼の中の優先順位が変わってしまった。
 それは悪い事では決してないし、むしろ喜ばしい事だと小龍だって思っている。それでも、時々、ふと小狼が自分よりもサクラを優先する事に寂しさを感じる事があるのだとぽつりぽつりと小龍はユゥイに話した。
「実を言うと、今日も一人で居るのが何となく寂しくて、時間つぶしも兼ねてスーパーに行ってた所もあるんです。だから、偶然とは言えユゥイ先生に会えて一緒にお昼まで頂けて本当に嬉しいんです」
 そこで一旦言葉を切ると、小龍はカップに残っていたジャスミンティーを一気に飲み干して、空になったカップをテーブルに置いた。
 カップから手を放した小龍は、改めてユゥイを見つめながら再度口を開いた。
「具合の悪い黒鋼先生には申し訳ないって思うんですけど、今日はこうしてユゥイ先生と一緒に過ごせる事が本当に嬉しくて……。だから、これからもまた時々、今日みたいに休みの日とかにユゥイ先生とお茶を飲んだり出来たら凄く嬉しいです」
 真っ直ぐに此方を見つめ、言葉を投げかけてくる年下の少年の鳶色の瞳には惜しみない愛情すらも滲んで見えて、ユゥイの心臓がドキリと大きく跳ね上がる。
 それが緊張感からか、はたまた照れくささか来てぼいるものかはまだはっきりとは分からないものの、小龍の自分に対する好意は十分すぎる程に伝わってきて、そして、それが素直に嬉しいとユゥイは感じ、有難う、とはにかむ様な笑みを浮かべてみせた。
ボクも、君とこうしてお昼を食べたりお茶を飲んだり出来て嬉しいよ。きっとこれからも、生徒とか教師とか関係なく、君とこうしてお喋りとか出来たら嬉しいと思う」
ユゥイ、さん……
「あっ! カップ、もうからっぽだね! お代わり淹れるからちょっと待ってて」
 ふんわりと漂い始めた甘い空気に、ほんのりと顔を赤らめたユゥイがそそくさとティーポットを手にして立ち上がる。
 その後姿を微笑ましそうに見守りながら、小龍は心の中でガッツポーズを取っていた。

* * *

 夕方、起き出してきた黒鋼にファイが甘酒作ってあるけど、と声かけると彼は飲む、と被せ気味に一言返事を返して、そのままトイレへ向かっていった。
 数分でトイレから戻ってきた黒鋼がテーブルに座ると、はい、とファイから体温計を渡された。
「調子はどう? 先に一回体温測ってみてよ」
「まだだりぃが、朝よりはマシだな」
 渡された体温計を脇に挟みそのまま体温を測ると昼間は38℃あった熱も37℃台まで下がっており、それを見てファイは良かったぁとホッと安堵の息を吐いた。
 体温計を受け取って、代わりに甘酒を淹れたマグカップを黒鋼に差し出せば、彼はサンキュ、と返事を返してそれを受け取った。
「この分なら明日には平熱になりそうだね。でも、無理して拗らせても大変だし、明日は学校は休んで病院行ってね」
あぁ」
「何ー、その微妙な顔。黒んぷセンセ、病院なんざ行かなくても平気ーとか思ってるでしょ?」
別に、思ってねぇよ」
 ファイが作った甘酒をちびちび飲みながら、どことなく気まずそうにそう答えた黒鋼にファイがほんとにぃ、と食い下がる。
「心配しなくても、病院ならちゃんと行くから安心しろ」
「その言葉、信じてるからね? 所でー、お母さま直伝の甘酒のお味はどう?」
あぁ、美味いぞ。何つーか、懐かしい味がする」
「ほんと!? 良かったぁ。お代わりもあるから遠慮しないで言ってね」
 黒ママに作り方聞いた甲斐があったよ、とにこやかに言うファイに黒鋼が満更でもなさそうな顔をする。
まあ、悪くねぇな」
 昨日、プールに落ちた所為で発熱した時は最悪だと思ったものだったが、たまにはこうして人に看病されるのも悪くない。そう思いながら甘酒を飲んでいると、ファイがふふ、と黒鋼を見つめ返してきた。
「黒みゅう先生には早く元気になってもらわなくっちゃ! 自分たちの所為で風邪を引いたなんて知ったらモコナ達が気にしちゃうかも知れないし」
「あの饅頭どもがそんな事気にするとは思えねぇがな」
「そんな事ないよー。あの子達、ああ見えて結構繊細なんだよ?」
「繊細、ねぇ」 
 確かにモコナ達はあれでいて人の感情の機微に鋭い所があるのは事実だが、そこまで気にするような生き物には思えなくて黒鋼は怪訝そうな顔をした。
 それに気付いているのかいないのか、自分用に淹れたホットココアを口に含みながら、ファイが再度口を開いた。
「それにー、オレもー、早く元気になった黒様とえっちしたいし?」
 ユゥイと小龍君見てたら何だか羨ましくなっちゃった。
 昼間見た実弟と彼を慕う少年の微笑ましい姿を思い出しながらさらっととんでもない事を口走ったファイに、黒鋼は思わず飲みかけた甘酒を吹きそうになった。
「っ!!?」
 辛うじて噴き出すことは防げたものの、飲みかけていた甘酒が気管に入ってしまったらしく、ゴホゴホと盛大にむせ始めた黒鋼にファイが慌てて傍に寄ってきた。
「ちょっ! どうしたの黒りんっ!? 大丈夫っ!?」
「おまが、急に、変な事言うからっ!」
「えー、オレそんなに変な事言ったぁ?」
 先ほどの発言を変な事と言われ腑に落ちない顔をしたファイだったが、今は咽ている黒鋼を落ち着かせるのが先だと思い、彼の大きな背中にそっと手を添える。
 そのまま数分の間、ファイが黙って黒鋼の大きな背中に手を添えて摩っていると、次第に黒鋼が落ち着きを取り戻してきた。
 ぜーぜーと荒い呼吸を繰り返しながらも、漸く落ち着いたらしい黒鋼がちらりと真紅の瞳をすぐ傍にいるファイに向けた。
「黒ぷー先生、大丈夫? 落ち着いた?」
「あぁ、もう大丈夫だ。ったく、饅頭たちの話してたと思ったら、急に違う方向に話が飛ぶから驚いちまったじゃねぇか」
 吐かなくて良かったと小さく息を吐きながら、マグカップをテーブルに置くと黒鋼はそっと左手でファイの頬に触れた。
で、さっき言ってたことは本当なのか? それとも、ただの冗談か?」
……冗談であんな事言うと思う?」
 それも病人相手に、と呟く様に言いながらファイが頬に触れる黒鋼の手に手を添える。
「だから早く風邪治して元気になってね、黒様」
 言いながら、ちゅっと自分の頬に触れていた黒鋼の左の手の甲に口付けを落とすと、ファイはそのまま先ほど座っていた席へと戻っていく。
「お前こそ風邪引くんじゃねぇぞ。こんなに美味そうな餌寄越されてんのに、お預けはごめんだからな」
 にやり、と意味深な笑みを浮かべながらそう言うと、その意図を察したファイが気恥ずかしそうに見つめながら、うん、と小さく頷いてみせる。
 その様子に気を良くすると、黒鋼は少し冷めて温くなった甘酒を口にした。


 数日後。
 ファイの献身的な看護の甲斐もあり、すっかり完治して職場にも復帰した黒鋼にファイは勿論、ユゥイや小龍、それにモコナ達も大いに喜んでいた。
 そしてその日の夜、今日も黒るー先生の所に泊まるから、とどこか気恥ずかしそうに告げて隣の部屋へと消えていったファイに、全てを察したユゥイはふぅ、と小さく溜息を吐いた。
ここ、設備良いから防音にはなってるけど、なんか居づらいなぁ」
 双子の兄と体育教師が深い仲なのは知っているし認めてはいるが、万が一、隣の部屋で乳繰り合っている最中の声とかが漏れ聞こえでもしたらたまったものではない。
 2、3時間もすれば落ち着くだろうから夕飯も兼ねて、少し出かけてこようと貴重品を入れたボディバックを手に部屋を出た所でピコンとスマホが鳴りひびいた。
 画面を開いて確認すれば、そこにはつい先日も一緒に昼食を食べたばかりの生徒の名が表示されていた。
小龍君、タイミング良すぎじゃない?」
 ふふ、と思わず笑みをこぼしながら、ユゥイはメッセージの相手である小龍に電話をかけていた。


2026.04.07.Tue.

※最後にちょっとだけ
ユゥイ先生が話していたナポリタンのくだりはグーグルで調べたので本当です。
大変だったけど、楽しく書かせて頂きました!