スサ
2026-04-07 12:49:07
1387文字
Public
 

【鬼水(になる)】木の芽時

鬼に第二次性徴が出てくる話…?養父への気持ちがただ純粋に慕ってるとかではなくなってることに気づく場面みたいな…。このあと鬼水になるはず。


 風が違う。そのせいかはわからないが、最近そわそわとして落ち着かない。けれど、何か思い当たるようなことはない。そもそも、じっと座っていられないような、こんな気持ちや状態についぞ覚えがなかった。つまり、初めての体験。
 そう考えてみて、少し違うかも、と思い直す。
 うんと小さな頃、歩くようになって、少しずつしゃべれるようにもなって、育て親である水木の後ろをくっついて回るのが好きだった。水木は時に褒め、時に困り、けれどいつも愛情のこもったまなざしや手つきでもって鬼太郎に触れてくれた。
 今では考えられないけれど、あの頃、水木より先に目を覚まして、彼が起きるのを横で待っているのが、その寝顔を見るのが好きだった。早く起きてほしいのに、ずっと見つめていたい。今はそうやって言葉にできるけれど、そのくらいの頃はまだ、そんなにはっきりとした言葉にできる感情ではなかった。ただ、上下する旨が、時折震えるまぶたが、寝息に震える産毛が、そういうものを見ながら彼が目覚めるのを待つのが好きだった。そして、目を開く時の、まつげを少し震わせ、眉根に軽くしわを寄せた後に現れる瞳を見るのが、それはそれは好きだった──
……!」
 思い出は美しい。おはよう、鬼太郎、と少しかすれた声で呼んで、起き上がりながら幼い自分を抱き上げてくれた腕は温かかった。
 それなのに。
 鬼太郎は慌てて立ち上がり、梯子を下りるのも待てず、窓からねぐらの下の池に飛び込んだ。ざぶん、と盛大にしぶきが上がる。卓上で寝ていた父も起きたのだろう、鬼太郎、と慌てたような声が遠く聞こえた。
 けれど、返事ができなかった。
 どくどくとこめかみが震える。血が、沸騰しそうだ。
…………
 何かとても恐ろしいような、厭わしいような、けれども、ぞわりと、本能に訴えかけるような、甘美で、危険な。一言でいうなら衝動だっただろう。
 腹まで水につかりながら、鬼太郎は頭を振る。
 きたろう、という優しい、甘やかす声が耳にこだまする。今そこで声をかけられているかのように。
 初めてのことだったが、身体的な変化が、水木の思い出と直結していることは確かだった。自分をごまかすことはできない。
 そわそわと落ち着かない気持ちも、ならば、きっと同じところから来ている。
 鬼太郎は顔を覆って、そのまま全身、池に沈み込んだ。呼吸の泡が水面へ向かっていく。まだ夜は明けておらず、けれども朝は近いせいで、うっすらと水の上は明るい。
 下半身。もっというと、性器だ。ちんぽこだとか、魔羅だとか。様々に呼ばれる。赤ん坊に毛が生えたくらいの頃は、朝顔のつぼみみたいにかわいいおちんちんだ、なんて、風呂で笑い混じり水木に言われた覚えがある。からかわれたのではなくて、体の部分について風呂に入りながら教えていただけだが。
 今はさすがに朝顔のつぼみのようではないけれど、大人のそれといえるかどうかは微妙だ。毛も生えていないし。大人になるとここに毛が生えてくるのだと聞いた。だとすれば、やっぱりまだ大人ではない。ないが、準備はしているということなのかもしれない。
 とにかく、そこが勝手に大きくなったり、起立したりすることを、鬼太郎は自分のこととして初めて体感したのだった。
 春先のことだった。ちょうど、鴬が鳴き始めるくらいの。