匣舟
2026-04-06 21:45:11
3276文字
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今の楽しみは眠るきみにキスをすること

冬リクの雑乱で寒いので部屋の中で膝に座ってまったりおしゃべりというリクエストを頂いて書かせて頂きました。
リクエストありがとうございました☺️


 保健委員である乱太郎は、授業が終わるといつも一緒にいるきり丸としんべヱと別れて医務室へと直行した。こんなにも乱太郎が急いでいるのは、今日が自分だけで医務室を回さないといけない日だからである。まだ一年生である乱太郎が医務室を一人で回すなど普通なら考えられないことなのだが、保健委員会委員長である善法寺伊作は先週から長期任務のため不在だし、顧問である新野洋一はここ数週間前から知り合いの診療場の手伝いが忙しいということで休職している。
 こうなると今、保健委員会のトップは三年は組の三反田数馬ということになるのだが、数馬は今、寒暖差が激しい今の気候に身体が追い付かなかったせいか昨日から熱を出して隔離されているので、現在の保健委員会は、二年い組の川西左近、そして乱太郎と同じく一年生でろ組に所属する鶴町伏木蔵と乱太郎の三人体制でこの一週間の医務室当番を回している。
 といっても今は薬草の補充が間に合っているから採取をしに行かなくていいし、薬研で挽かなければならないほど薬が逼迫しているわけでもないので、昨日当番だった左近からはバラバラになった包帯を巻きなおすか、患者が来るのを待つか、医務室にある薬草図鑑でも読んで勉強しておくんだな。とさっき授業が終わってからすぐに医務室に向かっているときに偶然会い、すれ違いざまに言われたので、今は言われたとおりに薬草図鑑を開いて薬草の模写と、どんな特徴があるかなどを紙に写しているところだ。ふわぁ……。と一つ欠伸をして、乱太郎は手元の筆を置いた。
「ふぅ……少し、ちょっと休憩しようかなぁ。」
 保健室は開け放してあるが、外で騒ぐ同級生たちの声や先輩方の怒鳴り声や言い合っているような声が聞こえるくらいで、特に怪我人や病人が来る気配もない。今日の医務室は平和だなぁ。と思いながら立ち上がり、薬草図鑑を本棚に仕舞おうとしたときだった。
足元にある何かを踏んでしまって前に倒れる。うわっ!と来る衝撃に備えて目をつぶると、何か柔らかいものに衝突した。痛みは一切なく、恐る恐る顔をあげてみると、そこには見知った顔があった。
大丈夫かい?」
「雑渡さん!?」
 乱太郎がぶつかったのは、タソガレドキ忍軍の組頭であり、最近よく学園に出入りするようになった雑渡昆奈門だった。どうやら自分がぶつかったのは彼の胸らしい。それにしても、気配を感じることができないとはまだまだ忍たまとして未熟だなあ。と心の中で反省しながら、乱太郎は慌てて雑渡から離れようとした。そんな乱太郎の頭を撫で、雑渡は優しく言葉を発した。
「乱太郎くん、今日は一人なんだね。」
「あ、えっと、保健委員長の善法寺伊作先輩が長期任務中なので、私が当番なんです。」
 そうなんだねぇ。まだ一年生なのに一人で当番なんて偉いじゃないか。と雑渡は褒めながら、乱太郎の目の下にある薄く残っている隈をなぞった。それにくすぐったいです。と笑うと、ごめんごめんと雑渡は笑みを溢しながら、乱太郎の手を引っ張って自分の方に寄せた。うわっ。と思わず尻もちをつくと、雑渡はそのまま膝の上に乗せる形で乱太郎を抱えた。
 突然のことに戸惑っていると、雑渡は悪びれる様子もなく、むしろ乱太郎が暴れることを防ぐように片腕でギュッと腰を拘束した。普段、体格のいい人に抱っこされることがあまり無い乱太郎にとっては身動きができなくなるほどの力加減ではないが、その気になれば抵抗できないだろう。
 それに気づいた上で、雑渡はあえて力を加減してくれていることを乱太郎は知っており、さらにそこまで考えて行動している彼に対し、少しだけ怖いと感じてしまう。それでもそんなことを微塵も表に出さず、乱太郎は雑渡に話しかける。
「あのー?雑渡さん?」
「なぁに?」
なんで私は雑渡さんに抱えられてるんでしょうか?」
「ん~、こうしたら君とお話できるかなと思って。」
お話ですか?」
そうそう。きみとはなかなかゆっくり話をする機会がなかったからね。だから、しばらく私の相手をしてくれると嬉しいんだけど。」
 駄目かな?と言われてしまえば、断ることなんて出来ない。それにこう見えて雑渡は忙しい身であるのを知っているから、こんなことを誰彼構わずする人ではないと分かっているので、ならばここは大人しく甘えておこうと思い、分かりました。と返事をすると、ありがとう。と言ってまた頭を撫でられた。
 雑渡の大きな手に撫でられるのは嫌いじゃないので素直に受け入れる。素直に撫でられている乱太郎を見て、雑渡はまるで警戒心むき出しだった子猫がやっと自分に懐いて身を預けてくれたような感覚に陥ってふふ、と笑みを零してしまった。
?なにか笑う事でもありましたか?」
「ふふ、ううん、何でもないよ。さあ、乱太郎くんの面白い話を聞かせて?」
?はぁい。」
 それからはふたりで他愛のない他愛のない話ばかりした。最初は机の上に散らばっている乱太郎が描いた薬草を模写したものの話から、乱太郎の担任である土井半助と、昆奈門の部下である尊奈門の勝負の行方など、乱太郎の口から話題は尽きることなくどんどん溢れ出てくる話を雑渡は乱太郎の頭を撫でながら微笑み、相づちを打ちながら聞いていた。    
 そして、小一時間経った頃だろうか。頭をずっと撫でられていたことと、この一週間二年生一人と一年生二人で医務室を回さないといけないという責任感からきている緊張の糸が雑渡と話していたことで途切れてしまったのか、次第に乱太郎の瞼は重くなっていった。それに気が付いたのか、雑渡がどうしたの?と問いかけた。
すみません……。」
「あれ、眠いの?」
……ぃぇ……。」
「乱太郎くん、そんなに眠いのなら、寝ちゃったら?」
「いえ……だいじょうぶです……。」
 だって、わたし、保健委員ですから。といつもの決め台詞を言いながら、雑渡は自分の胸板に顔を埋めてうつらうつらしている乱太郎を見下ろす。きっと彼のことだから保健委員という役割を果たしたい一心で眠気に抗っているのだろうが、目の下にある隈を見る限り相当疲れているはずだ。
 そんな状態で仕事を続けても碌なことにならないことは火を見るよりも明らかだ。そう思い、乱太郎が寝やすいように抱え直すと、最初は睡魔に抗っていたものの、彼の背中をぽん、ぽんと規則正しく叩いてやれば、瞬く間に雑渡の着物の裾を握ったままスヤスヤと規則正しい寝息を立て始めてしまった。
 乱太郎の目の下にある薄い隈をなぞりながら、小一時間前に彼が持っていた自分に対する警戒心が今はかけらもないことに少しだけ呆れている自分もいる一方で、その警戒心のなさに嬉しいと、絆されている自分もいて、そんな自分になんだか呆れてしまって無意識に笑みが零れる。
はぁ、このままタソガレドキに連れ帰ってしまいたい。)
 なんて考えてしまうほどには警戒心なく己の腕の中ですやすやと寝ている眼鏡をかけた少年に心を奪われているのだ。そうと決まれば善は急げだ。とよっこらせ。と声を出して重たい腰を持ち上げようとすると、雑渡のもとに多方面から殺気が飛んでくる。立ち上がろうとした腰を下ろして、殺気が飛んできたのだからもしかしたら己の腕にいる彼が起きてしまったのではないだろうかと腕の中にいる子どもを見つめると、先ほどと変わらぬように目を閉じたまま、寝息を立てているではないか。
本当に気楽でいいねえ、きみは。」
 すやすやと眠る彼の額にひとつキスを送ると、またざっとのもとに殺気が飛んできて雑渡は挑発をするように次は頬にキスをした。連れて帰るのが無理なのなら、自分の迎えが来るまでいや、この腕の中に眠っている彼が目覚めるまでこうして腕の中に抱いていたらきっと誰にも邪魔されることなくひとりじめできると考えた雑渡は、にたりと笑って、度々飛んでくる殺気に気にすることなく、乱が起きるまで様々なところにキスの雨を降らせていくのであった。