匣舟
2026-04-06 21:39:40
4366文字
Public RKRN
 

ロマンチックの作り方

冬リクで頂いた兵乱で天体観測をするふたりを書かせて頂きました。現パロです。
リクエストありがとうございました😊

 十二月の半ば、季節は秋から冬に完全に移行し、ぴゅう。と容赦なく冷たい風が乱太郎を襲う。首に巻いたモコモコのマフラーと、モッズコートを着ているのに乱太郎の身体の中にその隙間風が入ってくるから寒さのほうに軍配が上がっているらしかった。
さむい。」
「さむいね。」
 乱太郎と彼の隣にいる兵太夫が同時に同じ言葉を口にした。二人が言うように、今日という日は本当に十二月に入ってから一番の寒さなのである。日中も気温が一桁で、夜が近づくにつれて気温が氷点下に近づいていくことからもしかしたら雪が降るのではないか。と言われているほどの寒さである。
 雪が降るのは嬉しいけれど、寒いのは好きじゃないので暖かくなってほしい。できれば、春か秋だけで季節が巡ってほしい。そんなバカなことを考えながら、乱太郎は兵太夫と手を繋ぎながら日課である夜の散歩に来ていた。
 乱太郎が夜の散歩を始めたのは、大学からの帰り道に空を見上げたのが始まりだった。朝起きて、大学に行って、ゼミに行ってゼミのない日はバイトをして。毎日のように忙しく過ごす自分の目には自然や空を見る余裕なんてなかった。
 毎日が同じことの繰り返しで、色味も何もない毎日に飽き飽きとしていたところで乱太郎は見つけたのだ。夜空に輝く無数の星たちを。
 いつぶりだろうか、こんなに綺麗な夜空を見たのは。空に浮かぶ無数の星が、まるで宝石のように光輝いていた。それがとても美しく、綺麗で、その瞬間から乱太郎の目に世界は鮮やかに色付いたのだった。
 それ以来、乱太郎は毎晩、時間がある日は夜の散歩をしている。特に冬の空気が澄んで星がよく見える今の時期は乱太郎にとって至福の時間なので、どんなに寒くても、防寒対策をきっちりして毎日飽きることなく星を眺めるのだ。
 毎日のごとく夜の散歩に出かける乱太郎に、兵太夫はまた行くの?と外の寒さに毎回苦い顔をしながらも、乱太郎が外に出ようと玄関のドアノブを回す前に外に行く準備をして、しょうがないなあ。と目を細めながら夜の散歩に付き合ってくれるのである。
 さっき、春と秋だけで季節が巡ってほしい。なんて言ったけど、やっぱり冬もなくちゃだめだな。と乱太郎はまた思った。
何考えてるの?」
「ん?あぁ、春と秋だけでいいって思ってたけど、冬も星が綺麗に見えるからいらないって言えないな。って思って。」
「ふーん、まぁ確かにこの時期の星は綺麗だけど……。」
 乱太郎の隣を歩いていた兵太夫が、ふわっと頭上に視線を向ける。乱太郎もそれに倣うようにして顔を上げるとそこには暗闇に無数に散りばめられた宝石のような星たち。昼はまだ暖かいけれど、夜になると極端に気温が下がるこの季節。冷たく澄んだ空気がより星を強く照らす。
「うん、乱太郎が言うように星は綺麗。でも寒くて布団から出たくなくなるから、僕はやっぱり春か秋がいいな。」
「そうだよねぇ。やっぱり寒いのは嫌だよね。」
 今もこんなに寒いし。と兵太夫の言葉に頷いて賛同する乱太郎に目の前の彼はでも、と乱太郎を見て微笑みながら言葉を続ける。
「でも、乱太郎と一緒なら外に出ても悪くないかも、ね?」
 兵太夫が柔らかく乱太郎に目線を向けながら笑みを浮かべながらそう言った。さらっとこういうことを言うから、乱太郎はたまったものではないのだ。恥ずかしくて俯けば、頬が桃色に染まっていくのを感じる。
「な、なんで、いま!そういう事を!言うの!」
本心なのに。こういうことを急に言う僕は嫌い?」
「嫌いなわけない!」
 デレるのが急すぎる心臓が持たなくなるの。と胸を押さえながら言うと、はいはい。と言いながら、乱太郎の頬を撫でる兵太夫を見てまた心臓が高鳴るのを感じる。ほんとにこういうところがずるいんだよなぁ……。と思いながらも、兵太夫に手を引かれるがままに歩き出すのであった。
 ふたりの目的地は兵太夫と乱太郎が住むアパートの近くにある小さな公園。この公園の近くを川が流れているので、ここに来れば綺麗な水面と星空を楽しめるのだ。
 天気が良ければ、川の水面に綺麗な星空が鏡みたいに映るのでここは近所の公園の中でも乱太郎のお気に入りスポットの一つであった。しばらくふたりで手を繋ぎながら歩くと公園に着いて、早速お気に入りスポットである川へ向かってみるとキラキラと水面に反射する星空が見えた。
 川岸へ近づいてしゃがみ込むと、水面がゆらゆら揺れている。その川の水面に触れるとやはり川の水は冷たくて、指先が冷えてピリッと痛みが走るけれど、それ以上に水面に映る星空が美しくてつい夢中になってしまう。
……キレイ。」
 ぽつりと言葉を零す。まるで独り言のような声だったけれど、隣に立っていた兵太夫には聞こえたようだった。あぁ、本当だね。そう呟いた彼の横顔も星空に負けないくらい美しくて、思わずドキリと胸が高鳴ったのだった。思わず兵太夫に見惚れていると、彼の瞳の中にきらり。と何かが輝いた。思わずバッと振り返って夜空を見上げると、夜空に流れ星がきらりと輝いたのが見えた。
「あっ……!」
「どうしたの?」
「ほら!流れ星!!」
……あっ、ホントだ」
 乱太郎が指差す方向には流れ星がきらり、と夜空に流れていた。流れ星を見ることができて嬉しくなり、興奮しながら兵太夫の服の裾を掴んでガクガク揺すると兵太夫は少し呆れた様子を見せながらも乱太郎を抱き寄せたのだった。
 兵太夫の腕の中で乱太郎は改めて空を見上げる。するとまた流れ星が一筋。それはまるで流星群のように何個も、何個も。今まで見たことがないくらいに流れ星が輝いていた。あまりにも幻想的な光景に息を呑んでいると、兵太夫が囁くように話しかけてきたのだった。
「乱太郎。」
「ん?」
「ほら、流れ星に願い事しなくていいの?」
「え……、あ、そっか!」
 兵太夫の言葉にハッとしたような顔をする乱太郎。流れ星を見るのに夢中でそんなことは彼の頭から抜け落ちていたのだ。兵太夫からそう言われてみればそうだと改めて思い直して慌てて願い事を考える。えーっと……。と悩んでいると、また星空に流れ星がひとつ。
 夜空に煌めく流れ星を見て急いで考えてみるのだけれど、星を見ることしか考えていなかった乱太郎の脳には急に願い事を考えよ!という緊急ミッションが降りかかってきたものだから、考えがまとまらず焦りだけが募っていく一方だった。
 うーん、と唸る乱太郎の脳内に一つある願い事がよぎって、すぐさま無数にきらきらと夜空を駆け巡る流れ星に向かって目を閉じ、両手を合わせて祈った。兵太夫はその様子を愛おしそうに見守りながら、乱太郎の肩をそっと抱いて問いかける。
……何をお願いしたの?」
「え、単位を落とさず卒業できますように。かな?」
「うわあ、現実的過ぎる。」
「だってえ、とっさに浮かんできたのがそれだったんだもん。」
……まあ、そうなんだけどさぁ。」
 もうちょっとロマンチックなお願いはできなかったの?たとえば、ずっと僕と一緒にいられますように。とかさあ。と不貞腐れたような表情で拗ねている兵太夫を見てクスリと笑ってしまった。
 ふふ、と隣で笑う乱太郎になんで笑うのさ、お前の彼氏様は傷心中なんだけど~?とじとっと睨まれてしまう。そんな彼を見て乱太郎はまたくすりと笑って、兵太夫の手に指を絡めながらこう答えた。
「だって、流れ星に魔法をかけてもらわなくたって兵ちゃんが叶えてくれるでしょ?」
 乱太郎の言葉に兵太夫は虚を突かれたようで、驚いたような表情をしていた。けれど、すぐに口元に笑みを浮かべ、乱太郎の身体を引き寄せて腕の中に収めた。それに応えるように乱太郎も兵太夫の背中に自分の腕を回す。
 ぐりぐり、と兵太夫の肩に額を擦り付け甘えるような仕草を見せれば、彼はさらに強い力で抱きしめてくる。それが嬉しくて乱太郎は更に彼の胸元に顔を埋めた。互いの心音と体温を感じられるほど密着しているこの状況。互いの匂いに包まれているこの状況は心地が良く、永遠に続いて欲しいと思ってしまうほどだった。どれくらい時間が経ったのか、兵太夫が口を開く。
「当たり前じゃん。乱太郎が望むなら何だって叶えてあげるよ。」
「ふふ、兵ちゃんならそう言ってくれると思った~。」
 ありがとう。と言う代わりにぎゅうっと力を込めて抱き締めると、応えるように背中に回された腕の力がさらに入った気がした。
 暫くの間、ベンチで座りながら星を見ることなくお互い何も喋らずにただただ抱き合っていた。ふたりの周りには静寂が訪れていたが、この静寂も居心地が悪いものではなく寧ろふたりにとって心地よいものであったため、乱太郎はこのまま時間が止まってしまえばいいのに。と冗談のようなことを考えながら抱き合っていた。でも、そんな時間も長くは続かない。
……そろそろ帰ろうか。」
 風邪をひいちゃいけないからね。兵太夫が名残惜しそうにそう言いながら身体を離すと、乱太郎は少し寂しさを感じながらも兵太夫から体を離した。離れ際、名残惜しそうな顔をしている乱太郎に兵太夫はふっと微笑みながら乱太郎の耳元で囁いた。
らんたろ。」
っ!?」
 熱を孕んだその声色にピクリと肩を震わせると、兵太夫の唇がゆっくりと耳元に触れる感覚があって。乱太郎が戸惑うように視線を彷徨わせていると、吐息交じりの掠れた声でこう言った。
「そんなに寂しそうな顔しなくても、部屋に戻ったらさっきの続き、してあげるってば。」
 だから、早く行こうか。その言葉の意味を理解するよりも早く、兵太夫は乱太郎の手を取って歩き出した。兵太夫がどんな顔をしているのか分からないが、きっと意地悪そうな笑みを浮かべていることだろう。その証拠にいつもより弾むような足取りだったし、顔を見なくても分かるくらい意地悪そうにニヤついている雰囲気を隣の彼から感じ取ることができるからである。
 そんな彼に早く早くと急かされて手を引かれながら、乱太郎はちらりと後ろを振り向く。川の水面には先程と同じように星空が映っていて、時折、また流れ星が夜空を流れていっていた。それをもう一度見届けてから前を向き直すと、こちらを見て微笑む兵太夫の姿があった。
 その表情があまりにも優しくて愛おしげなものだったので、乱太郎はまた胸がドキリと高鳴るのを感じ、そのまま兵太夫の手をぎゅっと握ると、彼もまた同じように握り返してくれた。それがなんだかとても嬉しくて、心がポカポカとするような気持ちになりながらふたりの愛の巣であるアパートへと戻るのだった。

ワード:魔法をかけて・冗談・しかたない