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ポほ
2026-04-06 21:33:15
6051文字
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跡取り息子、やめました!?
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お正月B面
りやめ三学期編第2話。
畳めるのかこれ?(素)
タフ営業やめようね
富谷にある赤星家では、新年会が開かれていた。真冬を中心に、狐の面をつけた一団が、昼間から酒を酌み交わしている。
次期当主
――
というか、他に門下生もいないため、嵐士も半ば強制的に参加させられ、隅の方でジュースを飲んでいた。
(それにしても、なんでみんなお面なんや?外出るわけでもないんやし、外してもええやろ
……
)
「嵐士。宗真の様子はどう?あのあと、いきなり男の子に戻ったりしてないでしょうね?」
真冬に近況を聞かれる。
「いや、あれ以降はそのままです。
……
あ、宗真くんといえば。男の子と付き合い始めたらしいですけど、かあさん的にはええんですか?」
「なんてこと
――
!?」
狐の面に隠れて表情はほとんど見えないが、その声色からして、明らかにただ事ではない。
(あーあ
……
吉田くん、気の毒にな
……
。まあボクも宗真くん周りでは隠し事できへんし)
「
……
最高じゃない!」
「へ?」
「宗真が、それだけ“女の子でいること”を受け入れてるってことでしょう?だったら、男の子にも戻りにくくなるでしょうし
……
その相手の子には感謝しないとね」
(かあさん、彼氏大歓迎派やったんか
……
)
「で、どんな子なの?」
「えーと
……
宗真くんとは小学校からの幼なじみで、まあボクほどじゃないですけど、勉強も運動もそこそこできるサッカー部の子で
……
あと、ボクと同じマンションに住んでますね。不器用ではありますけど、悪い奴ではないと思います」
「ふーん
……
?いつかその子にもご挨拶したいわね」
(冗談だよな
……
?)
「で、名前は?」
「吉田 樹くん、といいます」
「吉田 宗真
……
月城 樹
……
」
「あの、かあさん?」
「月城 樹の方がしっくりくるわね。でも、あの家に婿入りしたらあの男がうるさそうだし、
義姉
あね
も二人いるしで
……
吉田くん、大変かもね」
(何言ってるんや、この人
……
)
やがて新年会はお開きとなり
――
嵐士は大量の切り餅を持たされ、車で幸町のマンションまで送り届けられた。
(かあさん、「引き続き宗真のことよろしくね」って
……
いやもう宗真くん、吉田くんとベッタリやん。ボク、やることある?
……
まあ今さらここを離れたいとまでは思わんけど)
未成年ゆえ酒は飲めない。そのせいで常に酔っ払い連中の世話を焼き、真冬の愚痴を聞き、宗真の近況報告をし
――
赤星家では、どうにも“下っ端寄り”のポジションに収まっている嵐士にとって、あの場はあまり心の休まる場所ではない。
ようやく自室に戻り、ひと息ついた
――
そんな夕方のことだった。スマホが、震える。
(誰や
……
まさかかあさんやないやろな
……
)
画面に表示された名前を見て、少しだけ意外そうに眉を上げる。
――
海成だった。
「なんや江沼くん。電話なんて珍しいな」
「
……
今から、君の家に行ってもいい?ちょっと話したいことがあって」
「え?ボク、やっと実家から帰ってきてのんびりしとるとこやったのに
……
」
「
……
そうだよね。ごめん」
(
……
でもなんか、おもろいことになりそうな気もすんな。どうせ暇やし)
「ま、一緒にデートした仲やし、ええけど。ただ、ボクの家いま餅しかないで?」
「ありがとう。お菓子とか持っていくね」
海成は部屋に入るなり
――
堪えていたものが決壊したように、泣き出した。
「江沼くん!?なんや、いきなり泣き出すなんて
……
宗真くんと何かあったんか?」
「初詣に行ったら
……
吉田くんと宗真くんと、鉢合わせて
……
」
「あー
……
そらダメージでかいな
……
」
「僕、なんとかその場では耐えてたんだけど
……
やっぱ一人で抱えきれなくてさ
……
」
「そりゃ大変やったな
……
あ、買ってきてくれた飲み物、開けてええよ?」
「うん
……
」
嵐士が差し出したティッシュで鼻をかみ、海成は何度か深呼吸をして
――
ようやく少し落ち着いたらしい。
「あの二人がっていうのは
……
もう、どこかでは分かってたはずなのにね
……
」
「いや、それだけ真剣やったってことやろ。江沼くん、真面目やしな」
「
……
情けないとこ、見せちゃったね」
「いやいや。そら新年早々、そんなもん見せられたら
……
なあ?」
「君ってさ
……
本当は優しいよね。最初会った時は、宗真くんに意地悪な感じだったから、僕もちょっと嫌なこと言ったりして
……
ごめんね」
「まあ、あん時はどうにか宗真くんの様子探ろうとして、我ながら強引なやり方しとったしな。悪いのはボクや。宗真くんともども、すまんかったな」
「いいよ。きっと宗真くんも、もう許してるだろうしね。
……
それにしても、赤星くんの家って片付いてるんだね。」
「まあ、引っ越してまだ二ヶ月ちょっとやしな。流行りのミニマリストってやつか?
……
いや、もうそんな流行ってへんか。そもそも私物がそんなにないしな」
「前は富谷にいたって聞いたけど、本当?」
(宗真くんのこと忘れたいんか知らんけど、ボクの話させられんの、なんかくすぐったいな
……
)
「まあ
……
な。なんや江沼くん、ボクにそんな興味あったんか?」
「いや
……
正直そうでもないけど、今は色々と関係ない話でもして、気を紛らわせたいっていうか」
「
……
ほんま正直やな、江沼くん。ある意味、吉田くんなんかよりよっぽど生きやすそうや」
「よ、吉田くん
……
?」
(やば。油断した
……
)
嵐士の表情がわずかに強張ったのを察したのか、海成は苦笑して、ぽつりとこぼした。
「
……
いいよなあ、吉田くんは」
少し間を開けて。
「結局さ
……
宗真くんは、ずっと吉田くんのことを見てたんだよな。なのに僕は
……
宗真くんのことを
……
その、あまりよくない目で見るばかりで。それこそ、変な夢まで見たりしてさ
……
」
(
……
この話、あんま掘り下げん方がええか?)
「
……
何がいけなかったんだろう」
「江沼くんは何も悪くないって。ていうか、頭もええし背も高いしシュッとしてるし
……
海成くん、モテるんちゃうの?告白されたこととかあらへんの?」
「どうかな。いたかもしれないけど
……
宗真くん以外を女子として見てなかったから、覚えてないや」
(こいつ
……
案外タフなんちゃうか?ボクが話聞いてやらんでも、そのうち立ち直りそうな気もするな
……
)
「江沼くんは、宗真くんのどこが好きやったんやろね?」
「えーと
……
可愛いところ」
「まあ、それは認めるけど
……
」
「
……
でも、それだけじゃないよ。僕と最初に会った時は、宗真くん
……
男の子だったし。いや、男の子でも可愛いけどさ」
「新月の日、か」
「うん。その時に、図書委員の仕事を手伝ってくれて、友達になったんだ。僕、中一になる春休みに仙台に来たばかりで、その頃はまだ知り合いもいなくてね。だから、宗真くんが話しかけてくれたのが
……
本当に嬉しくて」
「へえ。じゃあキミは、あの子のガワやなくて、先に中身に惚れてたんか」
(意外
……
とまでは言わんけども)
「そういえば、その時
……
呪いについて調べてほしいって頼まれたりもしたな。宗真くん、その頃は女の子でいるの、嫌だったみたいだけど
……
結局僕は、何もしなかった」
「なんで?」
「
……
本当に呪いが解けて、“女の子の宗真くん”がいなくなるのが、寂しかったから」
「海成くん、それ
……
ほんまに宗真くんのためになるんか?ボクには
――
」
(
……
なんで、かあさんといい、宗真くんの周りはこんなんばっかなんや)
気づかぬうちに、嵐士の声は少し強くなっていた。
「
……
そうだね。それは僕のわがまま
……
エゴだ。でも、宗真くんが女の子になってから積み上げてきたものを、全部なかったことにするのは違うと思って」
「そうやって放っといた結果、宗真くん自身が女の子の方が居心地良くなっとるやんか。その証拠に、吉田くんと堂々とイチャイチャしとるし」
「赤星くん。
――
何が、言いたいの?」
「
……
何が言いたいか、か」
一拍、間を置いて
――
嵐士は小さく息を吐いた。
「ボクが言うのもなんやけど、呪いってのは、本来あってええもんちゃう。あれは
――
誰かの都合で押し付けられたもんや」
ほんのわずか、視線を逸らす。
「そこに宗真くんの意思があったか?周りと、宗真くん自身が『まあいいや』って受け入れて、今の形に、なんとなく落ち着いとるだけや」
「
……
でも、それで宗真くんが今、幸せなら
……
」
「それ、宗真くんが“自分で選んだ幸せ”なんか?」
海成は、言葉に詰まる。
「まあ、仮に呪いを解いたとしても、その上で宗真くんがどうしたいかまでは保証できん。でも、江沼くんが宗真くんの幸せを本気で願うんなら
――
」
「ねえ、赤星くん。君は
……
何を、どこまで知ってるの?」
「
……
」
「さっきから、何の話をしてるの
……
宗真くんを呪ったのって、赤星流の人なんでしょ?でも赤星くん
……
いや、嵐士くんは、まるでそれを止めようとしてるみたいじゃないか」
「あー
……
キミ、いつの間にか涙引っ込んどるやん」
「誤魔化さないでよ。
……
話すまで、帰らないから」
「はあ
……
江沼くんには、かなわんな」
観念したように肩をすくめ、嵐士はぽつり、ぽつりと語り始めた。
――
自分の知る、すべてを。
嵐士の“かあさん”。正確には、血のつながりのない義理の母
――
赤星真冬。その正体は、旧姓・月城真冬。宗真たちの、実の母親だ。
宗真の教育方針を巡って、夫・宗二と対立。宗真がまだ三歳にもならない頃、月城家を出た。その後、身分を隠して赤星家に転がり込み、やがて当主の座にまで上り詰める。
そして
――
「跡継ぎになれない身体にする呪い」。
それを完成させるまでに、費やした時間はおよそ十年。実行されたのは、去年の三月。宗真が中学に上がる、春休みのことだった。それ以来、真冬は主に学校行事の場で宗真達の前に姿を現し、あるいは嵐士を通して、その様子を見守り続けていた。
話し終えた部屋に、しばらく沈黙が落ちた。時計の針の音だけが、やけに大きく響く。
「
……
それ、全部
……
本当なの?」
「嘘ついてどうすんねん。ボクにとっても、あんまり笑える話ちゃうしな」
海成は俯いたまま、ぎゅっと拳を握りしめる。
「
……
そんなの
……
そんなの、おかしいよ
……
」
ぽつり、とこぼれた声は震えていた。
「だって、自分の子どもに
……
“跡継ぎになれない身体にする呪い”なんて
……
」
「
……
せやな」
否定も、擁護もせず。ただ、短く相槌を打つ。
「宗真くんは
……
それ、知ってるの?」
「
……
全部は、知らんやろな。少なくとも、“誰がやったか”までは」
海成は顔を上げた。
「じゃあ、教えなきゃいけないじゃないか。本当のことを
――
」
「待て」
その一言は、思ったよりも強く出た。
「それで、あの子がどうなるか考えたことあるか?」
「それは
……
でも
――
」
「ようやく“今の形”で落ち着いてきたのに、そこにいきなり全部ぶつけてみ?本当は宗真くんのお母さんが宗真くんの為にやってましたって。ショックなんてもんやないやろ」
海成は言葉を失う。
「ボクはな、全部正すのが正解やとは思っとらん。でも、このままでええとも思っとらん」
少しだけ、自嘲気味に笑う。
「
……
中途半端やろ?」
「
……
」
「せやけど、それが今のボクの立場や。止めたい。でも、壊したくもない」
「
……
じゃあ、どうするの?」
「
……
分からん」
即答だった。
「せやから、様子見ながら
……
あの子が“自分で選べる状態”に持っていくしかないと思っとる」
「自分で
……
選ぶ
……
」
「せや。“男に戻る”んか、“女のままでおる”んか
――
それとも、もっと別の答えか」
嵐士はまっすぐ海成を見る。
「それを決めるのは、宗真くん本人や。誰の理想も願望も押し付けるもんやない」
海成は、しばらく何も言えなかった。やがて
――
小さく、息を吐く。顔を上げたその目には、さっきまでとは違う光が宿っていた。
「僕、宗真くんと
……
ちゃんと向き合いたい」
「
……
」
「今度は、“自分のため”じゃなくて、宗真くんのために」
嵐士は、ほんの少しだけ目を細めた。
「
……
上出来やん」
「でも
……
具体的にどうするの?僕としては、樹くんを引き込みたいって思うんだけど」
「お、ボクも同じこと考えてたわ。江沼くん、やっぱ頭ええんやね。ただ、今の吉田くんはな
……
」
「『宗真くんとの距離が近すぎる』
……
か」
「
……
うん。せやから、例えば江沼くんが“今の宗真くんの幸せがどうこう”って話したとしても、『妬いとるだけ』って受け取られかねんやろ」
「う
……
耳が痛いけど、そうかも。
……
あ、そういえば前に、樹くんの方から『呪いの調査、どうなってる?』って聞かれたな。九月くらいだったかな
……
まだ君が来る前の話だけどね」
「それで、キミはなんて答えたんや」
「
……
さっきと同じだよ。“このままでいいんじゃないか”って。てっきり、軽蔑されると思ったんだけど
――
」
違った。あのとき、吉田樹は理由こそ明かさなかったが、「俺も、たぶんそっち側だ」と言ったのだ。
「
……
まあ、理由までは教えてくれなかったけどね。樹くん、ああ見えて
……
女の子の宗真くんのこと、気に入ってたのかな
……
?」
「さあな。でもなぁ
……
ボクも吉田くんからは未だに警戒されとる気ぃするし。今はとにかく、あの二人を引き離して話すチャンス作るしかないか」
「平日、樹くんの部活の後とかどうかな。宗真くんはほぼ帰宅部だけど、樹くんはサッカー部だし」
「ええな。じゃあ、とりあえずその辺から狙ってみるか
……
」
少しだけ、空気が現実的な方向へと動く。
「でも
……
そんなに動いて、“かあさん”って人
……
いや、宗真くんのお母さんは、怒らないの?もし赤星の家で立場が悪くなったら
……
君、行くあてあるの?」
「まあ
……
なんとかなるんちゃうか?ていうかなんなら今でも、かあさんとスマホで位置情報共有させられとるしな」
「え
……
?そんなに束縛されて、嫌じゃないの?まさか
……
盗聴とかは
……
」
「さすがにそこまではされてへんよ。まあ、キミらからしたらおかしいよな。でもボクにとっては、それが当たり前やったから
……
今さらや」
「
……
僕は、宗真くんもだけど。君のこともちょっと心配だよ。そもそも中学生に一人暮らしさせてるのも、どうなのかなって思うし
……
」
「
……
江沼くん」
一瞬だけ、間が空く。
「え?」
「キミのこと、宗真くんに執着しとる気の毒な優等生やと思っとったけど
――
宗真くんが絡まんとこでは、ずっとまともで、ええ奴やったんやな」
「
……
なんか引っかかる言い方だけど。まあ、素直に受け取っておくよ」
「いざとなったら海成くんとこにお世話になるかなぁ」
「そうしたいのは山々だけど、僕んちそんな広くないから
……
」
「いや、冗談やって」
ふっと空気が緩む。けれど
――
二人の中で、何かは確実に決まり始めていた。
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