フリンズさんと髪を混ぜてみた話


「フリンズ、いま暇ぁ? ……じゃないね」
「おや、こんにちは」

 暇を持て余して彼の居室となる地下室へ訪れたのは良かったものの、暇つぶし相手予定のフリンズは――仕事中だった。声をかけてしまった彼に手招きされたので、地下へ続く階段を降りてフリンズの隣までトコトコ歩く。
「あー、また報告書だらけじゃん。イルーガに怒られる奴だよね、これ」
「はは、すでに怒られてます」
「いや開き直っちゃダメでしょ」
 机の上を見てみると、彼のランプと書き終わりが数枚と……白紙の紙がまだまだ積み重なっていた。これは長くなりそうだ。
 
……突然来て悪かったね。忙しそうだし出直す――
「っ、お待ちください」
 
 言いかけた言葉は上書きされ、身を乗り出したフリンズに私の腕を掴まれる。
……なに? それ終わらないと、私までとばっちりでイルーガに怒られそうなんですけど」
「そんなことにはなりません。終わらせますので」
…………なら、私いない方がいいじゃん?」
「いえ、ここに居てください。報告書も捗りますので」
………
 ――そんな訳なくない?と思って首を傾げる私を置いて、うんうんとフリンズは真面目な顔して一人頷いていた。


「それ、で。なーんで、ここに……?」
「貴女の定位置の一つでしょう?」
「そんなことある??」

 どうせ暇だし報告書終わるまで待っててあげてもいいよ――とは言ったものの……、待機場所がフリンズの膝の上だとは思わなかった。
 彼が「どうぞこちらに」と言いながら膝をポンっと叩くので、それはちょっと……と身を引いた途端に、ひょいっと横抱きに乗せられた。さすがに人ひとりを長い間膝に乗せておくのは疲れるのでは……と思うところではあるが、彼がそうしたいと言うし、別に私も用事がある訳ではなかったので、このままでもいいか……と思うことにした。
 フリンズの部屋に置き忘れていた読みかけの小説を、彼の膝の上で読み進めていると、書類を書く時のカリカリという小さな心地よい音が聞こえるし、少し目線を上に上げるだけでフリンズの綺麗な横顔が見える。……これはこれで、良い休日かもしれない。

 次の報告書を取るために、フリンズが少し体を傾ける。すると、彼の綺麗な髪の毛が、手元の小説の上をサラサラと滑った。これじゃあ本は読めないぞ……と、彼の顔を盗み見ようと私も頭を動かした。
 その時、フリンズの長髪に憧れて伸ばしている私の髪と、彼の髪の毛が重なった。その合わさった二色が、彼のランプの灯りを伴って綺麗なコントラストを生み出した。
 ――その時、ある遊びを思いつく。

 

「一体、何を……しているのですか?」
「あ、気付かれた。くすぐったかった?」
「いえ、そう言う訳では……ありませんが」

 気付かれるのは時間の問題だとは元々考えていたけれど、ここまで進められていれば、もし彼に動かれてしまっても、もうどうと言うことはない。
「今ね、三つ編みをしてるの」
「それは見れば分かります、ですが……
「綺麗でしょ? 二色で出来た三つ編みって」
 途中経過を彼に見せるために持ち上げてみる。それは、フリンズの蒼髪と私の髪を混ぜて作っているところだ。お互い髪の毛が長いので、暇つぶしにはもってこいの長さだ。
 
……まぁ、貴女の好きにしてくださって構いませんが」
「やったぁ。――あ、報告書は? 進んでるの?」
「えぇ、滞りなく。膝の上で応援してくださる方がいますので」
「応援……できてるかなぁ」
 あはは、と私が笑うと、ふふっと彼も笑った。そうして彼は報告書へ、私は三つ編み作成に専念することにした。


 ◆ ◆ ◆


…………おや?」
 ふと目線を下に向けると、先程まで元気だった彼女が僕の胸に寄りかかり、スゥーと寝息を立てていた。その様子に釣られて、僕も深い息を吐いて、持っていたペンを音を立てないように一度机に置く。
 彼女が楽しそうに、それでいて一生懸命作っていた三つ編みを持ち上げ、結ばれた僕と彼女の髪と、穏やかに眠る彼女の寝顔を少し眺めた。
 相変わらず自由で、猫のような方だ――僕は動物には好まれないと言うのに。
 ……さて、彼女が起きる前までに、早く書類仕事を終わらせるとしよう。
 

 ◆ ◆ ◆
 

 ――――あっ、いま寝てた。
 
 自覚したと同時にパチリと目を開ける。すんごいよく寝てた気がする……けれど、ここは、どこだっけ。丸まって寝てたらしく、首が少し痛い。身じろぎして、固まった首を伸ばそうと顔を持ち上げると――

「お目覚めですか?」

 真上――というか、耳元でフリンズの声がした。
 え、あ、そうだ、私、フリンズの膝の上で……⁈ と、ハッとして一人慌てて飛び起きようとしたが、その前に彼の指が私の喉元を伝い、顎を掬われ、上を向かされる。
「な、なに……?」
「今そのまま動くと、貴女が痛い思いをしますよ」
 ……え?と思いつつも、自分の髪の毛に何か引っかかっている感覚で、思い出した。そういえば、そうだった。
 チラリと横目で確認すると、私が作った二色の三つ編みが見えた。

……私が寝てる間に解いてくれても、よかったのに」
「ふふ、そんな無粋なことはしませんよ。それに、このままなら貴女は――ここから逃げられないでしょう?」
 フリンズは愛おしそうに目を細めて、上を向かされたままの私の唇に、キスを一つ落とした。

 

「この三つ編み、解くの大変すぎるんですけど、一体だれが作ったんだよ……
「ふむ、貴女しか居ないですね」
……えーと、はい……確かに。あ、そういえば報告書は、ちゃんと終わったの?」
「えぇ勿論、貴女が寝ている間に。――さて、少し疲れましたね。僕に昼寝の習慣はありませんが、せっかくなのでご一緒にいかがですか?」
……ご存知の通り、私は起きたばっかりなんですけど」
 


『互いに手繰り寄せて結んだ、このひとときを』