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tachi_aoi_0615
2026-04-05 23:13:38
801文字
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羽織/上着
かしへいワンドロ第三回参加作品
「先生!」
まだ大人というには少しばかり幼い声が道場に響いた。
「どうしたんだい、藤堂くん」
僕が声の主に微笑みかけると、彼は満面の笑みで応えた。
彼の腕の中には僕の羽織がある。
「先生の羽織、すごく大きいです!」
「ふふ、そうだねぇ。藤堂くんはまだこれから大きくなるかな」
僕の言葉を聞いて、藤堂くんは目を輝かせた。
「いつか、伊東先生よりも大きくなってみせますね。貴方をお守りできるくらい、大きく!」
「うん、期待しているよ」
腕に抱えられていた僕の羽織を、そっと彼に着せてやる。藤堂くんは喜びか緊張か、頬を赤く染めていた。
袖が大きく余っているし、裾も床を引いてしまっていた。
それでも嬉しそうに笑う彼がとても可愛らしかった。
「さて、大きくなるにはよく食べてよく動かなくてはいけないね」
「はい!」
藤堂くんは少し名残惜しそうに僕の羽織を脱いで、それから丁寧に畳んだ。
これからこの子はもっと大きくなるだろう。
僕がそれを見届けられるかは知れないが、まだまだ幼いこの子がいつか歩む未来が明るいものであるように、と僕は密かに祈りを捧げた。
『みんな、殺したくせに!』
本当に馬鹿だなあ。
笑いが込み上げてくる。
遠く隔てられた場所で、藤堂くんは悲痛な声を上げ続けていた。
いつの日かの祈りは全くの無駄だった。
これほど見事に打ち砕かれるとは。
……
本当に、馬鹿だ。
この子も、この子を囲おうとした新選組も、そして僕も。
あの時代にまともな人間なんていなかった。
ただ、それだけだ。
叶わなかったくせにまた祈るなんて、あまりにも不毛で滑稽だ。
「早く目を覚ましなさい、藤堂くん」
僕は君の傍にいない。もう、羽織を掛けてやれる距離にはない。
それでも、届かない言葉をつい口にしてしまう程には、画面越しに見る彼はあの日のままの、哀れな子供だった。
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