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悠環 彰
2026-04-05 23:04:59
2737文字
Public
MCU:バキサム
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エッグハントと記憶の国のアリス
バキサムと深層意識の森のエッグハント。
「イースター」のお題をお借りしようと決めたところからスタートして、色々趣味を詰め込みました。
※ミニイベント【#月いち36の日】掲載作
「いい、バッキー。絶対ムリはしないで、危なくなったら僕を呼んでね」
眉をハの字にしながら何度目かの注意をするボブに分かった分かった、と頷いていると目の前が真っ暗な闇に包まれる。ぱち、と一度バッキーがまばたきをすると、そこには一面の深い森が広がっていた。
「やっと来てくれたんだ!」
木々の隙間からぼんやりと空を眺めていたバッキーの視界に、突如にゅっと白い影が割り込んだ。驚いて飛び起きてみれば、傍らにちょこんと、少し金色がかった白い毛並みのウサギが立っている。
「
……
お前は?」
「いいから! サムを助けに来てくれたんだろ?」
しゃべるウサギに警戒をあらわにしたが、それどころではないと言わんばかりにまくし立てられてしまった。ずずいと顔を近づけられて、その剣幕に思わずただ頷く。
ある日、任務中にサムが突然倒れて目覚めなくなったとトレスからバッキーへ緊急連絡があった。何か人外の力で眠らされてしまっているらしい、というところまでは判明したのだが対処できるメンバーがいない。そういうわけで、藁にも縋る思いで連絡を寄越したのだという。
タワーに運び込まれたサムは、目を閉じてただ昏昏と眠っていた。さてどうするかと、まるで倒れた白雪姫を囲む小人のようにサムを囲んでそれぞれ悩んでいると、ふとエレーナが「ボブの力でなんとかならない?」と言い出した。ボブは最初無理だとぶんぶん頭を振ったが、例えば触れた人の過去を覗いたみたいに、寝ているサムの意識の中に潜り込んだりはできないかと言われてそれはもしかしたら可能かもと頭をひねり出した。
「俺が、サムを起こしに行く」
とりあえず他に手がないならやってみよう。そんな話になり手を挙げたのはバッキーだった。ボブはあまりサムと面識がないし、ここは一応誰より付き合いの長いバッキーが適任だろう。最終的に全員一致でバッキーを送り込むことに決定し、冒頭のような注意を何度も繰り返されながらこうしてサムの意識というか夢と言うかの中にダイブしたわけだった。
「サムに何があった。どこにいる?」
謎の白ウサギに問いかける。よく見れば人間の服を着ていて、まるで不思議の国のアリスだなと一瞬思ってしまったが、その場合アリスに該当するのはサムかバッキーかという疑問が浮かんでしまって、すぐにその思いつきを思考の向こうに追いやった。
「変な力が、サムの記憶をバラバラにして隠しちゃったんだ」
「記憶を?」
「それを、サムはずっと探してる。見つけるまでは現実の自分に戻れない」
なるほど、と未だ飲み込めないながらも曖昧に頷く。
「じゃあ、サムと一緒にその記憶とやらを探せば良いんだな」
「そう! ああでも、そのままの姿じゃすぐにこの世界から追い出されちゃうから」
そう言って、ウサギは上着の下から懐中時計を取り出し開く。カチカチという秒針の音が聞こえたと思ったら、急にバッキーの視界が低くなった。いったいなんだ、とうろたえる内に手が小さくなり、足が細くなっていることに気づく。
「お願い、サムをみつけて」
何をした、と問う前にウサギの焦った声と共に、ぐわっと足元に影が拡がった。と、一瞬の間の後にがくんと体が傾ぐ。
「みつけたら、一緒に探してあげて!」
落ちる。ウサギの声が暗い穴の中に響きながらどんどんと遠ざかっていき、バッキーはぐっと目を閉じた。
「
……
い
……
おい、大丈夫か」
どこか聞き馴染みのある声に揺り起こされる。うぅ、と唸りながら目を開き、先程のウサギのようにこちらを覗き込む姿を視界に捉え、バッキーは何度か目を瞬いた。
「おい?」
「
……
天使がいる?」
「アンタ、落ちた時に盛大に頭打った?」
チョコレート色の肌。くるりと丸い可愛らしい瞳がバランスよく配置された整った顔。細く華奢な首と肩。
「
……
サム、か?」
半信半疑で呼びかけると、胡乱げな視線でこちらを見ていた子供が一つ頷いた。
「まさか、アンタが俺を認識してるとはな。バッキー・バーンズ
……
いや、ウィンター・ソルジャー?」
幼い姿のサムが、こちらを少し警戒しながらそう言った。途端、先程謎のウサギが「サムの記憶がバラバラに」と言っていたのを思い出す。
「
……
バッキー・バーンズだ」
起き上がりながら名乗ると、僅かにほっと安堵した様子を見せた。ウィンター・ソルジャーの名前を出したということは、サムの記憶は少なくとも2014年程度までの分は無事だということか。
「俺は、お前を助けに来たんだ」
「アンタが? 俺を? なんで」
「それは俺がお前の、」
恋人だから、と言いかけて言葉を飲み込む。サムにとってバッキーの認識が死んだと思われていたスティーブの親友でヒドラに洗脳された暗殺者という記憶までしかないのなら、恋人だなんて言っても再び警戒されるか、頭がおかしくなったと思われるか、鼻で笑われるかだろう。
「
……
お前の、友人になったからだ」
「俺と、アンタが?」
「出会ってから何年も経ってからの話だ」
へぇ、と怪しむような視線で見られる。仕方がないと分かっていても、少し傷つく。早くサムの記憶を集めて取り戻さなくては。
「あぁでも
……
良かった。アンタ、ちゃんと解放されたんだな」
しかし次の瞬間には突然に、穏やかに笑って言うものだから、堪らなくなる。
「
……
俺の話はいい。記憶を取り戻せば分かることだ」
「ん、まぁそれもそうか」
わざとらしく咳払いをしつつ話を元に戻して立ち上がる。バッキーの言い分に、サムも頭を切り替えた様子だった。それにしても、記憶にあるサムと比べて本当に、子供の姿のサムは華奢だ。
「それで。サムの記憶とやらはどう探せば良いんだ?」
探すのを手伝うには、ソレがどんな形で隠されているのかを知らなくては。バッキーが問いかけると、ひょいとサムが肩を竦めて「卵だよ」と言った。
「卵?」
「そう。あるだろ、イースターの、エッグハント」
ああ、なるほどだからサムも、そして恐らくバッキーも、子供の姿にされたのか。なぜエッグハントなのかは分からないが、この姿でなくてはならない理由には合点がいった。
「ふざけた話さ」
ふ、と苦々しげに笑う、その小さな手を握る。
「じゃあ、卵を見つけてこんなふざけたところはさっさとおさらばしよう」
戸惑うサムの手を引いて走り出す。
「一人より、二人の方が早い」
そうだろ、とウィンクを飛ばしてやれば、一瞬ほっと安堵した表情をしたサムが、確かにと笑った。
その後。茂みの中や木の虚の中、枝の上の鳥の巣の中など散々走り回り、サムの記憶の卵を集めきって無事に二人は現実に帰還したのであった。
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