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Lupinus821
2026-04-05 19:56:43
4976文字
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ガス野良二次創作 ジエンのシンデレラパロ
言うほどシンデレラではない。夢オチ出オチ。
※原作と同等〜それ以上の関係性描写あり↓
ジエン→(←)リューイ
ホームズ→ワトソン
リューイ→靴
目覚めは埃っぽいベッドの上だった。
起き上がれば昔の仲間に囲まれて、昔と同じく言われるがままに雑用をこなしていた。
「留守を頼んだぞ、ジエン」
そう言う蔡さんに頭を撫でられたので、とりあえず今が夢の中だってことには気づいている。
蔡さん達は舞踏会に行くユイレン組長の護衛をしに行くらしい。ブトーカイ、って何だ? 俺を置いていくってことは汚れ仕事の類なんだろうが。
裸足に箒で空っぽの倉庫の中を掃く。これはどういう夢なんだろうか。過去を思い返してるにしちゃ細部があやふやだ。
ついて行きたいとは今更思わない。ただ一人で埃や灰を被っていると、どうしても虚しさが襲ってくる。
……
灰かぶり?
コンコン、と窓を叩く音がした。
「ジエンさん」
聞き慣れた声に振り返る。窓枠を飛び越えて外へ出ればそこには、
「
……
なんだそのカッコ」
「魔法使いです」
アビーは妙な黒フードを羽織り、妙な棒を振り回しながらいつものポーズを取っていた。
「魔法使いアビーです」
「繰り返さなくていい」
舞踏会。灰かぶり。魔法使い。ここまで揃ってようやくピンと来る。
そうだ、リューイが字を教わっているのをアビーと一緒に眺めていたんだった。そのうち教える側が「物語と一緒だと覚えやすいかもな」とか言い出して、リューイの好みに合わせたのか靴が出てくる昔の話をかいつまんで喋ってて
……
「舞踏会に行きたいのに行けない。そんな哀れな子猿、いえ子羊のために私という存在がいるのです」
「いや別に行きたいとは」
「師匠譲りの腕を振るいますよ。それっ」
話聞けよ。記憶が無さげでも性格は変わらないみたいなのはホッとするけど。
赤白模様のサーカステントみたいなカボチャの馬車に乗せられ、あれよあれよと舞踏会へ向かう道に揺られていた。
「燕尾服、お似合いです。ドレスと迷ったのですが。脚に切れ込みが入っていて戦うときでも動きやすいドレスですよ」
「迷うんじゃねえよ。なんの気遣いだよそれは」
現実で聞きかじったことが夢に影響する、そこまではいい。けど靴が出てくる話なら他にも聞いただろうが、長靴履いてる猫のやつとか靴屋で小人が働くやつとか。なんでよりにもよってコレなんだよ。
「
……
舞踏会は城でやるんだろ。誰の城だ?」
納得いかないが切り替える。ここでウダウダしているより人の多い場所で手掛かりを探したほうがマシだろう。リューイならきっとそうするはずだ。
「ホームズ家のお屋敷と聞いています。何をしている人達なのかはよくわかりませんね。お城に住んでいるなら王子様なんでしょうか」
馬車の中で窮屈そうにしながらフワッとした回答をするアビー。
旦那か
……
。まあ、俺の中の上流階級の知識なんて組長周りとベイカー街くらいのもんだからな。
「お城には専属のお医者様もいます。こちらの方は街にもよく来てくれますよ。あとは──」
話の続きに食いつこうとした瞬間、ゴトッと馬車が停まった。
「あ、着いたみたいですね。では私はこれで。0時には魔法が解けますからお気をつけて」
「えっ、お前は?」
「ジエンさんなら大丈夫。お望みの方に巡り会えますよ」
「えぇ
……
?」
雑なハンドサインを残して軽やかに去る魔法使いをなすすべなく見送り、俺は馬車から降りた。
目の前の門と足元の靴を見比べる。ご立派な門に比べて靴はありふれたものだった。見慣れ、履き慣れたいつもの靴。
リューイに貰った靴だ。
アビーが
……
いや、夢の中の俺がどうして靴だけを現実のままにしているのか、考えるより先に城へと足を踏み込んだ。
こんなに床から天井が遠い部屋ってあるんだな、とまず思った。
大広間にはクルクルと踊る人達の輪がいくつもできていた。輪から外れた人達は壁に背をくっつけ、羨ましそうに踊りを眺めている。組長も輪の中にいるのかと探したが見つからなかった。
ふーん、これが舞踏会ね。どうせならもっと激しく動いたほうが面白そうだけど。
手で食えそうなブツをテーブルから掠め取りつつ壁際の人混みをすり抜けると、ふいに燕尾服の首根を掴まれた。
「招待されているのなら野良犬じみた真似をするな。視界が煩くなる」
げ、と反射的に呻きかけた。見上げた先の冷徹な眼差しは紛れもなく、
「だん
……
いや、王子
……
?」
「しばらくそこで見ていろ」
王子なのは本当らしい。旦那はいつもの白スーツより重苦しげな襟とボタンの留まった服を着て、つまらなそうに広間の隅に佇んでいる。
よくわからんけど、王子様なら舞踏会の中心にいるもんじゃねえのか? なんでこんな端に追いやられてんだよ。
「社交は僕の専門分野ではない」
心を読んだみたいなタイミングで口を開かれた。
「興味を惹く事件の話題なら耳を傾けるが。こんなハリボテの会で愛想笑いを披露する気にはならないね。──そう思わないお人好しもいるみたいだが」
そう言い、旦那がゆっくりと視線を移した先の人だかりをよく見てみる。
中心で少し困った風に談笑してるのは
……
ああ、専属の医者もいるって言ってたな。
「
……
あんたが表に出ない代わりに挨拶回りしてくれてるんじゃねえのか?」
「そうかもしれない。後で礼はするさ」
なぜか上機嫌そうな旦那。どういう感情、というかどういう関係なんだよ。そこは現実でもあんまりよくわかんねえけど。
旦那の静かに熱がこもった目を横から見てると、こっちまでソワソワと落ち着かなくなる。何か一つカチッとはまらない、据わりの悪い感覚。
何か、が何なのかはわかってる。こんな夢を見てる理由は思い当たらなくても、最後のピースが誰かくらいはさすがにもうわかる。
「王子、その」
恐る恐る訊いてみようとした瞬間、疑問が頭を駆け抜けた。
──ハリボテの会?
──しばらく見てろ?
もう一度、注意深く広間をぐるっと見渡す。
視界の端に茶色い髪を捉えた途端、灯りがフッと消えた。
「え、」
一斉に人が散る。急なトラブルで招待客がパニックになった、にしてはやたらと手際が良い。
唯一慌てふためいている集団がいた。あれは
……
磁刀会?
「こっちです! 慌てないで!」
客の避難誘導をする声。間違いない。リューイがすぐ近くにいる。
勝手に足が向かっていた。人の波をかき分けてようやく辿り着いたと思えば、
「邪魔だっ」
混乱に乗じ、客を突き飛ばしながら逃げる顔に見覚えがあった。蔡さんの隊にいた奴だ。
「危ない!」
「何だ? このガキ」
客の一人を庇うリューイ。その顔面は鋭い革靴の蹴りに晒されかけている。
躊躇する気も暇もなかった。
「
……
ぐあッ」
相手の脛を横から思いきり蹴って、リューイごと床に転がる。
のたうち回る声を背中に聞き、素早くリューイを抱きかかえて広間を後にした。
「あー、あの。ありがとう?」
腕の中から聞こえるのはいつも通り気の抜けた声だった。さっきまで命知らずに他人を護っていたとは思えないような。
会いたかった。
夢の中でまで危ない真似すんな馬鹿。
真っ先に浮かんだ二つの想いは口に出せるわけなかったので、三番目の疑問をぶつけることにする。
「リューイ
……
」
「ん? え、なんで俺の名前」
「なんだよその格好」
外へ出て腕から下ろしたリューイは、いかにも踊り映えしそうなドレスで着飾っている。
「ああ、これ。似合うだろ?」
くるくる回ってピースサインをキメる姿に、俺は全身の力が抜けそうになった。
呆れたからじゃない。
安心したのだ。
「なんだ、ホームズに先に会ってたのか」
城外、庭の隅に腰を落ち着ける。
「ムカつく奴だっただろ? ワトソン先生
……
新しい主治医の人が来てくれてちょっとマシになったけど」
ドレスを汚さないよう優雅な所作のリューイだが、態度だけはいつも通りあっけらかんとしている。
「どういう間柄なんだ」
「んー、いろいろあって拾われてさ。住み込みで働いてる。ホームズの奴、貴族とは関わりたがらないくせに妙な事件には興味持つんだよな。その手伝いに駆り出されるんだ」
いろいろあって、か。そこも大体現実と同じなんだろう。俺もアビーもリューイがなんで旦那に雇われてるかの経緯は知らない。聞こうとも思わなかった。
ただ、
「
……
いい暮らしをしてるんだろ」
「え? まあ、家無かった頃に比べれば」
「またわざわざ危険なことに首突っ込むの、嫌じゃないのかよ」
俺はどんな顔をしていたんだろうか。
城の窓から漏れる灯りが、リューイの困ったような笑顔を照らす。
「うーん。それはそうだけどさ。頼られるのは悪い気分じゃないし。閉じ込められてばっかりなのも性に合わないから」
その答えが真実か、俺の願望なのか、もしくは想像力の限界なのか。確認する術は残念ながらない。
俺の知るこいつらしい、とは思うけど。
「というか、ジエン──だっけ。お前は大丈夫なのか? その、今回の件で仲間?が検挙されちゃったしさ」
さっきの騒ぎを見ていれば『舞踏会』の実態もおおよそ察しはつく。蔡さんの一派を吊し上げるために組長と旦那が手を組んでいたに違いない。招待客も大半は仕込みだったんだろう。
「別にいいよ。そこはもう
……
乗り越えたから」
足元の靴はもう貰いっぱなしのボロ切れじゃない。その事実で充分だった。
「何なら加勢に行ってもいいぜ。踊るよりそっちのほうが好みに合うし」
腕をポキポキ鳴らしたのと同時に、城から鐘の音が響き出した。
アビーから言われたことを思い出す。0時には魔法が解ける──
やべっ。
「あ、悪い、やっぱりもう帰らないと」
慌てて立ち上がる。物語はこの後どうなるんだっけ? 主人公が靴を脱ぎ落として誰かに拾われるんだったか。でもこの靴はそう簡単に脱げたりしない。リューイが散々俺を付き合わせて選んだピッタリの靴なんだから
……
「待ってくれ!」
逃げかけた俺の足首がガシッと掴まれる。
「は?」
見下ろした先には、興奮に染まったリューイの瞳。
「その靴、どこで手に入れたんだ? すごくいい。さっきの蹴りの威力もその靴のブーストがあってこそだろ。センスあるなあ。誰か専門家に見立ててもらったのか?」
お前だよ! 現実の!
「もう帰るのか? 残念だなぁ、この靴をじっくり研究したいところだったのに
……
」
足首ごと靴を撫で回しそうなリューイの気迫に、俺は思わず叫び出した。
「あーもうわかった! 調べたきゃ勝手に調べればいいだろ! 後で絶対返せよ!」
叫んでからはっと気づく。
見上げられながらキラキラしたオーラを浴びるこのくすぐったさ。むず痒さ。
あのとき靴屋の片隅で味わったモノが、形を変えてまた襲ってくる。
「いいのか?」
靴が出てくる物語の中でもコレじゃなきゃ駄目だった理由。現実での聞きかじりと俺の願望の混ざり合い。
まさか
……
この状況を再現するため?
それだけのために?
「いや、その
……
」
彷徨った俺の視線はワサっと動く近くの茂みを捉えた。木登りをしているアビーが、無駄に凛々しい顔でGOサインを送ってくる。
やかましい!
上から下からの集中攻撃に挟まれて、さっきまでの比じゃない絶叫が喉から絞り出た。
「違うからァァァ!!!」
「何が違うんだよ」
目覚めは石畳の上だった。
まぶたを擦って起き上がると、リューイとアビーが生温かい空気と共に出迎えてくる。やめてくれ。
「ジエンさん。よくお休みでしたね」
「ワトソン先生帰っちまったぞ。おやつくれたけど。ほら、お前の分」
差し出されたリューイの手からビスケットを引ったくる。
「どんな夢見てたんだ?」
「
……
悪夢だよ」
「ふーん?」
含みしかない笑顔のリューイから目を背け、日除けと化していた教科書を丸めてポケットに突っ込んだ。
字の勉強はともかく、当分物語はこりごりだ。
「シンデレラの話を特に熱心に聞いてましたね、リューイさん。意外です。まさか恋愛物の良さがわかるなんて」
「いや、話の筋はよくわかんなかったけど。なんかいいなーと思ってさ」
「どこがです?」
俺は立ち上がり、歩く二人の背を追う。
夢でも現実でも履き慣れた靴で、地面をしっかり踏みしめた。
「だって素敵だろ。魔法が解けても、靴だけは消えずに残るのって」
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