kanaco
2026-04-05 17:52:41
3940文字
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【四信】かくれんぼ──隠せない

《四信》両片思いの四信。子供たちと一緒にかくれんぼした信一と四仔のラッキーハプニング?。隠してるつもりで、全部バレてる。

 その日は、気持ちの良い晴天であった。

 城砦の庭ではしゃぐ子供たちの声が聞こえてくる。
 
 信一たちには、そんな爽やかな予定はもちろんない。真昼間から賭け麻雀をしようと、いつもの部屋に集まった信一と四仔、十二は、残りの一人……洛軍がちっとも姿を現さないので不思議に思った。迎えに行こうと通路を歩けば、ちょうど洛軍が向かいから歩いてきた。

「なんだよ、洛軍やっときたじゃん」
 
 十二が「よぉ」と片手をあげて挨拶をする。洛軍はニコリと笑ったが、すぐに困ったような顔をした。洛軍の周りを四人の子供たちが取り囲んでいる。信一たちが首を傾げると、洛軍ではなく魚蛋小妹が返事をした。

「信一、ダメよ」
「何がだ?」
「洛軍はこれから、私たちと遊ぶの」
「はぁ?」
 信一たちの視線が一同に向いたので、洛軍は申し訳なさそうに肩を下した。
「一時間、子供たちの様子を見ていてくれと頼まれて……
 だから麻雀は一時間遅れる、と洛軍は言った。

「俺たちが、こいつの先約なんだけど」

 信一は子供たちと視線を合わせるために、ストンとしゃがんで口を尖らせた。子供染みたことを言う信一に、ちょっぴり大人びた口ぶりで魚蛋小妹が言う。

「でも、洛軍のお仕事だわ」
「OKOK、分かったよ。じゃぁ、終わったら洛軍を返してくれよ」
「ええー!信一も一緒に遊ぼうよ」

 信一はきょとん、とした。

「かくれんぼするの。信一も、十二少も先生も一緒にやろう?」

 信一は思考を停止してから、しゃがんだままクルリと振り向いて上を見上げた。十二と四仔が、信一と同じ表情をして見下ろしてくる。信一が魚蛋小妹の方に視線を戻すと、彼女だけではなく周りの子供たちや洛軍までもが、期待するような瞳で信一たちを見た。

「しゃーねぇなぁ、じゃぁ皆でするかぁ」

 こういう時に順応が早いのは十二である。子供たちの中で一番幼い少年をひょいと抱き上げて、スタスタと歩き始める。その後ろを洛軍と魚蛋小妹、他の子どもたちが楽し気についていく。

 信一は「あらまぁ」とノンキに言った後、自分と同じように止まったままの四仔を見た。マスクによって隠されている顔からは、明確な表情は読み取れない。信一は洛軍たちの背中を指さした。

「俺は行くけど、お前はどうする?」
 
 四仔は数秒だけ黙った。やがて諦めたように肩を竦める。

「行く」
「だよなぁ」

 信一はポンポンと四仔の肩を叩くと、一緒にゆっくり洛軍たちの後ろを追っていった。

 
 外の日差しは、それなりに眩しい。

 青空の下で、公平なジャンケン。子供から一人、大人から一人を選出して、オニはペアと決めた。魚蛋小妹と十二が負けたグーの形のまま、コツンと拳を突き合わせる。2人は腕や手のひらで目を隠し、さっそく数え始めた。他のメンバーは一目散に駆け出していく。

 信一もみんなとは違う方向に走り出した。建物の裏に入り、ちょうどいい隠れ場所はないかウロウロと見渡す。小柄な子供たちはとにかく、立派な成人男性である信一が身を隠すとなると探すのも一苦労だ。

 それなのに「もー、いいかい」の呼びかけに、誰かが「もー、いいよ!」と返事した声が聞こえた。

 信一は心中で悲鳴を上げた。隠れる場所が見つからずに発見されるのは、さすがに情けない。しかし、大人の自分が流れを止めるのはいかがなものか。慌てた信一は、掃除用具が入っていそうな大きめのロッカーを、ふと目に止めた。

(いいじゃん!最悪、中身は出しちゃえばいいし)

 そう考えてロッカーに飛びつき、勢いよく戸を開ける。

「は?」

 中を見て、信一は間抜けた声と一緒に目を点にした。

……定員オーバーだ」

 そこには、大きな体をできるだけコンパクトにして隠れている、四仔が入っていた。涼し気な顔をしているものの、体勢はすでに限界そうに見える。信一たちの中ではもっとも体格のいい男だ。窮屈そうなことこの上ない。
 
(めちゃくちゃ、ちゃんと『かくれんぼ』してくれるじゃん)
 
 ウケる、という言葉は辛うじて飲み込んだ。飲み込んだが、面白すぎて顔がニヤけてしまうのは止められなかった。四仔が信一を見てとても嫌そうな顔をする。

 しかし、信一はハッと気がついた。こんなことをしている場合ではない。

「四仔、ちょっと詰めろよ!」
「定員オーバーだと言っているだろ」
「そんなこと言ったって!」
「他を当たれ」
「時間ねぇってば!」
「知らん。お断りだ」

 小競り合いからの攻防戦。信一がロッカーに片足を突っ込もうとすれば、ガッと四仔の片足が上がって侵入をガードした。目から放つ火花をバチバチと絡み合わせていると、近くから声がした。

「十二少、こっちよ!」

 魚蛋小妹の声だった。

 四仔よりも早く信一が反応した。背に腹は代えられない。無理やり体をロッカーに押し込む。ただでさえ狭いのに、ほとんど無い隙間に入り込まれて、さらに体を小さくしなければならない。四仔があからさまに盛大な舌打ちをした。

 それでも、もろとも見つかるわけにはいかない。「仆街!」というお決まりのスラングを小声かつキッパリ言い放つ。それから信一の腰をグイっと掴み、自分に引き寄せるように抱きこんでしまった。最後に扉をどうにか閉める。

 2人は息を潜め、気配を消した。足音が近づいてくる音がする。緊張が高まる中、溌剌とした足取りの小さな影が前を通りすぎた。その後ろから、まるで気配を探るようにゆったりとした足取りの、大きな影が近づいてくる。

 影はロッカーの前でピタリ、と止まった。
 信一と四仔がギクリとして、息を止める。

 まずい……と思ったが、魚蛋小妹の声がした。大きな影は呼ばれて二人の前を通り過ぎる。

 完全に気配が遠のいたのを感じ取って、信一は大きく安堵の息を吐いた…………が、信一はハタッと大変なことに気がついた。

(あれ?これって……

 四仔と、二人っきりでは。
 しかもこんな、狭すぎる密室で。
 つまりは─────片想い相手とくっついて。

 信一は慌てた。こんなの、隠れ場所が見つからないよりも一大事だ。

 意識をすれば、現状が明確になってくる。
 
 ロッカーに成人男性の体二つをおさめるため、体が触れ合うのは仕方がない。しかし触れ合うというレベルではなく、四仔に抱きこまれていた。自分の顔は四仔の胸にあって、頭の上にあるのは医者の首元。すっぽりと包まれてしまっている。

 信一は、ボッと顔を真っ赤に爆発させた。思わず身じろいでしまうと、腰に回された四仔の腕の締めつけが強くなった。

 「おい、動くな」
 
 余裕のない、焦ったような声だった。脳天にフワっと息がかかって、信一はゾクリと体を振るわせる。ダイレクトに感じてしまう息遣い、必然的に触れ合っている肌、それから……馴染みある四仔の匂い。

 診療所と漢方薬の香りが織り交ざる四仔の匂いは、いつもであれば安心を促す。でも今は、あまりにも近すぎて癒しもへったくれも無かった。
 
 涙で滲んだ信一の視界が、グラグラと揺れる。
 破裂しそうなこの心臓音、聞こえているのでは。
 耳まで真っ赤なの、バレてるだろうか。
 体が熱すぎるんですけど!

 どう思われているのか……と怖くなって、信一はおそるおそる顔を上げた。

(?)

 目と目があった。驚くほどに四仔に見つめられていることに気がつく。マスクから覗いている瞳が、まっすぐに信一の顔を凝視していた。逸らせない。そして落ち着かない。その雰囲気がなんだか妙で、信一は息を飲んだ。

 じんわりと自覚していく。
 
 あれ?
 なんか。
 
 どんどん。
 
 顔が────近く……ない?
 
(これって、キスしちゃ……

 混乱をしたまま、縋るように四仔の服の端をキュっと握った。

 息が触れ合う、あと、数センチ。
 呼吸が、重なる。
 
 その瞬間。

 
 ドカーンッと大きく音を立てて開く戸。

 信一と四仔が音と同時に、これでもかというほど肩を跳ねさせて、顔だけをパっと離す。
 それからグルリッと顔を外へ向けた。

 「信一と先生みーつけた!」

 そこには、満開笑顔で元気よく二人を指さす魚蛋小妹。
 そして、何やら呆れた顔をしている十二少。

 見つけたことを喜んでぴょんぴょんと跳ねている魚蛋小妹を他所に、何とも言えない気まずい空気が大人たちの間に流れた。信一と四仔が黙っていれば、十二が二人をジロジロと不躾に見た後、スッと目を細める。

 あからさまなジト目をして、十二はボソッと言った。


 「……ハレンチの臭いがした」

 
 臭いでかくれんぼを探す野生児っ!
 ハレンチ警察っ!

 何その特技……と、信一は虚ろな目をして幼馴染みを眺めたが、すぐに言葉を心で復唱する。

(え?ハレンチ……?)

 思わずパッと隣を見た。

 口元を抑えて、信一から視線をあからさまに逸らしている四仔がいた。マスクで隠れていない目元や耳が、らしくもなく真っ赤であることは一目瞭然だ。

 信一は再び、ボンッと顔を真っ赤に爆発させた。
 心臓が怖いくらい高鳴っている。

 思わず、信一も明後日の方向に目を逸らす。
 信一と四仔を穴が空くほど凝視して、ますます眉間にしわを寄せるのは十二のみ。

「他所でやっていただけます?今、かくれんぼ中なんで」
 
 目の前で何やらモジモジし始めた友人たちを見て、仁王立ちしたお怒りのオニが、ガルルと吠えたのだった。