望月 鏡翠
2026-04-05 10:24:40
1167文字
Public 日課
 

#2041 CoC六版【ケソルカ】※ネタバレあり

#毎日最低800文字のSSを書く/比叡 明治、野峨君はばよさんのキャラ

 前日に風邪気味だったことなど、もはやどうでも良くなるくらいに、外の明るさに開放感を得た。廃墟の外は実にのどかで穏やかな春の森だ。
 扉の外には着替えに身分証明証や貴重品の類まで置いてあった。人目がないならもはや関係ないとその場で着替え、鞄に寝巻きを荷物を突っ込む。確かここからしばらく歩くのだったか。
 場の空気に反応していた下半身は、ひとまず鎮静剤を塗ってなかったことにした。怪しい液体ではあるが、同じことを野峨にもしたのだと思えば、自分だけ逃げるのもおかしい。
 妙に肌が滑らかになって落ち着かない気持ちにさせられたが、勃起状態を放置するよりはよほどましだ。
 インターネットは通じる。事件があったと通報することも考えたが、魔術師が相手では警察にできることはそう多くはないだろう。
 妙な薬を打ち込まれたらしいから感染症の検査。非日常を忘れる努力。そうしたらあと必要となるのは、疲弊した心を休めるための休息だけだ。
 歩いたら、県道に出るという。
 確か観光でもしていくといいとかなんとか言っていた。冗談なのかもしれないが、比叡は本気でここで観光をして帰るつもりだ。このままタクシーを拾って家に帰るだけなんて、あまりにも惨めだ。
 スマホで調べると、地方都市の温泉街のようだった。
「野峨くん。タクシー代、僕が出すから車に乗ろう。それで温泉入って、休んでから帰ろう」
 異論は出なかった。
 宿を探す。どうせ独身生活で他に金の使い道はないのだから、多少高級な店でも問題はない。当日で宿泊予約ができた店に向かった。
 温泉に体を浸す。
 どうしてこんなことになったのだろう。いや、狂気に身を浸した魔術師の思考回路など考えたところで無駄なのだろうが、どうしてこんなことになったのだろうという思考は頭の中をぐるぐると巡る。
 幸い、風呂場で他人の陰部に注目する人間はおらず、比叡の不手際によって見栄えが悪く剃られてしまった下半身は、目立たずに済んでいるようだ。
 申し訳なさといたたまれなさが押し寄せてくる。落ち着いてから、自分で綺麗に整え直して欲しい。
 悪い夢だったのだと思って、全てを頭から追い出し、何も見えていないふりをした。
 部屋に運ばれていた食事の膳は豪勢でこのために旅行に来たのだといっても信じられそうな気がしてきた。
「比叡さんって俺のこと強くしてくれますよねー」
 何気ない呟きに耳を疑った。
 強く、しているだろうか。
 千尋の谷に突き落としているという意味では、強くしているのかもしれない。実際高いところから突き落としてもいる。どちらかといえば、ひどい振る舞いを繰り返しているような気もする。
……まあ、嫌われていないのなら、よかったです」
 それを好意的に捉えられるのはきっと彼が強いからなのだろう。