roku
2026-04-05 09:12:20
3347文字
Public SD夢💤
  2112106

幼なじみ、元カレ、復縁【森重夢】

・初森重夢!!
・学生〜大人軸

公式情報&夢書きさんが少なくて途中で迷子になりつつなんとかできました!森重の夢ジョさんに刺さればいいな…

夢子ある日ウーバー頼んだら寛が来た。
……何で?』
「スキマバイト」
『ふーん。じゃあまた!』
注文したご飯を受け取り引っ張ったドアはびくともせず半開きのままだ。よく見ると私の届かないところで寛が抑えている。
「引越したんだ」
『関係ないでしょ』
「また来るよ」
『もうウーバー頼まない』
「個人的に」
『職権濫用しないで』
見上げて睨みつけてはみたけれどそんなことどこ吹く風の寛。その視線は部屋の中に注がれている。
「ひとりなの?」
何ともまぁ白々しい。
『だから関係ないでしょ』
あしらうように返せば「ふーん」と口端を吊り上げ踵を返した寛はそれ以上何を言うこともなく静かに去っていった。
その大きな背中はあの日の記憶を呼び起こした。

◇◇◇

寛とはよくある幼なじみというやつ、だった。初めて意識したのは中学の制服姿を見たとき。学ランがやたら似合っていて直視できなかった。
お互い明確な言葉は口にはしなかったけど自然とそういう流れになった。
よく学校帰りにゲーセンに寄った。寛はその頃から体格がよかったおかげか他校生に絡まれることもなく平穏な日々を過ごしていた。
手を繋いでキスをして。
その先だって寛とするものだと信じて疑わなかったのに。
ある日突然現れたおっさんのせいで歯車が狂いはじめた。おっさんは寛をバスケの世界へと連れて行った。
いつの間にか始まっていたように、いつの間にか私たちの関係は終わっていた。
最後に見たのは楽しそうにコートを駆ける寛の背中だった。

◇◇◇

高校生の頃、偶然街で見かけた。その時私は彼氏と一緒だったから気付かなかったふりをした。なのに寛に呼び止められた。
「誰?」
『彼氏』
「何で?」
そんな短いやり取りの末、彼氏に一瞥をくれた寛が私の腕を引っ張る。触れた部分から伝わる熱に抗えなくて、唖然とする彼氏を置き去りにしてしまった。
エナメルのバッグには学校名とバスケットボールの文字。私は寛がバスケを続けていることを知った。
「浮気?」
『別れたんだから浮気じゃないし』
「別れてないけど?」
確かに別れるという言葉はどちらも口にしていないけれど流れで付き合いはじめたのだ。自然と消滅することだってある。
『あんたがバスケの世界へ行ったことで別れたんだけど?』
「オレが振られたってこと?」
『は?それを言うなら私が振られたってことでしょ』
そう返せば寛は見たこともないくらい大きな目を開けて驚いていた。
『何?』
「バスケ始めたからって別れんの?」
そりゃ部活やってたって恋人がいる友人はたくさんいる。だけど寛のそれはあまりにも本気すぎて私の入る隙間はないと感じたんだ。
……った』
「ん?」
『寂しかったんだって!』
学校帰りに寄り道して、日が暮れるまで遊んで、他愛もない話で笑い合って。そんな日々が消えてしまったことが悲しくて、とても寂しかった。
「ごめん」
滲んでいく視界を埋めたのは三年前よりもずっと分厚くなった寛の胸板。耳を寄せると聞こえた心音は早鐘を打っている。
言い訳するでもなく黙り込むわけでもなく自然と紡がれたごめんの三文字は私の心を解かしていった。
……ずるいよ
「ちゃんと彼氏と別れて」
寛の腕の中で静かに頷いた。

寛のほとんどをバスケが占めていたけれどひたむきに打ち込む姿は私の心を動かした。ルールを覚えて試合に足を運んだ。コートを駆ける姿、ベンチに座る姿、そのすべてを目に焼きつけた。
練習や試合のない日は私と遊んでくれた。それはとても嬉しかったけれどいつしか寛の大切な時間を奪っているような気持ちが芽生えた。そんな罪悪感は身体を重ねている時でさえ拭えなくなっていった。別れを決めたのは寛が東京の大学に進学を決めたとき。
『寛、別れよ』
「何で?」
『遠距離とか無理だし』
「そっか」
寛は、それなら愛知に残るとも、東京に来たらいいとも言ってくれなかった。バイバイと見送った大きな背中は涙で滲んでいた。

◇◇◇

卒業した私は実家を出て一人暮らしを始めた。一度だけ母から住所を聞いた寛が訪ねてきた。タイミング悪くやってきた彼氏に圧をかけた寛のせいで彼氏は帰って行った。
この時寛とどんな話をしたかは覚えてないけど、セックスが驚くほど甘く激しかったことだけは覚えている。
その後その彼氏には振られた。「男がいるのに俺と付き合ってたのか」「浮気とか最低だな」「ビッチかよ」と、今思えば散々言われた。全部寛のせいだ。
だからといって彼氏に捨てられた私を寛が拾ってくれたわけじゃない。
あれから私はずっとひとりなのだ。
なのに「ひとりなの?」だと?じわじわ沸き上がってきた怒りを鎮めるためにさっき寛から受け取ったご飯を勢いよくかき込んだ。



帰宅した私の視界に入ったのは熊みたいなでかい図体の男。
……何してんの?』
「また来るって言ったけど?」
『職権濫用しないでって言ったけど?』
目を逸らしてその存在を無視するように鍵を開けた。が、ドアは抑えられていて開けることができない。
「話がある」
『私はない』
「うん。でもオレの話聞くぐらいよくない?」
寛はいつもそう。私の言い分に反論しない。わかったって受け入れてから話を進める。だから私も受け入れてしまうんだ。
……聞くだけなら』
部屋に入れることで私の身に振りかかることがわからないほど子どもじゃないけど、寛は無理やり事を起こしたりしない。そんな確信があった。

ひとりだとちょうどいい広さの部屋も寛がいることで狭く感じる。
『狭くてごめん』
「別に気にしない」
『コーヒーでいい?』
「いらない」
『そ』
ベッドに腰掛けた寛の隣に座って様子を窺う。
随分とたくましくなった体つき。変わらない坊主頭。まだバスケ続けてんのかな。だとしたらいつか有名な選手になった時のためにサインでももらっておくか。
なんて幼なじみとして最低なことを考えていたら寛が静かに口を開いた。
「アメリカ、行かない?」
突拍子もなさすぎて聞き間違いかと思った。
…………は、い?』
「オレ、アメリカ行くんだ」
『はぁ……
「だから一緒に行かない?」
何で私が寛のアメリカ旅行に誘われてるんだ。
『ちょっと意味わかんない』
昔の私ならわかったかな?いや、さすがにわかんないよな。
「向こうでバスケする」
ん?』
旅行じゃないってこと?
「だめ?」
だめとか以前に、バスケをするのが目的ならなおさら私が一緒に行く必要はない。……え?もしかして。いや、そんなことあるわけない。だって今の寛は幼なじみ以下の元カレだし。でも寛のことだから絶対ないとは言えないんだよな。
『あのさ。確認なんだけど、それってプロポーズ的なこと?』
「決まってる」
『はぁ!?長らく会ってない元カノにプロポーズするとか聞いたこともない!しかもアメリカ?急すぎるし!』
あ、墓穴掘った。急じゃなければいいんだって言われる!
「急じゃなければいいんだ」
ほらきた。昔の私じゃなくても寛の考えてることわかっちゃうとか自分に呆れる。
『あのさぁ順序も段階も全部むちゃくちゃじゃない?』
「あ〜……そうなの?」
『そうだよ!』
「ちゃんとしてる」
『どこが?』
夢子がアメリカに来れば遠距離じゃなくなる」
確かに別れの理由にしたのは遠距離だった。だけどそういうことじゃなかった。広い世界へ羽ばたく寛の足枷になりたくなかったのだ。なのに額面通りに受け取って。本当にありえない。ありえないけどこんな寛のことを理解できるのは私しかいないと思う。
『確かにそうだね』
「じゃあ」
『行く。いつ?』
「今年の夏」
『はぁ!?それ急すぎるんだけど!』
「ははっ!でも来てくれるんだろ?」
くるりと変わった視界で捉えた寛とその向こうの天井。あーあ。完全に寛のペース。きっと私がウーバー頼んだあの日から歯車は回り始めてたんだろうな。
『はいはい、行くってば!だからそこどいて』
「やだ」
『やだって、あんた子どもじゃない……ンンッ!っ、
こうなった寛からは逃れられないことを、私はもちろん知っている。