仲間のことを、元の世界のことを、無理矢理頭から追い遣ることが少なくなった。ただそれは、すっかり忘れてしまったとかではない。追い遣らずとも、寄り添えるように、段々となってきた。それを可能とした要因に、ウェイドの存在は大きい。
ただ、ウェイドのことを、元の世界の仲間達と一緒に思い出すことはない。この世界のデッドプールのことじゃない、俺が元いた世界の奴のことだ。俺の世界のウェイドは、俺が仲間を持つより少し前の記憶に登場する。
だがそれは、あの男がこの世界のウェイドの同位体であればの話だ。俺の世界にはデッドプールはいなかった。勿論、俺の知る限りでは、だが。痛みが全て表層に浮き出たように全身爛れた無毛の肌。少なくとも、この世界のウェイドのようなデッドプールに出会ったことは、一度もない。
元の世界に未練はない。という台詞はそれを案じている相手に対して使うために用意しただけだ。自分のやったこと、やれなかったことは、いつだって怒りや悔しさや悲しみをないまぜにして頭の中をぐちゃぐちゃに襲って来る。アダマンチウムは臓器ではなく骨格だ、鋼の脳や心臓だったらこんなことは考えなかっただろうか。しかしこの思いを抱えて生きて行くと決めた。その場所が元の世界じゃなかっただけのことだ。そしてそんなややこしい話を一々するつもりはない。それに言わずとも、妙な所で心情に共感を覚えてしまう相手なら、益々言う必要はないだろう。
ただこの世界、そしてこの世界のこの男に出会って思ったことがある。この世界のウェイドに出会って、俺にとってのデッドプールは強烈な印象の人物となった。もし、自分が破滅に追い遣った世界にデッドプールがいたならば、それは、俺のせいで死に追い遣ったのだろうか。
元の世界にデッドプールが存在したとしても、俺とウェイドが同じタイミングで生きていない場合も、普通に考えられる。俺がウルヴァリンと成る前に、なんらかの要因でデッドプールが既に故人であった可能性もある。あるいは、ヴォイドに落とされていたかもな。逆に、先に考えたように、俺が世界を破滅に導いたせいでデッドプールが死んだ可能性も、もっと言えば、生まれる可能性そのものを潰したかもしれない。この世界での自分がウェイドより先に生まれそして死んだことを考えると、後者の方が可能性は高いのではないか。だからきっと、ウェイドがデッドプールとして存在していたとしても、俺は、自分の世界のウェイドのことは、自分で殺してしまっただろう。
俺の世界で、ウェイドがデッドプールとして俺と出会っていたら、俺はもっと早く変われただろうか。世界を守れていただろうか。あるいは、世界を滅ぼしてしまった後でも、最悪のウルヴァリンだなんてどの世界からも呼ばれず、なんとかして世界を守ろうとしていただろうか。自分の大切な人の世界を守りたいと願った、ウェイドのように。世界を大切だと思えていただろうか。ウルヴァリンとデッドプールで、世界を守っていただろうか。そうしたら、この世界のウェイドと、デッドプールと、共に在ることはなかっただろう。
「ねえなんでひとり黄昏ちゃってんの?なんかヤなことでもあった?相談センターにコールする?電話番号のカード貰ったの何処やったっけ、渡して来た奴と一緒に拳で握り潰しちゃったんだっけ。あ、ナニを握って潰しちゃったかは、ご想像にお任せね。」
「お前を何度も刺したのを思い出していただけだ。」
「きゃー!なに!物騒!」
顔の両頬に両掌を当てて相変わらず大袈裟な反応をするウェイドは、漸くお目覚めにも関わらず、やっぱりお喋りお嬢ちゃんだ。ベッドに横たわるその男が、五体満足に回復へ向かっていることを目視で確認する。
「お前の目が覚めるまでの暇潰しだ。」
「ローたんの潰してるものがオレちゃんのナニじゃなくて暇で良かったーって喜ぶところココ?」
不思議そうにしながらも、さも自分のペース以外には興味がなさそうに勝手に喋り続けるウェイドには、何か食わせてやった方が良い。なんにせよ、この状態で話す内容でもないし、今のところ話すつもりもないので、お喋りな男のことは置いて、キッチンに向かった。
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