asahito
2026-04-04 22:23:23
6004文字
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Old Fashioned④

前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/7583585 一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/14625442 一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。

春例大祭の本脱稿しました。

 今の仕事をしてなければ、何にしていると思いますか?と。客に冗談交じりに尋ねられる事もあるし。
 客同士でその事を話していることもみかけることはよくある。沢山あったはずの選択肢を歩むうちに無くしていけば、辿れた筈の岐路を思い浮かべることもあるだろう。
 無論、それは。将来まだ歩む余地のある道かもしれないし。やらかしや能力で二度と歩めない道であるかもしれないし。
 歩めても何かに阻まれて足首を掴まれている、歯痒い道なのかもしれない。
「会社に勤めてみたいと思ったことですか?全くないですね!」
 その岐路すらなくひたすら一本道をずかずか歩んでいる奴は。将来の夢に悩むこともなく迷いもない、真っすぐさが羨ましいモンだ。
「玉造一族に生まれた以上は職人としての研鑽以外考えられません」
「そりゃ、安泰だねえ」
 龍さんたちのじゃれ合いから数日して。狙ったように客が誰もいない時に魅須丸はやって来た。なんで人がいない時分かって来れるのか。
 こっそりドアの外覗いてる、とかじゃないと思うが。
 いつも通りに一杯目はウイスキーのロックを出し会話をしているが。この前うちに遊びに来てベッドの中で色々と話は聞いていたため。
 改めて聞く必要もなかろうと、月並みな会話を振ってみた。それはちょうど、うちの店によく来る女子大生の二人が将来について悩んで話していたのを聞いたためだ。
 どこに就職すればいいか。自分が何に向いているかが分からないし、専門を活かせる分野は何か。将来性があるか、安泰か。
 選択肢が多くあるせいで、悩みが尽きないというのは。羨ましいが決められなかった時の弊害は大きかろう。
 この国の各地にある玉造一族という素晴らしい職人集団があるというのは魅須丸から散々聞かされているが。玉造、なんて苗字は珍しいしコイツ以外じゃ会ったこともない。
 私の生きている世界が関係ないせいにしても、もっと色んな職人が出てきてもいいような気もする。
 職人集団に生まれた以上は職人に。とはいっても、適性のない奴が生まれた時はどうすればいいのだろうか。一つの事が全くできなくたって、もっと他の分野に適性がある人間なんてごまんといるだろう。
「あのさ魅須丸」
「何でしょう」
「もし、職人になりたくないって奴が一族から出てきたら……そういうのはやっぱり無理矢理職人として鍛えさせるの?」
 昔ならよくある話だが。この時代なら別の道を歩むことだって可能だろう。職人よりも割のいい仕事や、人と交渉や会話をして利益を出せる仕事なんてのもあるし。
 勉強ができて医療や学者のような分野に行きたいと願ったら、そっちに行かせる方が結果的に良いこともあるんじゃないか。
「そうですねえ……己の腕で素晴らしい仕事をすることが一族の信条ですからそこは信条に適えばやりたいようにやらせますよ」
 ウイスキーを一口飲み魅須丸は静かに語った。己の腕で素晴らしい仕事。それは、職人らしい信条だが私の仕事にもどんな仕事にも言えるってことか。
 なら、別の職業を目指す奴がいても案外許容しているのだろうか。
「流石に今の時代じゃ、強要すれば逃げ出して別の場所に行く人もいるでしょうね」
 田舎の暮らしと特有の目が嫌で、家族がいなくなった時から都会に出て働く道を選んだ私にとっては。逃げ出すという選択肢だって立派な道であると思いたい。
「逃げ出したところでそう簡単に玉造一族の監視から逃れられるとは思いませんが」
……
 一族の監視ってなんなんだ。地方のあちこちにいるってことは、離れれば逃れられる田舎の監視より恐ろしいモンだ。
 というかそういう一族の監視があるってことは。私もその監視をされてるってことじゃないのか。この先もこの女家に連れ込んで大丈夫なのか。 
 背筋が凍るのを感じつつも平静を装いロックアイスを砕くときに使っていた道具を洗う。
「心配しなくとも問題行動を起こさなければ何も監視の手は行きません。伝統ある職人として恥ずべき行為をした場合、です」
 私の心を読んだのか魅須丸は自分が監視対象ではないと言う。監視されてないならひとまず安心であるが、恥ずべき行為というのは具体的に何を示すのだろう。
「恥ずべき行為って……やっぱ犯罪とか?」
 自分の作品が貶されたことに腹を立て、鞄で人をぶん殴ったことは犯罪に含まれる気がするが。
「犯罪であればどの一族でもそれ相応の扱いは受けますよ。犯罪でなくとも、相応の腕があるのにわざと手を抜いた作品を納品したり、敢えて粗悪品を本物のように作れば……その行為は職人集団の矜持を以て断罪されるべきです」
 その声は、静かというよりも冷酷さを含んだ色を持っていた。絶対に譲れない腕利きの職人としての有り方。首に掛けている魅須丸のネックレスの重みを感じる。
「法では刑期を終えれば外に出ることはできますが。職人としての恥はその腕を一生振るえないようにすることも可能です」
……
 職人がその腕を振るえなくなったら。それは、生きていても死んでいるに等しいような状態なのだろうか。
 アクセサリーを作らないで別の事で生計を立てて暮らしている魅須丸や、埴輪や陶器を作らない袿姫。馬鹿真面目な忠誠心も、従者としての気位の欠片もない磨弓。
 どれを考えても、私の店が静かになることにはなっても。それはそれで気味の悪い別の奴にしかならないだろう。
 魅須丸はだいたい訳の分からない事しか言わないが。職人としての腕前と仕事に対する態度というのは確かなものだ。その部分だけは評価してはいる。
「企業に就職して仕事に勤しむこともとても偉い事だとは思いますけどね。私は自分の腕だけで勝負できる素晴らしい職人ですので今の私しか考えられません」 
 胸を張る表情は全く遠慮がなく、本当に、評価できるのはその部分だけであるが。それに金を積んでる奴がいるというのも事実だ。
「そういえば、山如は最初からこの仕事を志したのですか」
「え?……まあ、そういうわけじゃなくて、気づいたらこの仕事やる事になったってのが近いけど」
 会社勤めもほんの少しだけやっていた時期はあるが。この顔のせいで色々トラブルが起きてすぐに辞めてしまったのだった。
 断じて私が色仕掛けをした誘ったってことはないのだが。袖にされる阿呆は皆、ありもしない噂を流して私を売女の様に貶めようとした。
 AIやら合成でいくらでも淫売のような扱いや誹謗中傷ができるというのだから。
 悪意の虚構の貶めで事実の殺人が起きないことを祈るばかりである。
 勿論このバーの経営だってトラブルはつきものではあるが。その対応策となる味方もいる以上は、なんとか対抗できる手段はある。AIなどの対処法なら、あのユイマンって奴に聞けば少しは役立つ情報をくれるかもしれない。
 知識のある技術者ほど容易に悪用することによる制裁の重さは知っているはずだから。それに、佳人は何かと苦労が多いのはあいつも同じだろう。
「この店も色々と縁があってね。経営や資格の取得はその後って感じかな」
 縁故だけでうまくやれるほどこの街は甘くはない。店を譲ってもらうにしても、何も知識がないままではダメだとそれ関係の学校に通うようにも言われた。
 学校に行くには金が必要になる。会社はすぐ辞めざるを得なかったためまともな収入もなければそれに縋るのも私の顔というわけだが。
 その縋り方についても、もし玉造一族の監視というものが本当に魅須丸の言う通りなのであれば。何かしら無事では済むまい。
 弁解になるがそういうことでも己の腕をぞんざいに扱ったことはなかったぞ。恐喝ではなく、好意で色付けて貰っていたってだけだ。金が手に入ればすぐにそんなことはやめた。
 だが辞めたにしても、その記憶を否定することはできない。一回食い逃げや万引きをした奴が店の中にいて、ちょっと留守にするなんて言える大馬鹿なんていないだろう。
「最初からではなくとも続けられるならそれで良いかと思いますよ」
 大方の人間はそのようなものでしょう、と言われると。案外自分は自分、他人は他人の境界線をコイツは理解している。
 なりたいものになれなくとも。その仕事をする奴がいて初めて成り立っているのは事実だ。
 時々うちに配達に来るやる気なさそうな配達員も。一応物は持って来てくれるからこそうちは成り立っているし。
「この店は、手がけた職人たちの心遣いや前の経営者が大事にしていた気持ちがあります」
……私もちゃんとこの店大事にしてるんだけどねえ」
 日々の清掃は欠かさないし酒の陳列だって一番美しいと思うものを日々研究してる。バーという場所だって酒の出し方もその辺の居酒屋より凝ったものだ。
 同じバーテンダーの手際を動画で見たり、酒の味を飲み比べて研究したり。そんなの経営者として当たり前とは言っても己の腕を磨き続けている。
「お客さんも大事にしているから、貰ったものとか埴輪だって置いてるし」
 あんな変な置物うちの雰囲気に似つかわしくないだろう。そこだけ寂れた温泉街の土産屋の置物スペースになるだろうが。
「埴安神の埴輪は素晴らしいものなのですから無碍に扱うと良くないですよ」
 それがわかってるから目立つ窓際に置いてやってんだろうが。捨てたりしたらお偉いさんのSPか激昂した磨弓が飛んできて、店ごと更地なんてのも有り得る。
 危険な目には何度か遭っていても命を取られるまでの事はまだない。ならばその延命は出来る限り先までにしたいのが本望だ。
「そうだ、もっと埴輪を増やせば守り神として集客にも……
「うちはあの熊手で十分だよ。それよりお代わりは?」
 商売繁盛祈願でいつも買っている神社の熊手もバーに似つかわしいのかと言われればそれまでだが。あれはちゃんと地元に根ざしているという証明でもある。
 実際、そういうのが好きな客が話のきっかけにしてくれることもあるし。悔しいが袿姫の埴輪の事をユイマンの奴が可愛いと言ってくれる以上、何が店の役に立つのかは私にも分からない。
 かといって、阿梨夜が化石や変な石をくれるようになったら流石に仕事場に展示して来いと言うだろうが。
 しゃべっているうちに魅須丸のロックグラスが空になり、丸く削った氷が溶けてしまっていた。バーは空のグラスで長居は無粋。お代わりをしてもらわないと。
 魅須丸は甘い物に目がないが。酒自体はストレートなものを好むため、甘い物で酒と風味を混ぜて楽しむのが好きなのだろう。
「さっきと同じ奴でいいかな。最近アイリッシュウイスキーで良い奴が入ったからそれもおすすめだけど」
「山如にお任せします」
 ウイスキーの棚に手を伸ばそうとすると、魅須丸は意外な答えを返した。私に任せるなんて珍しい事を言うな。
 だいたいは自分の意志で全て決めてしまうと思っていたけど、私に任せる客も増えて来たからそれを真似してみたくなったか。
 お任せでもある程度の好みや気分は聞くものだが。今、魅須丸は自分用の甘ったるいチョコレートを味わっているのでそれ以上質問は良くないと思い。
 逆に付き合いの深い間柄だからこそ、理解をしたうえの酒を提供できるか試されているような気分だった。
 意味不明な言動は多くとも、敢えて奇を衒うような方式は好まない。職人気質の腕一本、それだけで勝負してみろの古風な心意気。嫌いではない。
 どうせならその古風を味わってもらうこととしよう。ウイスキーからバーボンの棚へ。甘党には角砂糖は多めにしてやるか。砂糖漬けのチェリーも、たっぷりと漬かった奴を。
 二つめのチョコレートを食べながら魅力丸は少し酒で気が緩んでいるのか、酒を混ぜ始める私に更に質問をして来た。
「先ほどの話ですが。幼い頃になってみたい職業はあったのですか?」
「そうだねえ……これっていうのはなかったかな。神社とか、私に一番似合わない所であえて働くってのは面白そうだけど」
 巫女さんなんて正月やお参りの時に見るだけだから、実際どんな仕事をしてるかはわからないけど。幼いころから神社の祭りで見た神楽の舞は、美しく憧れに映った。
 「私は家族もいないしああいう所はちゃんとした由緒や勉強も必要でしょ。ハナから諦めるしかないじゃない」
 子供の頃にその舞に選ばれそうなこともあったが。経済力的にそういうのはできなかったし、地主の子供がやる方が筋だったのでそれも敵わなかった。
 乾いた笑いをしながら角砂糖を取り出していると、魅須丸がまた答える。
「財産や家柄に恵まれても、それが足枷になる場合もありますが。やはり何事にもここはお金ですからね……
 財産や家柄。袿姫のように恵まれている奴でもそれが嫌になったりすることもあるのだろうか。
 あの女こそ家の力を使ってうちの店潰してやってもいいぞとか言いだしてるんだから、利用しまくってる奴にも見えるが。
 友人の魅須丸だからこそ話す本音というのも、あるってことか。深追いはしないが。
「魅須丸は仕事もうまくいってて良かったじゃない。最近も大仕事したって言ってたし」
「ええ、以前至極珍しい石が手に入りましてね。それを加工してアクセサリーを作る大仕事だったんです」
 大仕事の内容は秘密とは言っていたが。珍しい石を加工するというのは何か特殊な技術でも必要なものだったのだろうか。
 美しいと思って加工したら人体に有害な物質が含まれていたなんて話も、ネットで見たことがあるが。
 そういうのって処理すればフグの卵巣の塩漬けのように消えたりもするのだろうか。
「へえ、珍しい石って凄く遠い国の山頂にある石とか?海の底でしか取れないとか……
 宝石店で出回っている宝石というのはある程度人間が採掘できる場所のものを加工してると聞く。
 それでもうちの国じゃ取れない鉱石は輸入し、それを国内で加工しているというのは魅須丸から学んだものだ。 
 だが、石の正体に魅須丸は触れず。金は心配ないから手製のデザートやチョコレートを食べたいと猫の様に言う。
「お金ねえ……何かいいことでもあったの?」
 レモンを切りながら尋ねる。金が入ったなんて、何で私に言うんだ。それだけ信用されてるのか、それともいう事を聞けってことなのか。
「一年は仕事をしなくても十分に遊べる報酬が入りまして。どう使ってよいか困ってるんです」
「え?一年?」
「依頼主が誰であれ私はただアクセサリーを作ったことには変わりないのに……本当お金のある人間考えというのは理解に苦しみます」
 突拍子もない事を言い出した魅須丸の表情を見ると。珍しく困惑した表情を浮かべていた。


 続く