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2026-04-04 20:36:22
3623文字
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噓(ヒューフェル版ワンドロワンライ🖤🧡)

日本語

  ※独自解釈強め

  ※事後ですが、描写はごくわずかです。

  ※ほとんどが、ある不器用な男の独り言。

  ※ただ、フェルディナントに頭を撫でられたまま眠りに落ちるヒューベルトを書きたかっただけです。

  

  

  

  それらすべてが、まるで巨大な噓のように思えた。

  目の前で穏やかに眠る男を見つめながら、ヒューベルトの脳裏には、その男との断片が静かに反芻されていた。

  最初の警戒から、幾度もの並走へ。本来は探りのはずだった接近が、いつしか無意識の視線の停滞へと変わっていく。時間はそれらをヒューベルトの記憶から奪い去ることはなく、ただ過程だけが雨後の雲煙のように薄れていき、結果のみが残され、何度も咀嚼されては、また飲み下される。

  

  蜜色の髪を持つその男は、今もなお眠りの中にあり、ヒューベルトの思いなど知る由もない。身体に残る歯形や口づけの痕でもなければ、昨夜の情事さえ、初めから存在しなかったかのように思えるほどに。

  ときにヒューベルトは、その男を見つめながら、なぜ自分がこの男とここまで来たのか、理解できなくなる。だがその疑問が浮かんだ瞬間、理性はすぐに答えを返す。

  もし自分がそれを望まないのであれば、この男はいつでも消せる。どんな形でも、合理的に。

  たとえば、暗殺。あるいは戦場での事故。

  金で解決できる類のものは、問題のうちに入らない。

  たとえエーデルガルト様にとってこの男が必要であったとしても、自らの能力をもってすれば、その「必要」は代替可能であり、さらには切り捨て得る存在へと変えることすらできる。

  難しいことではない。ヒューベルトは自身の能力を疑っていない。

  実際、その選択肢を判断の中に組み込んだこともある。だがエーデルガルト様にとって、それは最適解ではなかった。

  そして……当時の自分自身もまた、それを望んではいなかった。

  あの頃の自分は、自らの内心を見通せていなかった。だがそれは至るところに在り、気づいたときにはすでに境界を踏み越えていた。混乱であるはずのすべてが、どこか定められていたかのように、静かに収まっていく。

  ヒューベルトの視線は男の顔にとどまる。その弛緩した表情は、似たような夜の中で幾度も目にしてきたものだが、いつもどこか現実味を欠いていた。夢が醒めれば、現実がそれを否定する。

  そう思い至り、彼は男の頬に手を触れる。馴染んだ感触が、わずかに疑念をほどく。眠りの中の男は微かな声を漏らし、ヒューベルトの手へと頬を寄せた。

  これまでの夜と同じですな。

  彼はそう思い、ひとつ息を吐く。

  ヒューベルトは、この男を理解しているつもりでいる。

  長年の関わりが、互いの判断はある程度読めるようになった。加えて、ある意味では彼らは似通っている。

  ゆえに、相手が自分を受け入れる可能性も、皆無ではないと知っている。

  だが不運なことに、自分は本質的に疑り深い人間であり、さらにこの世は、誰かの意思ひとつで動くものではない。このように醜く陰鬱な男に好意を向けられたなら、否定するのが当然なこと。

  だからこそ、あの言葉を口にする以前に、すでに万全の策は整えてあった。

  

  良い場合は、冗談として軽く流されるだけで、そのとき自分は流れに乗じて撤回すれば、二人の距離は元のまま保たれる。

  悪い場合は、はっきりと拒絶されたり排斥されたり、さらにひどければ一撃の拳を受けることもあり、そのときは事前に用意した傷薬で対応すればよい。

  最悪の場合は、その後の人生で二度と彼の視線を受けることはなく、そこに対する覚悟も、すでに済ませてあった。

  だが実際には、男はすべてを当然のように受け入れた。

  かつて賛辞を受け取った時のように。

  贈り物を受け取った時のように。

  あの手紙を受け取った時のように。

  あのときの余裕は、あらゆる可能性とともに愚かさへと変わり、男の真っ直ぐさの前で居場所を失った。

  嘘のように順調でありながら、しかし虚偽ではない。

  その後の過程もまた、不安定なほどの順調さを保ったまま進み続けた。

  初めての触れ合いも、その後の幾度の重なりも、昨夜に至るまで、ヒューベルトはあらゆる可能性を事前に想定していた。

  拒絶、衝突、関係の終焉。そのすべてに対する備えも整えていた。

  だが男は、ただ一層近づいてきただけだった。触れられることを受け入れ、さらに求めるように。涙も声も、単なる応答に過ぎず、自分の身体に残る痕も拒絶とは無関係だった。

  すべてが、まるで嘘のように、あまりにも順調に進んでいく。

  まるで高所から落ちるかのように、止まることなく墜ちていく。速度と不安は膨らみ続け、いまだ底には至らない。

  思考はなお流れている。彼は男の長い髪を指で梳く。その光を帯びた髪は、かつては首筋に触れる程度の長さでしかなかったことを思い出す。当時の自分は、この感触をまだ知らなかった。

  もしあの頃の自分が、今起きているすべてを知ったなら、きっと噓だと断じたでしょう。

  そして今の自分もまた、それを真実と断言できずにいる。

  ゆえに、理由を探し始める。

  時間が、二人の間にあった隔たりを溶かし、ここまでの親密さへと至らせたのか。あるいは、気づかぬ一瞬に、すべてがずれてしまったのか。

  ヒューベルトが誇る理性は、この問いに答えを与えない。乏しい経験もまた、指針とはならない。

  それでも思考は続き、不安とともに積み上がっていく。

  虚偽がいつか暴かれるように、この男もまた、何らかの形で自分のもとを去るのかもしれない。

  たとえば、暗殺。あるいは戦場での事故。

  だが自分は、それを阻止するつもりでいる。

  たとえエーデルガルト様にとってこの男が不要となったとしても、その「必要」を再び成立させればいい。ましてや、この男の優秀さは他に代えがたい。

  すべてが噓のようであっても、最後まで続けば、それはやがて真実へと変わる。

  

  だが問題は、そこへ至る保証がないということ。

  もし男自身が、別の道を選ぶなら――

  仮に彼がその選択を下したとしても、自分にはどうすることもできない。自分の路を彼のために変えることはできず、彼もまた、自分のために留まるはずがない。

  フェルディナント殿、我々は……

  問いは脳裏をかすめただけで、形を成す前に去っていく。

  ヒューベルトの指は無意識に、男の長い髪へと絡みつく。何かを言おうとしたが、唇はどうしても開かなかった。

  

  もし素直に、この問いを彼に投げかけることができたなら。きっと、自分の望む答えを得られるのでしょう。

  

  それは、真実か噓かとは無関係に、ただフェルディナントの口から語られる、その答え。

  だが結末が訪れるまでは、いかなる言葉も検証されない幻想に過ぎない。口にしたところで、現実は何ひとつ変わらない。

  結局は無意味だ。墜落の終点は確かに存在し、空中に留まる時間が長いほど、到達したときの惨状は目も覆いたくなるほどひどくなる。

  ヒューベルトは手を引く。その瞬間、蜜色の髪が引かれた。眠る男は不快そうに眉を寄せ、何かを小さく呟くと、そのまま手を伸ばし、ヒューベルトを抱き寄せた。

  男の体温が、現実とともにヒューベルトへと流れ込む。理性はほどけ、思考は緩慢になった。

  肌を伝って温度が広がり、同時に眠気も滲んでいく。至近にあるその顔を見つめながら、二人の呼吸はやがて重なり、いつの間にか、額は男の頸へと寄せられていた。眠る男はそれに応じるように、黒髪に手を差し入れ、ゆっくりと撫でていく。

  ヒューベルトの理性は完全に停止し、思考はもう続かない。

  目は静かに閉じていく。

  すべてが、確かに噓かもしれない。

  それでも。

  傍にいる男の規則正しい呼吸、身体の温もり、指先に残る感触。それらが、この瞬間を現実として証明している。

  やがてすべては底に至り、砕け、形を失い、粉となって消え去るのかもしれない。

  だが、だからこそ。

  終焉に至るその時まで、それは確かに存在している。

  瞼の裏の微かな光が消え、意識は沈んでいく。ただ、果てのない闇だけが残る。

  闇の中にも、その終点は確かに在る。ただ今は、それが遠のいているように見える。

  この瞬間でさえ、なお嘘に近い。

  だがヒューベルトにとって、それは紛れもなく、唯一の真実であった。

  ーENDー