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二面サク@幻想怪奇の間
2026-04-04 20:00:00
2140文字
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【おはなし】「俺」と「おれ」の話(二面サク)
幻想怪奇の気配がする。
俺は怯える。
違う、俺は人間として生きるんだ!
そこには戻らない!
心で大きく叫べば叫ぶほど、闇が俺を嗤っている気がした。
だけど、そんな中で声がしたんだ。
――
大丈夫。
それは確かに俺の声で。
だけど、ゆるやかにほどけていきそうな。
――
お前にはたくさん大切な人や物があるから大丈夫。
その声で、俺は息をつく。
そんなことが何度もあった。
その正体は知らなかった。
だって、それも幻想怪奇だろうから。
目を合わすのが怖かった。
だけど、今は違う。
俺は人間であることを決めた。
幻想怪奇の世界には戻らない。
だって、今は人間としてこんなにも笑えるんだから。
怖くて目を向けられなかった場所へ立つ。
まぶたを開く。
そこはただの闇だった。
ただ、ただ、暗い、黒い、場所。
怖くなかった。
幻想怪奇の気配はある。
だけど、それはただあるだけだった。
俺を嗤うことはなかった。
拍子抜けして、思わず口からこぼれた言葉。
「もう、いいのか」
投げやりではない、今の本当の気持ちだった。
そして、聞こえた。
――
うん、いいんだよ。
あの声だった。
俺はあたりを見渡す。
闇に隠れて何も見えない。
いや、誰かの気配が微かにする。
それは俺の隣からで、そして、今離れようとしている。
「待って」
俺はその気配に手を伸ばす。
影を掴んだような、そんな不思議な感覚がする。
そして、見えたのは
――
。
「俺
……
?」
髪や目の色がモノトーンで、とても静かな表情をしている。
だけど、そいつは俺だった。
「見つかっちゃった」
そいつは寂しそうな顔をした。
「もうさよならなのに」
「え?」
「お前は、お前を生きるから」
優しく手をほどかれる。
「おれは、お前が怪奇になる可能性だったもの」
そいつは柔らかく微笑む。
「そして、もう消えるもの」
その笑顔があまりに切なくて、俺はそいつの手を強く握った。
そいつは驚いていた。
だけど、伝えたいことがあった。
「消えるなよ。消えないでくれよ!」
今まで俺を支えてくれた。
だけど、怖くて目を逸らしていた。
ワガママでひどい話だけど。
「俺、お前と話がしたい!!」
「
……
おれも、そうだと思う。でも、これがさだめだから」
そいつは今にも闇に消えていきそうだった。
だから、俺は手を引いて走り出す。
「どこに行くの?」
困ったような、驚いたようなそいつの声。
「生きよう」
「生きる
……
?」
「ああ、お前はお前を生きったっていいだろ!」
走る。闇を抜けるために。
そいつはぽつりと言った。
「それは、楽しそうだ」
***
「で、連れて帰って来ちゃったってわけ」
いつものリビング。ローテーブル前の座布団。
朔の嘲笑うような声を聞く。
「いいの~、サクちゃん。こいつ怪奇だよ? いつ寝首かかれるか分かんねぇぞ?」
それは確かにそうかもしれない。
こいつは俺の怪奇になったかもしれない可能性。
だから、俺を殺すなんてこともあり得るかもしれない。
だけど
――
。
「こいつはそんなことしない」
俺は隣に座るそいつを見る。
そいつは静かにうなずく。
「おれ、朔みたいなカス野郎じゃないから」
「オレに当たりきつくない?」
「どうせ、朔が嫌なこといったんでしょ」
紅茶のセットをお盆に載せて、幽香がやってくる。
ローテーブルに四人分のコップを置いて、ティーポットから澄んだ色の紅茶を注いでくれる。
「あなたは紅茶好きかな?」
「たぶん、好きだと思う」
そいつはこくんとうなずいた。
「サクと感覚は似てる、と思う」
「え~、オレと~?」
「サクちゃん、って呼んでいい?」
朔の言葉を華麗に無視し、そいつは俺を見る。
ぼんやりとしているが、ちょっと不安そう。
俺は大きくうなずく。
「ああ、好きに呼んでくれ!」
「ん、ありがと。サクちゃん」
「オレは?」
「カス野郎」
「ねえ、なんでオレにだけそんな切れ味高いの?」
謎に朔に厳しい。
幽香がにこにこしてる。怖い。
話を聞いていると、そいつは俺と記憶や感覚などを共有しているようだった。
「だけど、サクちゃんみたいに体験はしてないから、分からない」
「なるほどねぇ」
幽香がそいつの前に紅茶の入ったコップを置く。
「今からたくさん体験していこう」
「
……
いいのかな」
「いいんだよ」
幽香の優しい声に、そいつは戸惑っているようだった。
正直、そいつの存在がどうとか、ちゃんとは分かっていない。
だけど、こうしてここにいる。
そいつが俺を見る。
「サクちゃん、いいかな」
「もちろん!」
なんだか胸がいっぱいで、ちょっと泣きそうになりながら、でも笑う。
「一緒に、楽しいとか、おいしいとか、たっくさん体験していこう!」
「うん」
そいつも笑った。
そして、新しい日常が始まる。
【終わり】
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