じべた:二次創作
2026-04-04 14:26:09
6981文字
Public ンズルカ
 

嫉妬:ンズルカ

 
酔ったルカさんの嫉妬ネタ。ルカさん、遠征も終わってモンドとナド・クライ行き来してるとかそんなイメージ。
かっこいいルカさんはいないかもしれない。
モブ?のタルノくんが出てます。

 
 
目にも耳にも騒がしいナシャタウン。
その喧騒から一歩下った先にある酒場、フラッグシップ。
街での所用を済ませたフリンズは、住処である灯台の墓場に戻る前に数杯酒でも飲んでいこうとその場所に赴いていた。

「おや、フリンズ様?」

扉を押し開いた先、ふいに名を呼ぶ声に瞳だけを動かしてその方を見やる。
入り口から近いテーブル席に腰かけていたのは、行きなれた店の見慣れたスタッフ――

「あなたはヴォイニッチ商会の……

タルノ。
カウンター越しによく会話をするその人物がすぐに思い当たり、フリンズは警戒を解いて改めて顔を向け、笑みを浮かべる。

「こんばんは、夕飯ですか?」
「はい。フリンズ様はお酒……ですか?」
「えぇ、いっぱいひっかけてから帰ろうと思いまして」

そう答えてフリンズは手首とクイクイと動かす。
普段、紳士然とした言動を基準とするフリンズの、らしくない言い回しと砕けた仕草にタルノはクスリと笑う。

「そういえばフリンズ様。近日新しい『良いもの』が入荷するという情報がありまして……

聞いていかれます?
人差し指を小さく振ってそう問いかけるタルノに、フリンズが興味を示さないはずがなく。

……タルノさん、ぜひともお話を伺わせてください」
「もちろんです。よろしければこちらにどうぞ」
「ありがとうございます」

言って隣のイスを引いて座るよう促すタルノに、胸に手を当て仰々しくお辞儀をし、フリンズはそこに腰を下ろした。


+ + + + +


……っと、もうこんな時間ですか」

古銭や宝石、店に流れてきそうな品の話で盛り上がり、どれほど時間が経ったのか。
楽しい食事会に終わりを告げたのは、時計を確認したタルノの言葉だった。

「すみません、フリンズ様。僕は戻ってやらないといけない仕事があって……
「お気になさらず。むしろ時間をとらせて申し訳ありません」
「そんなことありません。楽しさのあまりうっかり時間を忘れるところでした」
「同じく。僕も灯台に戻って書類を片付けないといけないので、お暇しようかと思います」
「フリンズ様ほどの方でも書類仕事がおありで……
「片づけた事案が多いほど、提出しないといけないものが多いのです……

やれやれと肩を竦ませ、しょんぼりとした雰囲気を醸す凄腕のライトキーパーにタルノはくすくすと笑みをこぼす。

「お強いライトキーパー様にも苦手なものがおありなのですね。頑張ってください」
「えぇ、ありがとうございます。またお店にお邪魔しますね」
「いつでも、ご来店お待ちしています」

ぺこりと一礼をし、フラッグシップを後にするタルノを手を振って見送り――

……さて」

空になったグラスを手に、フリンズは天井を見上げる。
確かに墓地には戻らないといけない。
朝にはイルーガが書類を取りにくると宣言している以上、これは避けては通れない処務だ。
が、まだまだ酒の量は足りている気がしない。
話が楽しくて、飲むよりも会話に夢中になってしまったのだ。
あと強めの酒を二杯ぐらいは飲んでいこう、そうしよう。
一人頷き、席を立ちあがってカウンターを確認する。
席は空いているだろうかとそこを見渡せば、一番端の席で視線が止まった。

……あれは?」

覚えのある金髪と、他の誰よりも目立つ体格が視界に飛び込んできた。
しかしその背は、普段の狼を思わせる毛皮や、故郷の風を感じさせる色合いのコートを纏っておらず、黒いシャツとベルトのみという、非常にラフな出で立ちだ。

「ファルカさん?」

ここにいるということは仕事か、あるいはもう今日は店じまいでもしたということか。
なんにせよ、恋人であるフリンズがファルカを見間違えるはずがない。
なぜだか背を丸くし、縮こまるようにカウンターに向かっているが確かにそこにいるのはファルカだ。
隣まで歩み寄り、空のグラスを置いてカウンター内のデミアンに「おすすめのを」と一言だけ告げる。

「ファルカさん、いつからここに?」
「ん……? 多分、一時間ちょい……とか……?」
「そんなに前から? 声をかけてくだされば良かったのに」

「どうぞ」とデミアンから差し出されたグラスを受け取り、すぐさまそれを飲んで喉を潤す。
先ほどは会話に熱中していたために酒の味をしっかりとは味わっていなかったので、改めての舌触りに満足して小さくうなずく。

「うん、美味しい……
……さっき飲んでたやつのほうがうまかったんじゃないのかぁ……
「え?」

なんのことだろうかと首をかしげてファルカの横顔を見つめるも、彼がこちらを見ることはない。
ずっとジョッキとカウンターばかりに視線を泳がせて、フリンズの方を見ようともしないのだ。

「ファルカさん?」

呼びかけに、しかしやっぱりファルカはこちらを見ない。
ぐい、とジョッキを傾け、喉を鳴らして中身を空にする。
そうしてデミアンに「もう一杯」と声をかけるのみだ。

「あの、ファル
「あ、こっちにも同じのやってくれ」
「ちょっとファルカさん?」

ちっとも見ようとはしないのに、グラスが空になっているのは気付いているようでフリンズの酒を追加で頼むことは忘れない。
なんだかわからないが、普段通りこちらを気遣ってくれている様子はある、らしい。
再びデミアンが持ってきてくれたグラスを受け取れば、同じようにジョッキを差し出されたファルカもまたそれを傾けて一気に煽る。
ゴクリゴクリと飲み込む音と揺れる喉仏からして、おそらく半分ほどはあっという間に飲み込まれていったことだろう。
ぷは、と息を吐きだしたファルカはジョッキをテーブルにゴトリと下ろし、ちらりと一回だけフリンズに視線を向けただけでまたカウンターと見つめあってしまう。

……あの、ファルカさん」
………………
「どうかしましたか? 僕は何か失礼をしたでしょうか?」

見つめる彼の横顔はほのかに赤い。
この様子だと、彼が言う時間が正しいなら一時間黙々と飲んでいたということになるのか。
酔っているのは雰囲気から伝わるが、楽し気な酔いとは程遠いような気配がしている。
様々な事件が終わり、ファルカはこちらに残った騎士団の指揮のためモンドとナド・クライを行き来する生活を送っている。
恋人であるファルカと会えない時間があることは寂しいが、それでも大団長として歩き続ける彼をフリンズは好ましく思っていたので現状を快く受け入れている。
一度モンドに戻ると告げられた時、特に何か揉めて別れたような覚えもない。
そもそもにしてファルカがこのように不機嫌だったり、気分が悪い様子を露骨に示すことの方が珍しくもある。
一体何が原因なのか、そしてそれに明らかに自分が関わっているのであれば払拭をしたい。
そう考え、フリンズはジョッキを握るファルカの手にそっと指を這わせた。

「ファルカさん」

名を呼び、横顔を見つめる。
じぃっとグラスを睨み合っていた青い瞳がちらりとこちらを視認して、それからぎゅうと彼の背中がさらに小さくまるのが分かった。
まるで怒られた犬がしょぼくれて、小さく部屋の隅で丸まるかのように。

「ファルカさん?」
……たのし……かった、だろ……?」
「???」

ごにょごにょと、背を丸めたまま唇を尖らせて何かをぼやきだすファルカ。
その表情があまりにも年齢とかけ離れていて、でもいつまでも少年心を持ち続ける彼に似合っていて可愛さすら感じてしまい。
けれど今それを指摘したら、やっと気持ちを話そうとしてくれているファルカを怒らせると思い、フリンズは言葉を飲み込む。

「何の話です?」
……テーブルで、はなしてた……しょーかいの、てんいんと……

唇を窄ませているのと、酔いのせいか。
ふわふわとした口調で語るファルカの言葉に、フリンズは指先を顎に当てて考える。

「あぁ、タルノさんのことですか?」

こくん、とうなずいたファルカは再度ジョッキを傾け、今度はごくりと一度だけ喉を鳴らす。

「フラッグシップで、のもうっておもって……来たら、おまえがいて……
「はい」
「こえを、かけようかと……でも、すげぇわらってて、たのしそうで……
……はい」
…………だから、やめた」
「ファルカさん……
「やっと……こっちもどってこれて、おまえに会えるかもって……だから、フリンズがいて、うれしかったけど……
…………
「なんか、たのしそうで、むかついて……でもそう思う俺もいやだったから……おまえとふたりで、飲みたかったけど……

――ちょっと待ってくれ。

フリンズが思う以上に飲んでいたのであろうファルカはごにょごにょと、たどたどしく言葉を続ける。
彼自身の言葉が何を意味するのか、理解して、でもまさかそんなと驚いているフリンズなど気にもせず。

「おれはおとなだし、だいだんちょ……だし……おっさんだし……わがままいうの、おかしいだろ……
…………
「ちゃんとしないと……こんなことで怒るなっておもって……だから、一人で飲もうって……
……ファルカさん」

それを何というか、あなたは知っているのですか。
そう思い、髪を撫でようと手を伸ばしたところでファルカが額を思いっきりテーブルへとぶつけた。
ゴヅンと響いた鈍い音に、フリンズは思わずイスから立ち上がってファルカの頭に手を伸ばす。

「だ、大丈夫ですか!?」
……いやだろ」
……何がです?」

そういえば髪の毛が普段よりもくしゃくしゃになってしまっている。
もしかして、色々考えながら頭を抱えていたのだろうか。

「こんな、フリンズが人と話してるだけどムカついてる俺とか……いやだろ……幻滅だろ……

顔は未だにテーブルに突っ伏したままで、声もこもっていて聞き取りにくかったけれど。
それでもフリンズの耳は確かにファルカの声をすくい上げていく。

……ファルカさん」

なんということか。
大らかで、嫉妬とは無縁に思えた人間が、自分に執着を向けている。
人と楽し気に話しているのをみてモヤモヤして、苛立っている。
こんなにも幼く、拙く、たったひとりの自分に心を乱している。
その現実が、嬉しくないはずがない。

「ねぇ、ファルカさん。ほら、顔を上げて。おでこ見せてください」
「う……

小さくうめいたファルカは、頬とテーブルの間に差し込まれたフリンズの手に促されてゆっくりと顔を上げていく。
ちらりとこちらを見つめる青い瞳はどこか潤んでいて、とてもではないが世界に名だたる騎士団を率いる大団長とは思えない。
それが、彼を一人の人間だと証明しているようでフリンズはどこか嬉しいとすら感じてしまう。
彼が他には見せない一面をさらけ出してくれているような気がしているからだ。

「ちょっと失礼しますよ」

くしゃくしゃになった前髪を手のひらで払い、おでこの辺りを確認する。
少し赤くなっているものの、こんなものはもちろん幾度も死線を潜り抜けたであろうファルカには大した傷にはなるはずがない。

「うん、大丈夫そうですね」

視線と気配でデミアンが離れた席の客を相手にしていることを確認し、そっとその額に口づけを落とす。
唇に熱を感じるのは彼がひどく酔っているからだろうか。
わずかに音を立てて離れれば、ファルカの顔がさらに赤くなったように見えた。

「おやおや、一気に酔いが回りましたか?」
「おま! おまえなぁ……わかってて、そういう……
「ふふ、冗談ですよ」

可愛い人ですね。
そう付け足すと、どこか不満そうにファルカは唇を尖らせて瞳を背ける。

「確かにタルノさんとは古銭やら新たに入りそうな宝石の話をしていました。楽しかったのも事実です」
「そうかよ……
「でもそれ以上に。そんなことであなたが嫉妬してくださった、という方が今は嬉しいです」
「嫉妬……
「でしょう?」
……そう、なのかも、しれんが……

ちびちび、とジョッキに残った酒を吸いながら、ファルカはどこか居心地悪そうに頬を指先で掻いた。

「俺はもう……おとなだぞ。お前がだれとはなしてたとか、そんなんで……こんな……
「久しぶり会えたから余計なのではありませんか?」
……わからん。こんな風にかんがえちまうの、はじめてだから……
「そう、ですか」

――はじめてですか。

こんなにも他者に尊敬され、認められ、愛されているというのに。
個に執着をするのが初めてとは。

……ふふ」
「なんだ?」
「いえ、僕は世界一幸せ者かもしれないなと思いましてね」
「なんで?」
「ふふ、いいんですよ。僕だけが知っていればいいので」
……そうか」
「とにかく。あなたが嫉妬してくれるという事実を知って、僕はとても満たされています」
「そうなのか?」
「そうなんです」

よくわからない、と肩を竦ませているファルカにクスクスと笑みをこぼし、

「気付いていないと思いますが」

そうぼやき、フリンズはファルカの耳元に唇を寄せて、ささやく。

「僕は人間じゃありませんので執着心が強いです。あなたが思うようなこと、けっこう考えていますよ?」
「え!?」
……ふふ。驚きました?」
「そ、そうなのか?」
「ファルカさんはかの有名な大団長であらせられますからねぇ。僕も気を惹くの、頑張っているんですよ?」
……そ、なのか?」
「そうなんです」
…………別に…………

ごにょ、と再び唇を尖らせてファルカはぼやく。
が、今度はどうやら拗ねているとは違うらしい。
頬の赤みが、より一層増しているのをフリンズは確認したからだ。

……別に、俺。お前以外、好きにならん…………ってか、こんなおじさん相手にするの、いねぇって……

だから、頑張らなくても……

もごもごと普段は恥ずかしいと思っているのか、なかなか口にしない「好き」という単語がファルカから飛び出す。
想いもよらぬセリフに、思わずフリンズの喉から「あぁ……」と感嘆の声がこぼれていく。

「ファルカさん。やはりあなたは愛らしい人ですね」
……俺をそんな風にいうの、お前だけだよ」
「あなたがそう想い続けてくれているのなら、僕の立場は安泰ですね。まぁ誰にも譲る気はありませんが」

グラスに残っていた酒を飲み切り、フリンズはそっとファルカの頬に手を伸ばす。

「このままあなたが泊っている宿に流れ込みたいのですが……あいにく帰って片さないといけない書類がありましてね」
「イルーガに怒られたかぁ?」
「えぇ、こっぴどく。明日朝、取りに来ると言われてしまったのです……

非常に残念です、と肩を落とすフリンズを横目に、残り少なくなったジョッキの中身を見つめていたファルカが口を開く。

「じゃあ、あれだ。明日空いてるから……お前のところに俺がいく……
……よろしいので?」

願ってもない申し出に、フリンズは大きく目を見開く。
自分が言い出したという事実が恥ずかしいのか、ファルカはその視線から逃れるように顔をそらしているが。

「酒も持っていく。一日ぐらい……朝からお前を独占してもいいんだろ?」

そういって、残った酒を飲み干すためにジョッキを煽り、空にしてからテーブルへと下ろす。

……ファルカさん」

なんて。
なんていじらしい人なのだろうか。
恥ずかしさのために何も言えずに、こちらも見れないその顔に一層愛おしさが増していく。

「なんか……言え。恥ずかしい。おじさんにはつらいんだぞ」
「おじさんでもあなたは可愛いですよ」
「やめて、やっぱなしにしたい……
「ダメです。絶対に来てください」
「やだ、忘れてくれ……
「じゃあ迎えに行きます」
「八方ふさがりじゃねぇか」
「ご自分でおっしゃったんですよ? 僕は大歓迎です」
「ぐぅ……
「それにね。あなたがいない日々はやっぱり寂しいのです」

大団長として、他者から羨望と尊敬を集める彼そのものを大事にしたいと思っている。
だからこそ、その生き方を否定はしないが。
それでもやはり、愛した人とは一緒に過ごしたいと思うのはフリンズも同じなのだ。

「だから、ね? 来てくれますよね?」

うつむくファルカをじぃっと見上げれば、泳いでいた視線がこちらと見つめあい、それから瞼でぎゅぅっと閉じられた。
ファルカはフリンズのこの顔に弱い。
これはその視線に負けた合図だ。

……わかった」
「ふふ。嬉しいです、ファルカさん」
「お前、その顔ずるいって」
「なんのことでしょうかね?」

クスクスと笑うと、肩が軽くたたかれた。
痛くはないが、彼が恥ずかしさのあまりにした行動だと思うと幸せが胸にあふれそうだ。
帰って書類を片付けないといけないのに。
明日になれば、ファルカが訪れてくれるというのに。
今、もうすぐこの場を去らなければならないという現実に、フリンズはほんの少しばかり後ろ髪をひかれるような気持だった。