紫輝
2026-04-04 12:17:49
1493文字
Public リとヌと御仔の話
 

「ね、ぼくのいうとおりだったでしょ!」

リとヌ(と御仔)とリ殿にとって実行優先度最大のある言葉の話。着地点を見失った結果いい話に見えなくもないただのいちゃいちゃになりました。苦いもの片手にどうぞ。

 リオセスリにとって、その言葉はある意味指令コマンドのようなものだった。自らの強い希望と矜持でもって、必ず遂行したいものだ。それが聞こえたならば、いついかなる時も、可及的速やかにそれを実現したい。そういう言葉だ。
「パパ、抱っこ」
 だから本日も、リオセスリはその指令を即時実行すべくコマンダーに腕を伸ばし、抱き上げ、――おや、と思った。
 腕にかかる重みが違う。
 鼻をくすぐる涼やかな水の香りが違う。
 こちらを見つめる輝くアイオライトはどこに行った?
「は? え、ヌヴィレットさん?」
「うむ。私だ」
 ばっ、と上向くと、朝焼けを融かした伴侶がリオセスリを見下ろしてくすくすと笑っていた。細い指を後頭部で遊ばせる伴侶のご機嫌はたいへん麗しそうだ。
「レヴィがな。嬉しそうに話してくれたのだ。「パパはお願いすると絶対に抱っこしてくれる」と」
 理由を聞く前にテノールが唄う。とうさまもやってみて、と、あの仔に言われたので実践してみた――笑み混じりに伴侶が語るのに、呼吸に失敗した喉がおかしな音を立てた。ちょっとどこから突っ込んでいいかわからない。行動と言動におそろしいほど可愛いしかない。なんだこの可愛い生き物は。こんな可愛い生き物が世界に存在していいのか。しかも二人も。さらに二人とも自分の家族だなんて、幸運と幸福と光栄で溺れそうだ。とっくに溺れていると言ってもいい。
 深呼吸をひとつ。
「レヴィがそう言ってたってことは、俺はあの仔のサインを取りこぼさずにこられてるってことかな。安心した」
「安心」
「うん。あの仔が俺に伸ばした手は絶対に取ると決めてるんだ」
 勿論あんたのも。伴侶を見上げて笑えば、白皙に淡い珊瑚の色が散って、朝焼けがうろと彷徨う。呼吸にして数度ほどの間を挟んで、伴侶の指が優しく頬を撫でた。
「君は良い父親で、良いつがいだ。私も見習わなくては。私も君とあの仔の手を、いかなる時も取れるようなつがいで、父でありたい」
 微笑みが眩しい。いつも気にかけてくれてありがとう、と、額に落とされたキスにはなんらかの神聖性すら感じる。足の先から浄化されて消えているかもしれない、なんて馬鹿げたことを考えてしまうほど。
 ぎゅ、と締まる胸に頑張れとエールを送っていると、こちらを見下ろす伴侶が不意に眉を下げる。言いづらそうに唇を開いては閉じ視線を泳がせている伴侶に首を傾げて見せると、意を決したように肩に添えられていた指先に力がこもった。
下ろして欲しい」
「あ、ああ」
 感情を逃しきれずに腕に変な力でも込めてしまっただろうか。若干の不安を抱えつつその身体を地面へとエスコートすると、見上げていた朝焼けと正面から目が合う。うん、と、滲むようにテノールが響いた。
「抱き上げられるのも君の逞しさを感じられて良いが、やはり君の顔が近くで見える方が良いな」
 すり、と目尻を指先が滑って美貌がやわりと融ける。遊ぶ指先を捕まえて、そっと唇を寄せた。
「そうだなぁ。レヴィは抱き上げると目線が合うからな。俺は見上げるあんたも美人で好きだよ。まあどの角度から見ても美人で可愛いが」
「む、ぅ
「けど、顔が近くで見える方がいいのは同感だ。キスもしやすいしな」
 にっ、と笑みをひとつ。
 その唇の端を掠めれば、頬を淡く染めていた伴侶は柳眉を寄せた。
「場所がずれている」
 もう一度、とダメ出しされて、準備はできているとばかりに上向かれて。
「失礼。あんたに見惚れてたら目測を誤った」
 ああ毎秒可愛いな、なんて浮かれたことを考えながら、差し出された唇にキスをした。