syanpon
2026-04-04 08:32:11
1866文字
Public
 

どっちもどっち

「じゃあ今日一滴も飲めやしない」

オトスバ
現パロ


「だから何度言ったら信じてくれるんですかあ〜!」
「オットー殿、酔いすぎだ。水を飲むといい」
「僕ぁナツキさんに話してるんですよお!」

「あと何回告白すれば信じてくれるんですか!」そう言ってオットー・スーウェンは上等なスーツに皺がつくのも厭わずゴン、と鈍い音をたてながら机に突っ伏した。綺麗にセットされていた髪の毛も崩れて灰色の隙間からは酔って潤んだ瞳がスバルを睨みつける。

「えぇ……

 突然の友人の豹変。さっきまで上機嫌にビールを煽っていたオットーは何処へ。助けを求めるようにラインハルトに視線を向けると困ったように微笑まれた。
 
「オットーの気持ちもわかるからね僕は」
「フェリちゃんはスバルきゅんが可哀想〜」

 可哀想という割にフェリスの視線はスマホの画面に釘付けでどうやら誰も助けてはくれないらしい。幸せそうに眠りこけているガーフィールをこの地獄に巻き込むのは兄貴分として情けないし申し訳なさすぎる。そうして視線をきょろきょろと彷徨わせていると伸びてきた腕がスバルの右手を絡めとる。

「どこ見てるんですか」
「いや、別に……って泣いてる!?」
「泣いてません」
「目元うるうるしてるし水溜まってるけど」
「ならナツキさんのせいです」

 恋人繋ぎの要領で絡め取られた右手を引き寄せられ、スバルの薬指がオットーの唇に触れる。

「好きですナツキさん」
「俺も好きだよ」
「その好きってここにいるメンバーみんなにも言える好きですよね」
「ちょっとオットー酔いすぎだって。ほらユリウスが持ってきてくれた水飲め」
「今この状況で他の男の名前出します?」
「なんか地雷踏んだ俺!?」
「ちょっとオットーきゅん、ユリウスいじめにゃいで」

 我が社の有能秘書は対オットーになると使い物にならない。いつのまにかラインハルトとフェリスの間に挟まれてデザートの杏仁豆腐を頬張っている。こんなにも人がいるのにめんどくさい酔い方をしたオットーはスバルが一人で対処しなくてはいけないらしい。空いてる左手でオットーの目尻に浮かんだ涙を拭ってやると涙の代わりに再度彼の口からは恨み言が出てきた。
 
「僕ぁナツキさんが好きです。あんたを幸せにしたい」
「うん、俺も好きだよオットー。俺もお前に幸せになってほしいよ。だからちょい落ち着こうぜ?」
「はあ〜! ナツキさんは何にもわかってない! 学生の時から告白しているのにずっとそう! あんたのせいで僕はずっと不幸! そうやって僕の告白を受け止めてくれないから僕はずうっと幸せになれないんです!」
「オ、オットー」
「なんですか」
「お前の好きってライクじゃなくてラブだったり、する?」
……あ゛?」
「ひえっ」

 柔和な男が出すドスの効いた声は怖すぎる。ドン! と机を叩いた衝撃で誰かの目薬がころりと床に転がった。顔を逸らそうとしても伸びてきた手がスバルの顎を掴んで離さない。繋がれたままの手はギリギリと嫌な音を立てている気がする。

「何逃げようとしてるんですか」
「に、逃げてない逃げてない」
「ライクじゃなくてラブか、でしたっけ? へえ、ナツキさん、僕自分でも結構な回数あなたに好きと伝えたつもりでしたが」
「それは、その……社交辞令みたいな……
「全部無かったことにされてます? サッカーの大会で優勝して告白したのも大学進学した時に好きと伝えたのも誰もいない教室であなたを抱きしめたのも?」
「うわぁオットーきゅん結構ロマンチック。流石にスバルきゅんが悪いかも」
「フェリス〜!」
「こら視線こっち」
「ご、ごめん! ごめんってごめんなさい!! オットーは俺のことが好きでした! ごめんなさい!!!」
……で?」
「で?」
「僕の告白を散々無かったことにしてきたナツキさんはいつになったら信じてくれるんですか?」

 痛むほどに握り込まれていた指先はいつのまにか縋るくらいの力になっていて酒のせいで耳まで赤くしたオットーはまっすぐスバルの瞳を覗き込んでいる。今ドキドキしているのは酒が回ってきているせいだろうかそれとも。

「え、と」
「はい」
「明日、もう一回好きって言ってくれたら……信じ、る」

 今このどうしようもなく浮かれている気持ちもアルコールのせいかもしれない。明日になったらもしかしたらオットーは記憶を飛ばしているかもしれないから。
 瞳をぎゅっと閉じてそう一息に言ったあと、彼の顔を恐る恐る覗き込めば困ったように青い瞳を溶かして笑っていた。