フリンズさんに癒してもらう話


「ただいまぁ……
「おかえりなさい――っと、珍しいですね?」
 ぐったりしながら両手を広げてフリンズの元へ駆け寄ると、何も言わずに抱き止めてくれて、私の頭を撫でてくれた。……最高の癒しをありがとう。


 長めの残業からの帰宅途中、自宅付近に近づいたところ、一人暮らしの私の部屋に灯りが付いていることに気がついた。思わず「……あっ」と小さな声が漏れた。はやる気持ちを抑えつつも、少しだけ歩幅を大きくして部屋に向かう。もちろん鍵は持っているけれど、わざとチャイムを鳴らすと、フリンズが出迎えてくれた。玄関の扉を閉じるのすら億劫で、そのまま彼に抱きついた。
 フリンズは私をサッと片手で抱き上げ、扉を閉じて鍵を閉めてからソファへ向かい腰を下ろした。私は彼の膝の上で横抱きにされつつ、彼の肩に顔を埋めている。

「フリンズ、」
「はい」
「今日は疲れました」
「えぇはい、お疲れ様でしたね」

 彼の肩にぐりぐりと頭を押し付けていると、ふふっと小さく笑う声が聞こえた。後頭部をポンポンと撫でながら「今日はどうしたんですか?」と問われる。
「ご存知の通り、新人さんが入ってくれたんだけどね、それは嬉しいんだけど……
「あぁ確かに、事務所でそのような話を聞きましたね」
「うん。でも通常業務もありつつ新人研修を進めないといけなくて、頭と手がとっても疲れた」
……なるほど、そうでしたか」
 頭の次は背中を優しく撫でてくれている。少しくすぐったいけれど、これも気持ちが良い。好きな人にくっつくとストレス軽減すると聞いたことがあるが、これが噂の効果か……と勝手に納得した。

「そういえば――そんな貴女に丁度、良いものがありますよ」
……良いもの?なにそれ」
 そんなことを言われては、気になるじゃないか。私はようやく彼の肩口から顔を上げて、フリンズと至近距離で目線を合わせる。
「少し準備をしますので、貴女はお風呂にゆっくり入ってきて下さい。……さて、下ろしますよ」
 彼の膝の上からソファへと移動させられて、そのまま立ち上がる彼を目で追うと、少し屈んだ彼から額にキスを一つ貰う。……ちょっとくすぐったい。
「湯船を貯めてきますので、――寝ないで待っててくださいね」
「はぁい」
 今にも寝そうになっていることがバレている。しかし『良いもの』の正体が気になるので、仕方なく彼の言う通りにすることにした。

 
 フリンズの言う良いものとは、なんのことだろうか。食べ物?それとも可愛いもの?
 ……全く分からないけれど、そんな想像を巡らせるだけで楽しい気分になって来た。一体何が起こるのだろうか――と、いろんな予想をしながら湯船に身を沈めた。


 ***


……なぁに、この状況は?」
 
 お風呂から上がり髪の毛を乾かしてから彼の元へ戻ると、部屋の照明が落とされて薄暗くなっており、テーブルの上にある彼のランプのみが光源となっていた。寝るには少し早い時間では……などと考える。
――お戻りですね。では、こちらへお掛けください」
 フリンズに促されるまま、ランプ前のソファへ腰掛ける。すると、なんだか――甘く温かな香りがする。
 
「これ、なんの香り?」
「こちらのアロマキャンドルですね」
 
 彼の目線を追ってテーブルの上を見ると、ランプの近くに蒼い炎を灯した蝋燭を見つけた。少し太めで高さの低い蝋燭と、その炎を眺めていたら、フリンズはフゥっと息を吹きかけて炎を消してしまう。
「あれ、消しちゃうの……?」
 せっかく綺麗だったのに……と少し残念そうに彼に声をかけるが、ニコリと笑うだけで何も教えてくれなかった。
 そのままフリンズを眺めていると、彼はそっと自身の手首に指をかけ、いつも身につけている手袋を外す。すると、見慣れた白く長い綺麗な指が現れ、そのまま私の目の前に移動し、手のひらを差し出される。

「さぁこちらに、貴女の手を乗せてください」
 
 私の手を……?不思議に思って首を傾げながらも、差し出されたフリンズの手のひらに合わせるように、私の手を乗せる。
 少し握り返された手はそのままに、もう片方の手をテーブルへ伸ばした彼は――先程のアロマキャンドルの上に貯まったオイルに、指先を浸した。
…………えっ?」
「ふふ、熱くは無いんですよ。――まぁ僕は、どんな温度であろうと問題ありませんが」
 オイルを浸した指先を、先程から掴まれている私の手の甲にスゥーっと伸ばすと、とても良い甘い香りが広がる。熱くは、無い。むしろ程よく温かくて心地よい温度だった。
 そのまま彼に身を任せていると、アロマオイルを全体に伸ばすように手に揉み込まれる。時々オイルを追加しながら、指の間や指先を揉みほぐしてくれる。マッサージとオイルの効果で、手がぽかぽかして来た。
 
「これが、フリンズの言ってた『良いもの』なの?」
「えぇそうです。マッサージキャンドル――という物です。先日、酒の席でお聞きしまして、ね。丁度こちらを手に入れたところでした」
 彼はアロマキャンドルの方へ目を向けてから、私と目線を合わせてくる。
「こう言ったものが、貴方はお好きでしょう?」
……うん、とっても好き。ありがとう」
 えへへと笑いながらお礼を伝えると、彼は少し頷くような素振りをして満足そうに顔をほころばせた。

 
「さぁ、もう片方の手もどうぞ」
「お願いします。……そうだ、私の手が終わったらフリンズにも試しても良い?」
「おや、僕にもですか? では、是非お願いすることにしましょうか」



『重ねた互いの手を取り合って、温めましょうか』