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10008Senya
2026-04-03 21:39:23
2604文字
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ご都合秘境でオトナになる話
空×放浪者
秘境で大人になった空くんと放浪者の話です。
広い部屋。豪華な内装、美しい景色。見るからに寝心地の良さそうなベッド。
テーブルには色鮮やかな果実に、水は、さぞ高価なのだろうえも言われぬ灰青色の陶磁器に入っている。
望舒旅館の中でも一等お高いであろうその部屋には修験者の出立の少年がいて、ベッドの上の山を見つめている。
山は空だ。
哲学的なことを言っているわけではなく、旅人の空が布団を被って籠城しているのだ。
「わざわざ僕をここまで呼び出しておいて出迎えどころか会おうともしないなんて、失礼にもほどがあるんじゃないのかい?」
放浪者の言う通り、数日前に空から『景色も料理も最高でしかも静かな宿があるんだ』と浮かれた手紙を受け取って、ちょうど暇だからと璃月は荻花洲は望舒旅館に足を運んでみてみれば、本人の姿はなく旅館のオーナーに部屋まで案内された。
しかも誰かに見張られているような感覚もあって、落ち着かない。
もしかして空の具合が悪いのかと案じたが、オーナーの様子からそうした大事ではなさそうでますます分からない。本人に聞くしかないと思っていても、姿も声も出しやしない。
これは本当に帰った方がいいのかもしれない、と思い出した矢先、山が動いた。
「やっと話す気になったのか、い
……
?」
のっそりと、山が大きくなる。今まで蹲っていた体勢から身を起こしただけなのだが、放浪者の記憶よりも一回りほど大きい。
「空なの?」
布団の間から見えた顔は間違いなく空なのだが、丸みのあった頬はシュッと引き締まり、大きな目は幾分か鋭さを増している。
下げられた眉尻で悲壮感を漂わせているが、街中を歩けば誰もがふり返るほどの美丈夫といって差し支えない青年がそこにはいた。
「もし君が空ではないのなら、僕を騙したってことで君を折檻するけどいいのかい?」
風元素を手の内に集め始めると寝台の人物は慌てて上布団を跳ね退けて、放浪者の前に飛び出した。
「ごめん■■!変な秘境でこんな姿になっちゃった!」
声も心なしかいつもよりも低いが、その仕草は間違いなく放浪者の知っている空だ。
曰く、新しい秘境か仙境の調査依頼があり、報酬も良かったため引き受けたのだが中のトラップで入っていた全員が歳をとってしまったらしい。
少年は青年に、青年は壮年になってしまったのだ。幸いこの効果は数日で消えることが分かったため問題はないのだという。
普段の生活を送るのであれば。
「それほど悲観するような、まして僕から身を隠す様な事態では無いと思うけど?」
「だって、なんだか俺が俺じゃないみたいで、体の感覚だって変だし。俺、おかしくない?さっきから頭をぶつけたり手が物にあたっちゃったりしているんだ」
慣れない体の感覚に戸惑って混乱しているらしい。
「だからもし、無意識のうちに君を傷付けたらと思うと怖くなって」
しゅん、と項垂れる様子に放浪者は呆れ半分加虐心四分の一愛しさ四分の一が胸を満たしたのち鼻で笑った。
「神をも屠った英雄殿が、そんなことを恐れているなんて全く滑稽だ」
空に近づき、まるでカーテンのようになっている髪の内に入って見上げれば突然の接近に驚いた表情。
髪の毛を掴んで引き寄せて唇を重ねてやれば、金色の目がまんまるに見開かれる。
「確かに口付けはしにくくなったけど、それだけだろう?」
「
……
■■っ、と、あれ?」
抱きしめようとする腕をまるで猫のようにすり抜けて放浪者は部屋に備え付けられてるソファに腰をおろした。
「この宿は料理も景色も最高なんだろう?設えも悪くない。ここを理由に僕を呼びつけたのなら君の全身全霊を持って、僕をここで楽しませる責任があると思うのだけど?」
足を組んで肘をついて曰う姿が相変わらずよくお似合いで、と空は見惚れてしまうが、放浪者は放浪者なりに気を遣っているのだとすぐに気が付いてその気持ちに少しだけ泣いた。
茶を飲んで旅館付近を散策し、景色を眺めながら食事をして、夜の風に当たって景色を楽しむ。
穏やかな時間が過ぎ去れば次は夜の時間。身を清めて霓裳花で織られた揃いの寝巻きに着替えていざ閨へというところで、空はいそいそとソファに移動する。
「どうしてそっちで寝るんだい?」
「だって体大きくなっちゃったし、狭いかなって」
「君は目がおかしくなったのかい?どう見ても、僕が大人になったって十分余裕があるように見えるけど」
寝台は部屋に一つしかないが、その大きさはキングサイズで大人が二人寝ても十分に余裕があるサイズだ。
「それとも、僕とは同衾したくないと?
……
目線が変わって、やっぱり僕には触れたくなくなった?」
わざとらしくしおらしい事を言ってみれば、空は慌て出した。
「いやそんなことはないよ!本当は触れたいし、一緒に寝たい。寝たいけど」
「寝たいけど?何か問題が?」
「俺の問題っていうか、多分その、普通に寝るだけじゃすまないっていうか触れるよりももっとと言いますか」
「それになんの問題が?君にはもう何度も抱かれているはずだけど」
放浪者の言う通り二人は恋仲になってしばらく経っているので何度も夜を共に過ごしている。今日だって夜はおそらくそう言う事をするだろうと放浪者は信じて疑っていなかった。
「だって今の俺の身体は大きくなったから、君に、その
……
負担が
……
」
「
…………
ああ」
そう言うことか、と合点する。ただでさえ受け入れる側には大きな負担を強いているのに、体格に差が出てしまっては放浪者に辛い思いをさせてしまうかもしれないと空は恐れていたのだ。
「全く、僕を誰だと思っているんだい?これでも体の頑丈さには自信があるんだ。」
ソファに座る空の膝に乗り上げてわざとらしく上目遣いで首を傾げて見せる。
「それに、君は随分と自分の『モノ』に自信があるようだね?なのに『ソレ』で僕を満足させようって甲斐性を、かのご高名な旅人さんはお持ちではないなんてなんて」
煽るような物言いに空は悲しいやら怒りやら戸惑いやらでもごもごとし出す。
もう一押しだ、と放浪者は空の耳元に口を寄せる。
「それに
……
僕だって、君と一つになりたいんだ」
いつだって一番効果があるのは素直な言葉。
固まったのち、空の、いつもよりも逞しくなった腕が背に回されて放浪者はほくそ笑んだ。
続く
……
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