ぬす
2026-04-03 20:49:42
6287文字
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2108457

ラブ・ボム

あんまりよろしくないンポ夢。監禁に至るまでの話。名前変換あり

ユメユメユメユメユメ※キャラが夢主を監禁する
※モラハラ描写がある



 
 選択の自由がない、と感じている。
はじまりは彼からの熱烈なアプローチ。
差し出された真っ赤な薔薇の花束と共に語られた情熱的な言葉に心を動かされ、私はサンポと交際を始めた。
彼は大袈裟とも思えるほどに積極的な愛情表現をする人で、メッセージは毎日しっかり送られてくるし、デートの際には毎回プレゼントを用意してくれる。
はじめはそれが幸せだった。
ああ、この人はなんて優しくて、私を愛してくれているのだろう!
メッセージが届くたびに舞い上がって喜んで、こちらからも贈り物を返してと理想的なカップルのように互いを尊重し合っていたと思う。
 しかし、その幸せはそう長くは続かなかった。
愛情が過ぎ去って頻度が減るのであればまだ良い。それは自然に消えゆくものだから。
だが、彼の愛情表現はどんどんエスカレートしていった。
綺麗なものを見せたくて。あなたに似合うと思って。
気付けば私の部屋が花束とプレゼントボックスで埋まるのではないかというほどに彼からの熱烈な愛情が捧げられていた。
 今日のコーデだってそう。
髪飾りや腕時計、ワンピースにハイヒール、アイシャドウとリップも彼から贈られたものだ。
私のこの身体だって。
シャンプーやトリートメントだけじゃない。化粧水や乳液、ボディクリームだってそう。クレンジングオイルもヘアミルクも、全て全てが彼のもの。
頭から爪先まで彼の好みに染められて、自分の選んだものは殆ど残ってはいない。
 愛されるのは嬉しいことだ。
こんな悩みはきっと、贅沢極まりないものなのだろう。
だけど正直、重いのではないだろうか。
そんなに貰っても返せない、と言えば「あなたがいてくれるだけでいい」なんてことを言う。
私が身に纏うものが贈り物ではなかったら「お気に召しませんでしたか」と悲しむ。
断ることもできたのだろうが、せっかく彼が準備したものを無下にするわけにもいかなくて。
与えられることは幸福なはずなのに、いつしか私は彼の顔色を窺うようになっていた。
 小さな音が鳴って、彼からのメッセージが表示される。
「そろそろ時間ですね。車で向かいます」
以前、同じように車で迎えに来た時のこと。
その時はただ彼に貰ったワンピースに自前の靴を合わせるのが可愛いと思って、ヒールの低い靴を履いていた。
すると彼は「馬鹿な男達のようにあなたを歩かせるつもりはありませんよ」と拗ねて、そのデートでハイヒールを何足も買い与えてきたのだ。
それから彼が車で向かうと言った時は必ずハイヒールを履くようにしている。
そうしないと、彼が機嫌を悪くしてしまうから。
「今日もサンポが選んだワンピースだよ。迎えに来てね」
 馬鹿らしいご機嫌取りのようなメッセージを送ると、すぐに可愛らしいハートのスタンプが返されてきた。
 そんなに彼からの愛情が苦しいのならば別れれば良いのではないか?
何度もそう考えて、しかしそれは実行できないでいた。
まず、彼から大量の贈り物を受けておいて別れ話を振るなんてことはできない。良心が痛むし、彼に罵られるかもしれないと思うと恐怖心すら芽生える。
そして何より、私が彼の愛に依存している。
私だって彼が嫌いなわけではない。ただその愛情に応え続けるのが難しくて心が悲鳴を上げているだけだ。
対等に愛し合えるのならそれが一番良い。それができるのであれば、彼とはずっと幸せに生きていられたはずだ。
メッセージが送られてくる時、心が沈むと同時に喜びも感じていた。
まだ彼が私を見放していない、そう思えるからだ。
 車の走行音が聞こえて、チャイムが鳴る。
玄関扉を開けると車の前で彼が待っていて、嬉しそうに微笑んで――私を上から下まで舐めるように見つめた。
品定めだ。私が彼の選んだものをちゃんと身につけているかどうか、確認しているのだ。
「どう……かな」
「はい!今日もとっても可愛らしいですよ!僕の最愛のユメさん」
 ほっと胸を撫で下ろして、彼に続いて車に乗り助手席に座る。
今日のコーデは彼のお気に召したようだ。
何も、彼の好みでなければ暴力を振るわれるだとかそんなことはない。むしろ、彼は過剰なほどに与えてくれる。
今となってはそれが少し怖い。それに応えなければいけない気がして、息が詰まってしまう。
「今日は、あなたに見せたいものがあるんです!」
「見せたいもの?」
 照れたように目を細めてにこにこと笑うサンポ。
プレゼントならすぐに「こちらをどうぞ」と渡してくるはずだが、今日のものはそうではないらしい。
「今日のデートの終わりにそちらへご案内いたします。
 楽しみにしていてくださいね!」
「う、うん!」
 ご案内、ということは景色か何かだろうか。
高級レストランでの夜景です、という可能性も捨て切れなくはないがそれならドレスコードの指定もあるはず。
今日は久しぶりに穏やかなデートになるかもしれない、なんてことを考えながら彼の横顔を覗き見る。
今日はいつもよりずっと機嫌が良さそうだ。
 彼はいつだってにこやかだ。だからこそそれが崩れる瞬間が怖くて、目つきや声色が変わる瞬間が訪れるたびに固まってしまう。
彼に嫌われたくない。怒られたくない。見捨てられたくない。そんな思いが積み重なって、彼の理想を演じ続けて。
そして、これだけ彼に愛されておきながら期待に応えられない私が悪いのだ――何度もそう考えて口を閉ざした。
「ふふ、ユメさん」
「どうしたの?」
「あなたが隣にいることが幸せだ、と思ったんです。
 愛おしい、僕の最愛のユメさん」
 そうして愛を囁かれると胸が高鳴って幸福感に包まれる。
彼は私を愛しているし、私も彼を愛しているからこそその言葉を喜べるのだろう。
私達は幸福な恋人同士。きっと、私の悩みなんて贅沢極まりない傲慢なもの。
だから私から彼に別れを告げようなんて、出来るわけがないし、あってはならないことなのだ。
 ふと手の中のスマートフォンが震えて、誰かからの着信を告げる。
――いけない。今は彼との時間なのに。
彼がちらりと私に目を向ける。その目は恐ろしいほどに冷ややかで、この先の行動を間違えるなと言っている。
スマートフォンの電源を落として、鞄の中にしまう。
「ごめんね、デート中なのに」
「いいえ!気にしないでください。
 それより、出なくてよかったんですか?」
……いいの。サンポとのデートの方が大事だから」
 本当はきっと、大切な家族や友人からの連絡。
だけど私は選択を間違えられない。
にっこりと笑う彼に安堵して、私も微笑みを返した。



 今日はずっと彼の機嫌が良い。
黄金シアターでミュージカルを観て、カフェで休憩して、少し買い物をしてからディナーを楽しんで。
そして今はその帰り道、約束通り彼が見せたいものとやらのために車に揺られている。
……ねぇ、街からどんどん離れてない?」
「ええ、だから今日は車なんです。少し不安かもしれませんが、大丈夫!怖いところに行くわけではありません」
 そうは言っても行政区の中心からはかなり遠ざかって、周囲には人気もない。
シルバーメインの姿すらなく、とてもデートの最後に向かう場所とは思えない。
まるで今から死体でも隠しに行くような気分だ。
「到着しました。こちらへどうぞ!」
 そこは廃墟の建ち並ぶ中では小綺麗な、小さな家。
彼の家だろうか?いや、違うはずだ。前に家でのデートをした時はこんなところまで来なかった。
言われるがまま、恐る恐る扉を開けば中は想像よりもずっと明るくて整頓されている。
こんな人気のない場所の建物とは思えないほどだ。虫や鼠もおらず、壁にもシミひとつない。
「こちらの部屋へどうぞ!ささ、早く!」
「ま、待ってよ。何なの?ここ」
「部屋に入ってからのお楽しみ、ですよ!」
 いかにもサプライズを準備していますとばかりに嬉しそうに背中を押して、私が扉を開くのを待っている。
鍵がついたドアノブに手をかければ、それは見た目よりもずっと重い。それに奇妙なことに一軒家の中だというのにドアスコープがついている。
ごくりと唾を飲み込んで、ゆっくりと扉を開く。
……わ!かわいい……
 部屋の中はアンティーク調の家具が飾られてクラシカルな雰囲気で統一されており、赤の壁紙に華やかな印象を受ける。
やはり掃除も行き届いており、埃ひとつないと言っても過言ではないだろう。
なにより、全てのものが私好みだ。ベッドフレームの繊細な装飾も、ランプの優しい明るささえも。
「お気に召しましたか?」
「うん!とっても素敵!……でもこれ、どういうこと?」
 夢のような空間に心躍る反面、彼の答えが怖かった。
明らかに異常だ。こんな人気のないところに連れてこられて、都合のいい空間がぽんとそこにあるわけがない。
どう考えても、彼が用意したものだ。
一から十まで家具を揃えて、私のために作られた部屋だ。
どうして?何のために?
彼が口を開くまでのその一瞬、冷や汗がだらりと零れ落ちる。
「勿論、あなたと過ごすための部屋を作ったんですよ!
 僕達はもっと二人で愛し合う時間が必要だ。そう思いませんか?」
「えっと……デート用の場所、ってこと?流石にちょっと、やりすぎ……
「いえいえ、そんな!遠慮しないでください!
 どうぞじっくり、この部屋を楽しんでほしいんです」
 ああ、これも彼のプレゼントなのだ。
そう理解した時、眩暈がした。
私は彼からの好意を断れない。それは悪いことだと認識している。
今すぐこの空間から逃げ出して受け取らなかったことにしたい。それなのに、彼の目の前でそんな間違った選択ができるわけがないと足が動くのを拒んでいる。
「ほら、あなたのお好きなブランドの食器も用意したんです。お気に入りの本も何冊か揃えさせていただきました。あとは……
「ほ、本気出しすぎだよ。まるでここに住むみたい……
「あはは!それは良い考えですね」
 それが失言だとは思わなかった。彼の行き過ぎたプレゼント、ただそう思っていたのだから。
ベッドに二人腰掛けて、頬に彼の手が触れる。
ああ、これからはここでするのだな、なんてことをうっすら思いながら愛情深いキスを受け入れたその時。
 かちり、と小さな音がした。
……え?」
首に奇妙な冷たさと、金属と革の重みを感じた。
それにはこの部屋には似合わない鎖が繋がっていて、その先はベッドの下へと続いている。
ぞわりと全身に寒気が走った。
これはプレイ用のチャチな首輪なんかじゃない。
本気で私をこの場所に縛りつけるためのものだ。
――まずい。今すぐにこれを外して、逃げなければ!
頭ではそう判断しているのに身体はやはり動かない。
彼の前では良い子にしていなければ。そんな馬鹿げた思い込みが優先して、縋るように笑顔を浮かべてしまう。
「とっても可愛らしいです!ああ、僕の思った通り、この首輪を選んで正解でした」
 うっとりとした表情でこちらを見つめるサンポの目はいつも通り愛おしげで、それが酷く恐ろしくて。
「サ、サンポ、なに?何をしてるの……?」
「何って、あなたは確かにお利口さんですが一人にするとなると不安が残りますので」
「ねえ、何の話……?」
……はぁ。言わないとわからないんですか?」
 じっとりと彼の声が低くなって、びくりと心臓が震える。
今この状況で彼を怒らせる、それが何を意味するか。
こんなことになった以上、嫌われるかも、なんて心配は意味をなさない。それでも、彼に逆らってはいけないと植え付けられた頭は従順に振る舞えと強制してくる。
逃げなければ。どうにかしてここから出て行かなければならないのに。
「あ、はは!ここ、素敵だから気に入っちゃった。
 本当にここで暮らしていいの?」
「ええ、はい!食事やお風呂もこちらで用意させていただきますので、ごゆっくり過ごしていただければ」
「そんなの、悪いよ。サンポはいつも私に優しくしてくれてるのに」
「お気になさらず!僕が好きでしていることです。
 可愛いユメさんのためですからね」
 一瞬でもいい。この首輪を外してもらうための言い訳を考えなければ。
彼がしようとしていることは明らかに監禁だ。
さすがにそれを疑問に思わないほど盲従しているわけではない。
しかし私は彼に逆らうことはできない。私にできることは尻尾を振ることだけ。
「で、でもね。サンポ。私、お家にいろんなものを置いてきちゃった」
「必要なものがあれば僕が揃えますよ」
「サンポにもらった大切なものがいっぱいあるの。取りに戻らなきゃ……
 なるべく不自然にならないように、自分をシアターの女優だと言い聞かせるように嘘をつく。
この首輪が外れたら走ってここを逃げ出して、何としてでも中心部に戻って、シルバーメインに通報しよう。
彼は私をこれ以上無いほど愛してくれた。その愛には応えたかった。だがこれはもう、付き合い切れない。付き合ってはいけない。
私の人生が、生死がかかっている。ここで選択を間違えてはいけない!
「ああ、なんて愛らしい!僕の贈り物をそんなに気に入ってくださるなんて」
「ね、だから一回帰らなきゃ。車で送ってほしいな」
「あはは、お安い御用です!と、言いたいところですが――あなた今、僕から目を逸らしましたね?」
 手首を掴まれ、瞳を覗き込まれる。
まずい。見抜かれた。彼の前で嘘を吐こうなんて百年早かったのかもしれない。
恐怖と緊張で呼吸が乱れるのを無理やり飲み込んで平静を装っても、掴まれた腕が微かに震えて怯えているのが丸わかりだ。
はぁ、と彼が溜め息をついた。それだけで心臓が冷え切って全身がびくりと強張る。
「ご心配なく!僕が全て取ってきますよ。
 ですがらあなたはここにいて、僕に鍵を渡してください。
 ね、僕の愛しいユメさん?」
……え」
 放たれた声色は気味が悪いほどに優しく甘く、それでいてその言葉は何よりも残酷なもの。
策を見抜かれ希望を絶たれ、それどころか全てを失えと言われたようなもの。
支配された頭でも理解している。
鍵を渡せば二度と返っては来ない。私は帰る場所すら失って、ここで生きるしかなくなってしまう。
いや、それどころか首輪をつけられている以上生きるも死ぬも彼の気分次第だ。
ここで彼に一生隷属して媚びへつらって腹を見せて、それでもいつ見捨てられるかわからない。
絶対に渡してはいけない。
その緑の目に屈服してはいけない!
「どうしましたか?」
……あ、」
 理解している。理解しているのだ。理解はしているのだ!
それなのに、私は拒めない。
彼に逆らうことを許されてはいない。
だって私は彼に愛されて生きているのだから。
……よろしくね、サンポ」
 鞄のポケットからキーケースを抜き出して彼の手に乗せる。
自分の部屋の鍵も、実家の鍵も、車の鍵も、すべて。
口の端は引き攣って、自分が笑っているのか悲しんでいるのかすらわからない。
おしまいだ。それなのに涙すら出ない。
彼がそれをポケットにしまって、よくできましたとばかりに額に口付ける。
それがどうしてか嬉しくて、お返しに唇にキスをして。
彼が去って一人、鍵のかけられた部屋で静かに与えられた本を開いた。