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ゆたか
2026-04-03 16:45:01
3213文字
Public
3.2.1ではい!雑伊!4展示作品
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3.2.1ではい!雑伊4 展示作品②
「あ、雑渡さん」
「おや、伊作くん」
街道沿いの小さな茶屋で偶然出会ったのは、悪いお城の忍組頭の雑渡昆奈門だった。とはいえ伊作にとっては保健室に手土産を持って遊びにくる気のいい人物だ。隣には陣内と呼ばれている男性が静かに立っていて、様子から察するに仕事だろうか。邪魔してはいけないと思い小さく会釈をして店に入ろうとすると雑渡から呼び止められた。
「伊作くんはここに泊まりに?」
口調は優しいがどこか探りを入れている気配を感じ、少し肌がチリつく。
「いえ、薬を売りに行った帰りでここには食事しに立ち寄っただけです」
「あれ?そうなんだ。でもここから学園までは結構距離あるよ?今日中に着くのは難しいと思うけど」
やはりまだ伊作の答えに納得いっていないといない様子で質問を重ねてくる雑渡に、伊作は静かに答えた。
「
…
泊まるほどのお金もないので。薬を売ったお金は活動費なので僕が使うわけにも
…
。今日は天気もいいですし、僕、木の上でも寝れますから」
それはそうだけど
…
と言って雑渡は隣にいた陣内といくつか言葉を交わし、伊作に向き直る。
「じゃあ、私がお金を持つから一緒にここに泊まろうよ」
「はあ!?」
雑渡の言葉に素っ頓狂な声を出してしまって伊作は慌てて自分の口を押さえる。
「で
…
でもお仕事の途中なのでしょう?邪魔しては
…
」
小声でそう言うと雑渡はニコニコ笑いながら伊作に話しかける。
「仕事
…
だけど残りは陣内がやってくれるしさ。ここはタソガレドキの方が近いから今日中に帰るつもりだったけどそんなの聞いたからには野宿させるわけにもいかないし、ね?」
その口調は保健室で話しかけてくるいつもの雑渡のもので、自分のことを何かに利用しようとしてる様子も感じられなかった。ちらりと陣内の方を見ると困ったような顔をして小さく頭を下げてくる。
「伊作くん、すまないがそう言うことでお願いしたい。一人だと何するかわからないからお目付け役を兼ねて」
「僕が
…
!?そんな恐れ多いこと!?」
手をブンブン振って断ろうとするが歩み寄った雑渡が伊作の肩を抱いて陣内を睨んだ。
「何それ信用ないなあ。ひどいよねえ?」
笑いかけられるもののどうしたらいいかわからず、あうあうと唇だけが動く。
「では私は一足先に」
「はーい。じゃあ伊作くんは私と一緒ね。
…
せっかくだから悪いことしちゃう?」
イタズラっこのように目を細めてそんなことをいう雑渡に陣内は「昆!」と小さく咎めた。
食事をすませ、部屋に通される。小さな部屋だったが掃除はされているようで心地よい空間が広がっていた。まさか屋根の下で寝られるとは思っていなかったので部屋の隅置かれた布団に思わず目が輝く。
「ありがとうございます!すみません気を使わせて
…
」
「気にしないで。
…
で、悪いこと
…
したい?」
雑渡の誘いに伊作の胸が大きく鳴る。いつも保健室で優しく話しかけてくる雑渡。もちろん彼が仕事となればなんのためらいもなく人の命すらも奪える存在なのは出会いの時から重々わかっているつもりだ。そんな彼がいう「悪い事」とは
…
。と驚きと不安と期待と
…
様々な気持ちが入り混じって何も答えられずにいると雑渡は伊作の頭をぽんぽんと叩いて部屋を出て行った。
「はい!お酒!」
ほんの少しの間を置いて、雑渡は大きな酒瓶を持って部屋に戻ってきた。雑渡は盆の上に置かれたお猪口に並々に酒を注ぎ唇の端を上げた。
「忍びは三禁なのでは?」
「だから悪い事。でしょう?初めて?」
お猪口を差し出され、それを受け取る。つまみは少しの塩と漬物。なんとも大人らしい並びに伊作は少年らしい笑顔を浮かべて受け取ったそれを煽った。
「
…
秘密ですが六年の皆で少しだけ」
「
…
その飲みっぷりは少しじゃないねえ?悪い子だ」
雑渡の口から「悪い子」と言われて胸の奥が少しくすぐったい。伊作は、ふふ。と笑って空のお猪口を雑渡に差し出した。
酒が進むと口も軽くなる。雑渡と一対一で酒を呑むなんて思ってもいなかったのもあって、伊作はふわふわした頭で目の前の雑渡を落ちかけた瞼と闘いながら眺める。保健室に来る雑渡はよく伏木雑を膝に乗せているのでなかなか話しかける事が出来ない。包帯を替えることはあったが怪我の様子や薬の話などでそれ以上の話をすることはあまりなかった。
こうして話してみると博識で伊作の話をよく聞いてくれて心地よい会話が続いていく。見る限り酔った様子もないので酒には強いのだろうか。同じペースで飲んでいるのに伊作はすでに身体がゆらゆらと揺れ始めている。
「もう寝ようか?」
雑渡の声にふるふると頭を振ったがその反動にくらりと身体が持っていかれる。
「おやおや、流石に飲みすぎたかな?」
ぽんぽんと肩を叩かれ、見上げると優しい笑みを浮かべた雑渡が伊作を見下ろしていた。
「僕
…
もう六年生です」
「知ってるよ」
「子供じゃありません」
「そうなんだ」
「そうです!でも
…
でも
…
!」
酔った勢いでずっと思っていたことを雑渡に伝えようと、きゅっと手を握り意を決して言葉を紡ぐ。
「僕も雑渡さんのお膝に乗りたいです!」
「
…
!?」
「もう六年なのに!一年生を抱っこする立場なのに!でもお膝に乗って雑渡さんとお話したいです!」
泣き出しそうな顔で吐露する伊作に雑渡は大きな笑い声を上げた。
「は
…
ははっ!ははは!そっか、そうなんだ。いやあそうかあ。六年だもんねえ?我慢してたんだ?」
「からかわないでください!僕だって!甘えたい時だって
…
うわっ!」
ふわりと身体が浮いてすとんと身体が落とされる。伊作は雑渡の膝の上に座り、横を見ると包帯を巻かれた顔が近くにあった。視線はこれ以上なく優しくてとろりとした頭がじわりと熱くなる
「今日は頑張ったねえ。委員長だもんねえ」
よしよしと頭を撫でられ、背中から肩に感じる雑渡の逞しい腕が暖かく伊作を包む。その優しい仕草にじわりと目頭が熱くなった。
「他には?この際だから全部言っちゃえば?」
もうどうにでもなれと伊作は身を起こして雑渡の首に抱きついた。
「大変なんです!下級生の世話もしなきゃだし、予算も考えなきゃだし、学園長先生の頼み事もうまく行ったりいかなかったりで
…
」
雑渡はうんうんと聴きながら伊作の背中をぽんぽんと叩く。
「気にしないように思って過ごしてますけどやっぱり行き詰まる時があって
…
!でもみんな同じように大変なので同級生には言えなくて
…
」
「
…
」
とん
…
とんと雑渡の大きな手が伊作の背を叩き続ける。
「
…
雑渡さんだったら相談に乗ってくれるかな
…
と
…
」
そのまま口をつぐむ伊作の背中をさすり雑渡は優しく話しかけた。
「
…
気づかなくてごめんね。あまり気の利いたこと言えそうにないけど、それでいい?」
「
……
はい!」
その後結局夜通し語り合い、伊作はふらふらの身体で宿屋を出た。支払いをすませて出てくる雑渡はしゃんとしていて同じように時間を過ごしたはずなのにその胆力に自分の不甲斐なさを思い知らされる。
「組頭」
少し離れたところから声をかけてきたのは雑渡を迎えにきたのであろう陣内だった。ここからタソガレドキもかなり距離があるのにその往復をものともしない様子にこれまた身が引き締まる思いだった。
「お疲れ様」
「いえ。伊作くん
…
は
…
」
言いながら伊作の様子を見て、陣内はぎょっとした顔をした。
少し泣いた様子の腫れた目元に、寝不足で気だるげな様子に疑惑の目を雑渡に向ける。
「昆
…
お前まさか
…
」
陣内の言わんとする事を察して雑渡の目が意地悪く細められる。
「いや〜そりゃあねえ?忘れられない夜を過ごしたよね?伊作くん?」
そう言いながら伊作を見ると、肩をびくりと震わせて頬を染めながら顔を伏せた。
その様子に陣内は天を仰ぎながらどんな詫びの品を持って学園に向かうべきか頭を悩ませるのだった。
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