碑硫竜紀
2026-04-03 07:51:05
1626文字
Public R1999:donriveryaoi
 

重荷を背負わせるわけにはいかない

イヴァンゴール #donriveryaoi リバース:1999

 司令室の中は嫌だと言われ、俺たちはこそこそと誰にも見つからないように静かに司令室を出て、人のいない場所を探した。結局、これだけの兵士がいるためにそんな場所はなく、それでも司令室の中は嫌だと頑なに言われ、結局司令室のテントの真裏に俺たちは隠れることになった。
「声は出すなよ」
 イゴールがいつも静かで声を抑えていることはわかっている。小声での忠告はキスを答えとされた。
 彼のコートは、草原の地面からほどよく自分たちを守ってくれた。汚すのは躊躇われたが、うまくやれと甘い声でねだられた。
 互いに止まらないキスをしながら服を脱がし合い、晒された首元や胸元に吸い付く。金属の音を立てながらイゴールにベルトを外された。
 余裕がない。イゴールは口を固く閉じて声を殺し、俺は寒いのか興奮しているのか、赤くなってきた肌に口付けていくつもの箇所を吸った。彼の肌の味がする。少しの汗と濃厚な彼の匂いで、吸うだけではなく舌が出た。大きく鍛え上げられた胸を舐めると拳で軽く頭を叩かれてしまった。
 その彼の手はそのまま俺の頭を抱いて、そして小さく、イヴァンが欲しい、と、俺の耳に欲望を流し込んできた。
 そうして互いに互いを貪り合い、高め合って果てたところで、俺たちは理性を完全に失っていた。そのまま二度、三度と交わり、イゴールを汚していく。だが彼も同時に、俺に耽溺したいと求めてきた――行為の虚しさを見ないことにして。
 満足したところで、服をかき集めて隠すようにして、抱き締めあってそのまま眠った。部下たちに見つからないことを願いながら。

 瞬いていた星はいつの間にか無くなり、ドン川の向こうから日が昇ってきている。明るさは弱いが朝を迎え、目を開いたがイゴールはまだ俺の腕の中で眠っていた。乱れた髪を指で分け、その現れた額にキスを落とす。
「起きろ、イゴール。部下に見つかるぞ」
 いつもの定刻よりはまだ早い。だが威厳を守るには早めに支度をしたいし、何より昨夜の匂いを残したくない。実らない秋は花も咲かないために、いつもの手段での誤魔化しが効かない。
「イヴァン」
 服を着る俺に腕が伸びてくる。まだ裸の彼の腕が、俺の腹を捉えて離さない。
「お前は、……
 何を言いたかったのかわからない。それ以上彼は言葉を紡がず、身体を起こして、同じように服を羽織った。
 これが最後かもしれない。戦場に立つ以上いつもそう考えているが、これほど死地という言葉が似合う状況は今までになかった。彼は何かを予感しているのだろうか。それとも、何も無いからこそ、あんなにも熱烈に求めてきたのだろうか。
 とにかく動ける程度に服は着て、俺たちはまたこそこそとテントを横切り馬を連れた。川へ向かう。朝焼けが草原を輝かせている。
 馬に水を飲ませながら、俺たちは再び服を脱ぎ、水を浴びた。秋、冬とは思えない気温の高さのおかげで凍えなくて済んだ。忌々しい季節外れが役に立つなど考えたくもない。
 一通り支度を済ませると、もう俺もイゴールもいつも通りの姿になった。少し名残惜しさを感じて手が伸びる。彼は大人しくその手が触れる頬を寄せてくれた。そのまま引き寄せてキスをする。柔らかく触れるだけだったが、それで満足できた。
「これを最後にするなよ」
 彼の目は伏せられていた。自嘲気味に笑う口元は、キスをしたばかりとは思えないほど温度が感じられない。彼はもう地獄に足を漬けてしまったらしい。
「お前こそ」
 頬骨を指でなぞると、伏せられていた灰色の目が俺を射抜いた。目尻が下がり、微笑まれたと思ったら、またいつもの元帥の姿に戻っていた。
 甘く人間らしい彼もだが、同時に強くあろうとするこの姿の彼も、俺は愛していた。
「戻ろう。みんなが心配する」
「ああ。そうだな」
 馬に跨る。腹を蹴って、忌々しい黄金の原っぱを駆け抜けていく。彼の白い髪も朝日を浴びて、黄金色に輝きながら風に靡いていた。