ヨジ🔞
2026-04-03 06:54:33
2728文字
Public logh
 

【双璧】ヴァルハラからの手紙

ロイエンタールからミッターマイヤーへ。

相互さんたちが開催されていた「#Fロイリボン週間」に寄せて書いた作品。
いつか後日談(手紙を読んだミッターマイヤー視点)を追加したい。

ミッターマイヤー、

はじめに、お前にあやまることがある。
お前はこのさき、おれのせいで、多くの苦労をするだろう。
そのとき、お前のそばにいて力になれぬことを、すまなく思う。
だが、お前ならきっと、新たな銀河帝国を支え、良い未来をつかむことができると、おれは信じている。
そのことを、けっして、忘れないでほしい。



自分、オスカー・フォン・ロイエンタールはいま、ヴァルハラからこの手紙を書いている。
まさか、ヴァルハラなるものが実在するとは。そして、この英雄たちの館に、おれも招かれるとは。光栄なことだ。
ここにいる者は、年をとらない。皆、死したときの年齢か、あるいはさらに若々しい最盛期の姿で、思い思いにすごしている。
たとえばおれは、わが皇帝マイン・カイザー——そちらでの皇帝はアレク陛下だろうが、おれにとっての「皇帝カイザー」はただひとり——ラインハルト陛下と再会し、握手を交わした。
ヴァルハラでは、現世のわだかまりなど、些末なものなのだ。もっとも、見慣れぬおれの髪型をからかってこられた陛下には、いささか閉口したが……
こちらでの陛下は、いつもジークフリード・キルヒアイスとふたりでお過ごしになっている。死者をこう表現するのはいささか奇妙だが、皇帝は息災そのものだから安心してくれ。ヴァルハラには病など存在しないからな。それにしても、陛下がこれほど早くこちらにおいでになるとは思ってもみなかった。
ときに、おれの計算ではあのオーベルシュタインも、当分顔を見ずにすむはずだったのだが、期待が外れてしまったではないか。まあ、いい。現世のお前たちの胃痛が悪化しそうだから、こちらで引き受けてやるとしよう。
ヴァルハラには、これまでに亡くなった英雄たちがつどう。むろん、銀河帝国も自由惑星同盟も存在しない。オーベルシュタインはともかく、敵味方の垣根なく人々と交わるのは、なかなか愉快だ。おれは、あのヤン・ウェンリーとも顔を合わせた。不思議な雰囲気の男で、わが皇帝とは大違いだった。陛下とヤン・ウェンリーとの対談には、おれもしばしば同席している。お前にも聞かせてやれれば、得るところが大きいだろうにと、よく思う。
以上の話から十分伝わったと思うが、ここはいいところだ。ともに酒を飲む相手がいないこと以外は。
こちらに来るのは、先の楽しみとして、とっておくように。なるべく遅れてくることだ。

ヴァルハラからは、地上のようすがよく見える。だからおれは、お前のことなら何でも知っているぞ。
最近、とくに忙しそうじゃないか。髪が伸びたな。髭の剃りのこしはないか? スカーフが曲がっていないか、毎朝鏡の前でチェックしろ。身だしなみには気をつかえ。
こんな言い方になってしまったが、要は心配しているということだ。
おれらしくないだろう? だが、どうやら死というものは、ひとりの人間を決定的に変えてしまうものらしい。「奇をてらうひねくれ者」あるいは「複雑な精神構造のひねくれ者」のロイエンタールが、こまごまと口うるさい世話焼きになることも、ありえない話ではないというわけさ。(ちなみにこれらは、旧同盟軍の宿将アレクサンドル・ビュコック提督からいただいた、おれにはもったいない人物評だ。)
慣れない政務は大変だろう。それにお前は、あのオーベルシュタインのような「ナンバー2不要論」を唱える人間から、目をつけられやすい立場にある。
だが、アレク陛下をささえるのはお前ひとりではない。何から何まで背負いこまなくていいんだ。
困ったときは、周りを見ろ。そのたいそうな名に恥じぬお前であれ。
お前はその名を、さほど重くは受けとめていないかもしれない。だがな、おれは「金銀妖瞳ヘテロクロミアのロイエンタール」と呼ばれていたんだぞ。「戦争の天才」「不敗の魔術師」「疾風ウォルフウォルフ・デア・シュトルム」「鉄壁ミュラー」のような、気の利いたあだ名を、誰かつけてくれてもよかったのにな。まったく、この忌々しい目は、どこへいってもついてくる。おれはお前が心底うらやましい。
生前のおれ個人の呼ばれ方は、あまりいいものではなかった。だが、おれは「帝国の双璧」の一人だった。おれはそれを誇らしく思う。なにしろ、敬愛する友と同じ肩書きだったのだからな。
それを「帝国の至宝」にしてしまい、申し訳なく思っている。だが、その肩書きがけっして的外れではないことを、おれはよく知っている。
半身がいないと不完全な「一璧」は、おれだけだ。ウォルフガング・ミッターマイヤーは、「至宝」と称されるに値する男だ。
心配するな。お前はその名を負うにふさわしい人間だと、おれが保証する。その重みにひるまず、背筋をのばせ。これが、おれからの助言だ。

それから。
おれのリボンを、ハインリッヒ・ランベルツから受けとったのか。よく似合っているじゃないか。叛逆の日、おれが解いてしまったそれを、お前が引き継いでくれてよかった。皆の反応は見ものだったな。



だが、お前の父をあまりおどろかせないでやってくれ。おれが蘇ったのかと勘違いして、一瞬心臓がとまったあいつを、おれはなんとか現世に追いかえしたのだ。危ないところだったんだからな。おれは、このような形で友と再会するなど、望んでおらぬ。

どうか、おれの代わりに、彼をささえてやってほしい。彼はおれの頼みをきいて、お前をあずかってくれたのだ。今度はお前が、彼を助ける番だろう?
なんだ、おれが美酒の杯を片手に高みの見物をしていると言いたいのか? ……文句があるなら、いずれヴァルハラで聞いてやる。
ともかく、これはお前にしか任せられぬことなのだ。お前の父を——わが友を、どうか、よろしくたのむ。



最後にもう一度言おう。
お前はこのさき、おれのせいで、多くの苦労をするだろう。
なぜならお前は、ローエングラム王朝初の大逆の罪人、オスカー・フォン・ロイエンタールの実子だからだ。
そのことでお前が後ろ指をさされるとき、そばにいて力になれぬことを、すまなく思う。
だが、お前ならきっと、新たな銀河帝国を支え、良い未来をつかむことができると、おれは信じている。
なぜならお前は、わが友ウォルフガング・ミッターマイヤーのもとで育てられたからだ。それは、おれなどが育てるよりも、はるかにいいことなのだ。その環境は、おれからお前にあてた唯一の、そして最良の贈り物だったと、自負している。
忘れないでほしい。
お前が、ふたりの父親から望まれて育った息子であることを。



お前の血縁上の父、オスカー・フォン・ロイエンタールから、フェリックス・ミッターマイヤーへ