酔った勢いで、同居している俳優仲間と付き合っているとSNSに投稿。すぐに見破られるかと思いきや「知ってた!」「ついに公表したんですね」「やっぱり」と誰も疑う様子をみせない。
二人で戸惑っていると、事務所から連絡が来る。
お互いの事務所の偉い人達が集まって会議することになった。「本当に付き合っているのか?」「すみません、本当は付き合ってないんです」と正直に答えるが、二人が起用されている広告のスポンサーが話題になっていると大喜びしているので、この契約が終わるまで付き合っていることにして欲しいと言われる。
ちょうど一年間。
若手俳優の登竜門とも言われているファッションブランドのアンバサダーだった。
二人に恋人同士という名前が付いても、どうして良いのか分からない。とりあえずいつも通りにライブ配信してみると、相変わらずイチャイチャなどとコメントが付く。二人はずっと友達のつもりだったから、何が友達同士のやりとりで、何が恋人同士のやりとりなのかが全く分からない。
さすがに配信はしなかったが、手を繋いで歩いてみても、家でコッソリとキスをしてみても、ドキドキしたという感情はなく、しっくりきた、という感情だった。
全く、分からない。
どうすれば恋人になって、何が友達なのか。
強いて変わった点をあげるならば、恋人同士と公表しているから他の人と接触は控えるべきじゃないか?となり、彼以外の俳優仲間とスキンシップをとる事が減ったくらいだ。特に何も困らないし、自分がやらないと言うことは、向こうもやらないということで、前に比べるとイライラする事が減った。
向こうの束縛はなかなか強く、他の俳優と笑って話しただけで叱られたが、それすらも何だか良いと思えてしまうのは恋人という名前が付いたからだろうか。
それから、あっという間に一年が経ち
あのブランドのアンバサダーは、次の後輩へ引き継がれることになった。
事務所からまた呼び出されてあの日と同じ会議をする。
「もう終わったから、二人の関係を元に戻していい」「せっかくだから、ちゃんと発表しよう」と緊急ライブ配信を行うことになる。
浮かない表情の二人。
だって未だに、何が恋人で、何が友達なのか分からない。ずっと友達だったのに、急に恋人という名前が付いて、変化があったのは僅かな事だけ。自分たちは何も変わらずに過ごして来た。「友達に戻っていい」と言われても、もうどうやって過ごして良いの分からない。
4月1日。
ファンの子達の楽しそうなコメントが流れていくなか、自分達は暗い表情で「僕たちは、別れることになりました」と報告をする。
悲鳴のようなコメントが凄まじい勢いで流れて行く。
暗い話はこの辺にして、と早々に切り上げて、いつも通りに配信を行うつもりが恋人として過ごした毎日の想い出話となった。
「最初のデートでさ、いつも通りの遊び過ぎて、慌ててゲーセン寄ってプリ撮ったよね」「カップルポーズみたいなのがあって、楽しかった」
「先輩と話してただけなのに、すごく怒られてさ、あんなに怒んなくてもよくない?」「向こうの態度が気に食わなかった」「先輩だよ⁉︎」
「俺たちは変わらず、一緒に暮らし続けるし、変わらないと思……嘘。ごめん、分かんない」「うん」「もう……別れたら、恋人じゃなくなったら、どう過ごして良いのか分かんない」「うん、俺も……」
二人で分かんないって言いながら、泣き出す。
「分かんない、分かんないけど、別れたくない」「俺も、別れてまた友達に戻るとか嫌だ」
そこでようやく、お互いを想う気持ちを理解する。
――そうか、ずっと好きだったんだ。恋人という名前が付く前から、ずっと……。
「俺、攻めのこと好き」「俺も、受けのことが、好き。別れて友達に戻るとか、戻り方も分かんない」
コメントは冷静で「じゃ別れなきゃよくない?」「事務所の方針?」「なしにしよ!」「恋人のままで良いじゃん」と流れていく。カンペでも「別れなくてもいいよ」と出される。
二人でどうしようかと顔を見合わせていると、ふと目に入ったコメントに「今日はエイプリルフールだから、嘘にしよう」とあった。それから、賛同するように、嘘にしようと流れてくる。
「……俺たち、去年公表した時は付き合っていなかったんです。エイプリルフールの嘘でした」
「そして、今日。本当の事として別れたと公表しましたが、これを嘘にしたいと思います」
「俺たちは別れません。エイプリルフールの嘘でした」
嘘が本当に、本当が嘘に。
でもたった一つの本当は、変わらずにあった。
おわり
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