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toora
2026-04-02 22:13:39
1566文字
Public
伊数
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3月中に完成させようと思ってた小説のやつ
春、別れの季節だ。伊作が六年間血と汗を流し友愛を育んだ学園に別れを告げなくてはいけない季節だ。それは伊作と数馬の関係が終わる日が刻一刻と近づいていることも意味していた。
「数馬にはみんながいるから大丈夫だね」
伊作が雪が積もるような寒い日に、当番でもない数馬を呼び火鉢をつつきながらそう言った。数馬は弱った調子で小さく笑う。先輩の前で足を崩し組んだ胡座の上で手を揉み、うっすらと汗が滲んだこめかみで伊作の目線を受け止めている。
「伊作先輩には、その」
そこで数馬の口が、はくっと息をつめる。
障子から差し込んでくる青白い光のせいか、数馬の顔がいっそう白く見えた。
「ぼくには?」
ぱちん、と小さく炭が弾ける音がする。
伊作のまっすぐすぎる目線が口元に来ているのを感じながら数馬はゆっくり伊作の顔を正面から見た。伊作の少し小さい黒目が無感情に数馬の丸い目を見つめ返していた。
「伊作先輩には、これから先待っている人がたくさんいますから」
少し湿った声で言う数馬に、伊作はただ哀れだと思った。その笑顔にぬるい、居心地の悪さを感じた。
「そう、だね」
だから伊作は短くそう返した。
伊作が数馬に手を出したのはそう昔ではない。
いやもしかしたらずっと前からだったのかもしれないが、困ったことに記憶がない。しかもお互いに、乱太郎が入学してくるまでの記憶がない。
学園と言う枠の中に収まる身だからこその不思議なのだろうが、少なくとも明確な意思を持ってその体を掻き抱いたのはほんの二、三ヶ月前だった。
伊作は優しい少年だった。稀有なほどの優しさという「珠」に、周りを巻き込みさらには自身は怪我をするという「瑕」があるが、影が薄いことに悩む後輩に励ましの声をかけるのは当然だった。伊作自身も数馬の「不運」の被害に逢うこともしばしばあるのが歯がゆいところだった。
伊作は数馬に同情していた。後輩の「不運」を可哀想だと思っていた。他人の怪我や病こそ可哀想だと思っても、他人のドジや不運にはそう思ったことはない。
だから、魔が差したんだ、と伊作は常にそう思っている。
もとから小さい肩が寂しそうに見えたのも、可哀想だと思ったからだろう。
あの秋晴れの日、伊作は自分達の辺りに誰もいないことを確認してそっと肩を抱き寄せてみた。その時の数馬の顔に困惑が浮かんだのを伊作は今も覚えている。
息を詰めて口をつぐむ数馬に、謎の高揚感を抱いた。
同時に善良な部分がやめろと、そんなことをして数馬が傷ついたらどうするのかと、悲鳴を上げる。でも若い好奇心とふつふつと湧き上がる未知の欲望で口の中が潤う。
そのまま肩を抱いた手を数馬の腕に沿って下に、腰をそっと包み込むように手を回す。じっとしているとじわじわ数馬の体が温かくなっていった。小さく短く浅く息をする数馬の肌から汗のにおいがし始める。
頭巾の隙間から見える頬の赤みが、相手がまんざらでもないと伊作に伝えてくる。ほっとした。そのまま数馬の顔に自分の頬を近づける。数馬の短い呼吸が伊作の頬の産毛をかすめる。
「伊作先輩」
その声がまだ、何故先輩がこんなことをしているのか分からないと言っていた。
伊作の着物の裾がクンッと引かれる。
「いさく、先輩」
寄せた頬に数馬の頬が合わさる。頬の少しざらついた砂の感覚がする。
「あの」
「なに?」
「
……
」
数馬の頭がそっと伊作から離れた。
「ぼく、こういうセコいことされる方だったなんて知りませんでした」
数馬の顔に戸惑いと嫌悪が浮かんでいた。
秋の乾いた風が伊作の腕の中を通り抜けていった。
そんなこともあったが、何かの憐れみが数馬のもとにも訪れたのか、二人は晴れて抱き合うまでの仲になった。
〈未完〉
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