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いさき
2026-04-02 16:03:34
890文字
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「禍い」
もめキザ
ぼんやりと薄暗い部屋。暗い天井を見上げながら、男の鼻歌を聞いていた。
東京、鬼が人が、暮らす街
東京、鬼と人は、憎み合う
東京にいれば誰もが知っている、言い伝えの歌だ。
口遊みながら、赤子でもあやすように俺の腹を摩る男の機嫌を読み取ることはできない。
男は俺の髪を撫でると、側に並んだ角に指先を這わせた。
「鬼のような角も」
ぞわりとした感覚に一瞬体が強張る。遮るために払い除けようと持ち上げた手も、あっさりと掴まれてしまった。
「爪も」
手袋をはめた男とは対照的に、俺の指先には伸びた爪が尖っている。ろくに抵抗する気のない俺の腕をそっと置くと、男の手は俺の頬を撫で、指先が唇を割って入り込んできた。
「牙も」
指先が歯列をなぞる。目立つ突起に指先の腹を這わせて、尖った牙を自らに刺すようにふにふにと遊んで、飽きたように口元から離れていった。
「人には何もない」
見下ろす男の視線を避けるように天井を見上げた。
「
……
それでも、お前の方が強いだろ」
男は、ふ、と笑って、ねえキザミさん、と俺の名を呼ぶ。
「僕って優しいですか?」
「
……
優しくねぇよ」
「人なのに、ね」
人の優しさ、鬼の強さを
男はくすくす笑う。
全身、特に首元の、覚えのある痛みがじんわりと滲む。
「噛み跡、
……
付けるなって言ってるだろ」
この男が優しい時なんてほとんどない。
「いいじゃないですか。貴方のような立派な牙ではないんですし」
「痛ぇよ」
肌に男の指先が触れる。手袋越しの摩擦が返って傷口を刺激する。
「その度に、思い出せるでしょう?」
男がつけた傷を丁寧になぞっていく刺激が、体に残った熱を甘く呼び起こす。
男の考えていることがわからない。
「俺は、
……
孕めない」
男は、ふふ、と楽しそうに笑って、また俺の腹を摩る。
「僕たちが授かれるとするなら、それは一体なんだと思いますか?」
まるで赤子でもあやすように、優しく。
「さあな」
出逢えば、必ず、哀しみが
交われば、必ず、禍いが
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