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ウッウ
2026-04-01 16:34:24
2513文字
Public
春の廻あざ小話
付き合っていない廻あざがお花見するお話です。
「お花見しませんか?」
時刻は夕方。
調査から直帰で構わないと告げたはずのあざみが、何故かセンターへと戻ってきた。
その手には保冷バッグ。肩には大きなトートバッグが掛けられている。
「
……
お花見、ですか」
PCから顔を上げ、廻屋が呟く。
興味なさげなその声音を気にも留めず、あざみは軽い足取りでデスクの傍へと歩み寄った。
ごそごそとバッグを漁り、中身を次々と並べていく。
「お弁当、持ってきたんです!水筒に温かいお茶と、寒い時用のブランケット。大きなレジャーシートもあります!あとあと
……
」
楽しげに目を細めながら、あざみはプラスチックの容器を取り出した。
それを印籠のように掲げ、満面の笑みで差し出す。
「じゃじゃーん!三色団子!」
「
…………
」
「
……
あっ、桜餅もあります!」
反応がないままでも、あざみは気にした様子もなくバッグの底を探る。
一度帰宅して準備を整え、わざわざ戻ってきたらしい。
ひとつ息を吐き、廻屋は静かに首を振った。
「
……
生憎ですが、この脚なので」
そして、再びPCへと視線を落とす。
視界の端で、あざみが慌てたように身を乗り出すのが見えた。
「で、でも、センターの裏の公園なら近いですし
……
この時間なら、人も少ないと思いますよ?」
「すみません。ですが、あざみさんの手を煩わせるわけにはいきませんから」
淡々と、常套句を並べる。
何か言い返してくるかと思ったが、彼女はそのまま口を閉ざした。
――
傷つけてしまっただろうか。
そっと様子を窺うと、俯き加減の顔の奥、蒼い瞳がちらりと覗いた。
予想に反し、その眦はふっと和らぐ。
次の瞬間、花のような笑みが咲いた。
「ふふ
……
実は、そう言うかもって思ってたんです!」
あざみは意気揚々とトートバッグを漁り出す。
やがて、中から紙に包まれた束を取り出した。
包みを開き、そのまま差し出される。
そこには、枝についた桜の花が咲いていた。
「桜の切り花です。さっき、お花屋さんで買ってきました!」
あざみはぱたぱたと奥のキッチンへ向かい、ガラスのコップを手に戻ってくる。
水を汲んだそれに、桜の枝を差し込んだ。
簡易的ながらも生けられた花が、薄暗いセンターに淡い彩りを添える。
「これで、お花見できますよ!」
呪物や暗い資料に囲まれた空間の中で、その切り花だけが明るく咲き誇っている。
――
まるで、彼女自身のようだった。
「
……
本当ですね」
「センター長さん、地下に篭ってばかりなんですもん。一緒に桜、楽しみたかったんです!」
あざみは近くの椅子を引き寄せると、廻屋の隣に腰を下ろした。
デスクの空いたスペースに、手際よく弁当箱を広げていく。
何気なくその様子を眺めていると、ふと、あざみの手が止まった。
恐る恐る、といった様子でこちらを見上げる。
そして、躊躇いがちに口を開いた。
「あの
……
やっぱり、迷惑でしたかね
……
?」
勢いで行動に移してみたものの、不安が追いついてきたらしい。
その健気で愛らしい姿に、思わず口元が綻んだ。
「いいえ。
……
嬉しいですよ」
そう告げると、彼女は頬を赤らめる。
桜色の唇をきゅっと結び、恥じらうように視線を逸らした。
並べられた弁当は、素朴ながらも、丁寧に作られたものだった。
おにぎり、卵焼き、ブロッコリーにプチトマト。ウィンナーとアスパラベーコン。
普段、栄養補助食品しか口にしない廻屋にとっては、どこか新鮮さを感じさせる献立だった。
「いただいても?」
「か、簡単なのばかりなんですけど
……
」
箸を伸ばし、卵焼きに口をつける。
出汁の風味がふわりと香る、優しい甘さが口いっぱいに広がった。
「美味しいですよ」
素直に感想を述べると、あざみは見るからにほっとした様子で、表情を緩める。
ゆっくりと弁当を味わいながら、最近の出来事など、取り留めもなく語り合う。
温かいお茶のおかげだろうか。それとも、久しぶりにまともな食事を口にしたからだろうか。
廻屋の胸の奥に、えも知れぬ安らぎが満ちていった。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした!食べていただき、ありがとうございます!」
あざみは嬉しげに微笑むと、弁当箱を片し始める。
ふと時計を見れば、いつの間にか日が沈んでいる時間だった。
「
……
あざみさん」
「はい?」
きょとんと、真っ直ぐに見つめてくる瞳。
その純真な色に、ふ、と笑みが零れた。
「やはり、デザートは外でいただきましょうか」
「えっ
……
いいんですか?」
ぱっと、彼女の目が輝く。
口元がふわりと緩み、頬が桃色に染まっていく。
心から嬉しそうな様子だった。
「ええ。もう夜桜になってしまいますが。
……
それに、あの公園は街灯もほとんどありませんから、少し寂しいかもしれませんよ」
念のためにそう付け加えるが、あざみはぶんぶんと大きく首を横に振る。
「ぜんっぜん大丈夫です!今日は満月ですし、きっと綺麗に見えますよ!」
「
……
そうですね。では、行きましょうか」
あざみはいそいそと、団子と桜餅のパックをバッグに詰める。
軽やかに立ち上がると、小さな声で呟いた。
「えへへ
……
やった、センター長さんとデートだ
……
」
「
……
デート?」
思わず、復唱する。
その一言に、あざみははっと息を呑んだ。
しまった、とでも言いたげに表情を強張らせる。
「あ
……
いや
……
な、なんでもない、でしゅ
……
」
語尾に動揺が隠しきれていない。
そのまま彼女は縮こまり、困ったように眉尻を下げる。
まるで、叱られた子犬のようだ。
思わず、喉の奥でくつくつと笑う。
本当に彼女は面白くて、見ていて飽きやしない。
不安げにこちらを見つめるあざみに、廻屋は柔らかく目を細めた。
「いえ
……
行きましょうか。お花見デート」
「
……
へっ」
瞬間、彼女の顔が真っ赤に染まる。
桜よりも、ずっと鮮やかに。
廻屋は揶揄い混じりに笑みを浮かべ、車椅子を動かした。
その後ろを、あざみが慌てて追いかける。
季節は、春。
地下四階のセンターにも、確かにそれは訪れていた。
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