夢篠
2026-04-01 20:00:00
1798文字
Public
 
2103742

不同意駆け落ち

花嫁候補を連れ去る雑渡昆奈門

ナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエ山道を歩いていたら少し疲れたような顔でぐったりと木陰に座り込んでいるナマエを見付けた。珍しい事もあると目を瞬かせていると私の気配に勘付いた彼女がこちらに視線を遣った。

「あ、雑渡さん」

「やあ、ナマエ。どうしたのかな」

ナマエは最近各城の忍たちの間で噂になっているくノ一だった。今はまだ、仕えるべき主人が見つからないとか何とか言って、あちらこちらの城で依頼を受けているようで、何度か共に仕事をした私もその能力に惚れ込み、何度もタソガレドキに来るよう誘っているのだが、結果は芳しくない。それはまあ、置いておこうかな。

疲れた顔に笑顔を見せるナマエに軽く手を挙げてその隣に立つ。ナマエが私が座る場所を空けるように横にずれるのが少し気に食わないがまあ良い。ナマエがずれた分彼女と距離を詰めて座る。ナマエは苦笑していたが身体的な距離はそのままだったので良しとしておいた。

「疲れているようだけど、何かあったの?」

いつもの忍び装束ではなく普通の町娘のような装いで座り込んでいるナマエの姿を上から下まで見詰め回すと彼女は恥じらうように視線を逸らす。ああ、可愛いなあ。悪戯心が湧いて、彼女の射干玉の髪を一房掬う。ナマエの頬が一層赤くなって、私の加虐心も増してしまう。

「あ、いえ、私は……

「忍務、って訳では無さそうだ。君が何処かの城に雇われたなんて最近は聞いていないし」

言外にナマエの事をいつも見ているのだと伝えてみれば彼女は気まずそうに視線を逸らしながら赤い頬を隠すように頬に手を当てた。ああ、可愛いなあ。

「ぅ、あの、えっと、その、郷の養父にですね……

かくかくしかじか

「ふうん……

ああ、面白くないなあ。ナマエの話で感情にざらざらとしたささくれが立ってしまい、そこばかり気になってしまう。私、自分ではそういうのはあまり気にしない人間だと思っていたのだけれどね。

つまりこういう事だ。優秀なくノ一であるナマエは所謂「引く手数多」というやつのようで。まあ、それ自体は理解できるのだけれども。優秀なくノ一には優秀な忍者が当てがわれる。即ち後継ぎを残さなければならぬという訳だ。ナマエは郷里から縁談の話を持っての帰り道だったという訳だ。

「ふうん、それはそれは大変だったねえ」

「もう、他人事ですね。それでなくとも私は仕えるべき主人を見付けていないために肩身が狭いのに……。義父上にも困ったものです」

「それならさあ、タソガレドキに来なよ。君なら大歓迎だし、高待遇だよ?……縁談相手だって、」

口を衝いて出そうになった言葉を呑み込んでにっこりと微笑んで見せる。いけないいけない。私ってばうっかりさん。言って良い事と悪い事はちゃんと区別を付けないと。

……?まあ、なんというか、私も良い加減これと決めた方に生涯仕えなければならぬとは思うのですが……

困ったように眉を寄せるナマエの髪を指先でなぞる。柔らかくて触り心地が良いそれを弄びながら彼女の顔を覗き込む。ああ、可愛いなあ。食べちゃいたいくらいだ。

「やっぱりさあ、タソガレドキにおいでよ。今なら君の縁談相手も何とかしてあげる」

「ええ……、なんですそれ……

苦笑するナマエはどうやら私の話を本気にはしていないようだ。でも本気の拒絶を見せないのだから良いや。本気で拒絶するなら私も手を考えたけれど、少しでも付け入る隙を見せたナマエが悪い。ナマエの両手をぐ、と握って逃げられないように顔を覗き込む。

「ねえ、良いよね?私の許に連れ返っても」

「え、あ、あの、今からですか……?」

「善は急げってね。疲れてるんでしょ?連れて帰ってあげる」

はい、おいで、と両手を広げるとナマエは更に苦笑してすす、と私から距離を取る。

「タソガレドキ軍忍び組頭ともあろうお方がお戯れを……

「へえ、戯れに見えるんだ?別に本気にしなくとも良いけどね。……私は本気だから」

「ぅ、え、ひゃ、あっ!?」

「あはは、しっかり掴まっていてね」

ぎゅう、と身を寄せられて気分が良い。さて、先ずは何から始めたら良いんだろう。取り敢えず、白無垢はもう準備出来ているから殿に報告したら式って出来るかな?