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akane898819442
2026-03-31 23:40:09
2095文字
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エイプリルフール
4/1午前中限定公開してた作品。
小さな嘘から始まるお話。
「私たち、もう別れよう?」
夜ごはんを食べ終わって、消灯前の時間帯。星は資料室を訪れていた。昼間の開拓で集めた資料を持っていくついでに、いつもポーカーフェイスの恋人をちょっとだけ驚かせようと思ったのだ。
“列車の仲間”から“恋人”に名前が変わっても、二人の関係は特に変わらなかった。突然丹恒の態度が変わることもないし、恋愛小説のような甘い展開が訪れることもない。
今日が、『エイプリルフール』といって、嘘をついてもいい日だということは以前読んだ雑誌で知っていた。普段、資料の山に囲まれている彼ならすでに知っているのかもしれない。それでも、この嘘の言葉を聞いて、驚いたり、あわよくば少し悲しんだりしてくれないかな、なんて考えていた。
「
……
そうか」
丹恒の視線はその手に握られた資料から逸れることはなかった。声も、低く落ち着いたままだ。それだけ?と思ったけど、うまく言葉が出てこない。資料室の空調の音だけが大きく聞こえる。
そのうち「そろそろ寝るから出ていってくれないか」と、資料室を追い出されてしまった。
嘘だよ、と言えばよかった。
星は自分の部屋に戻ってベッドに入ってからも、自分の方を見てもくれない丹恒の姿を思い出しては、寝返りを繰り返していた。
すんなり受け入れられたのがなんだか悔しくて、つい意地を張ってしまった。でも、また明日会った時に言えばいいし、とゆるやかに眠りについた。
◇◆◇
「丹恒
……
今日も帰ってこないの?」
星は、毎朝ラウンジに行く度に列車の仲間に尋ねていた。なのかが、その度小さくため息をつく。
「生物の研究会に出かけたって何度も言ってるでしょ?稀少生物の観察をするから、数日列車を空けるし、場所が秘匿されてるから連絡もつかなくなるんだよね。星が列車に乗る前も何度かあったんだよ」
あのエイプリルフールの夜から、丹恒には会えていない。次の日になったら、嘘だよごめんねって言おうと思ってたのに、気づけばもう5日が過ぎていた。
「丹恒が好きだよ、付き合いたい」と言ったのは、自分からだった。開拓の旅の途中。仲間の自分から見ても綺麗な顔つきで、おまけに強い彼の存在は、世間が放っておかなかった。どの惑星に降り立っても、女性に声をかけられていたし、自分に「丹恒さんは恋人はいますか?」と聞いてくる女性は少なくなかった。
隣に立つのが自分でなかったら、と考えるのが嫌で、独り言のように、丹恒が好きだと伝えた。まさか受け入れてもらえるとは思わなかったけど。
それでも、お互いの関係が“恋人”と変わっても、何も変わらなかった。少女漫画のようにキスしたりしないし、軽いハグくらいだった。
嘘でも、「別れよう」と言ったのに、あれほど丹恒が普段通りだったのは、──結局流されての返事だったからなのかもしれない。
ある意味、諦めのように気持ちの整理がついてきた頃、丹恒は列車に帰ってきた。稀少生物が住む惑星なんて僻地に決まっているのに、甲斐甲斐しく全員分のお土産を買ってくるところは、さすがだなと思った。あの夜のことなんてなかったかのように、「お前にはこれを」と言って差し出されたのは、小さな翠色の石がついたブレスレットだった。
◇
「丹恒、いる?」
就寝前の時間帯。星は再び資料室を訪れた。もう戻れないのかもしれないけど、あの夜の言葉が嘘だということはちゃんと伝えないといけない。
ノックをして扉が開けられるまでの間が、やけに長く感じた。丹恒は無言で星を室内に迎え入れる。机の上には、丹恒が持ち帰った書類が山積みになっていた。
「忙しいのにごめんね」
「構わない。何か用か?」
あの夜と同じように、丹恒は椅子に座ったまま、資料から視線を外さなかった。どんなふうに伝えたらいいかな。星が下を向いていると丹恒がひとつため息をついた。
「エイプリルフールのことか?」
不意に核心を突かれて星は目を見開いた。
「
……
なん、で?」
「大方、『別れようと言ったのは嘘だった』と言いにきたんだろう
……
」
「
……
ごめん、丹恒」
星は下を向いたまま、ぼそりと呟いた。丹恒は資料を机の上に置いて、椅子から立ち上がる。そして、ゆっくりと星の方に近づいてきた。
「でも丹恒、手も出してこないから、私のこと別に好きじゃないのかなってちょっと思ってた」
「
……
は?」
丹恒の声が少し低くなった。あ、やばい。怒らせちゃったかも。じり、と丹恒が一歩前に踏み出した。
「俺がお前に手を出さないのは
……
、抑えが効かなくなりそうだったからだ。お前が望むならいつだって──」
少しずつ距離を詰められて、星は扉を背に追い詰められてしまった。丹恒の青翡翠の瞳は、見たこともない熱を孕んでいる。
「──丹恒、待って
……
」
抗う声は、急に塞がれた唇によって遮られた。ちゅ、と音を立てて少し冷えた唇が離れていく。囲い込まれるように扉についていた手が、背中に回される。外套がゆっくりと下されて、星はもう逃げられないのだと悟った。
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