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むかいえ
2026-03-31 21:42:12
6456文字
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シャアム
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French kiss
1st後のシャアム。軟禁されてたアムロをシャアが連れ出した同志ifもどき。
フレンチキスを軽いキスだと勘違いしてたアムロと、わからせるシャアの話。
ほとんど誘拐よろしく連れて来られた場所のことをアムロはよく知らない。考えられる余裕がなかったためである。
一年戦争の英雄だと広告塔として連れ回され、ニュータイプについて話せと言われたから頑張って言語化してみれば白けた空気に晒され、挙句ニュータイプの研究に協力しろと押し込められた研究所での実験はどんどん身体に負荷がかかっていく。失われた家族の象徴として愛したホワイトベースの面々とも会えず、アムロは孤独の中で憔悴していたのだ。
そんなアムロだが、研究所内が騒がしいと思っていたら覚えのある気配をした男に担がれて、あれよあれよと見知らぬ戦艦である。一体どんなツテを使い、どんな潜入の仕方をしたのか、男は曖昧に微笑むばかりで答えない。相当な無理を通したであろうことは想像に難くなく、それがアムロただひとりを檻から解き放つためだったのだから、彼は詮索するのをやめた。
やがて辿り着く小惑星、アクシズ。その居住区の一角に、アムロは押し込まれた。一年戦争後、敗走したジオン残党の多くが流入しているそこへ、彼ら彼女らの仇敵と言える者を連れ込んで良いものか、アムロ自身が思ったけれど、「今の君にその覇気はない。それに、この区画は限られた者しか来られないからね」と男は飄々と宣うだけだった。
初対面から、白兵戦の時も装着していた奇妙な仮面を取り払い、端正な面立ちと額の傷を露わにしたシャアは、やはりと兄妹と言うべきかセイラによく似ている。顔がいいというのは武器だ。アムロは美しい男の微笑みにもだもだとして反論できず、大人しく居住区で暮らすことになった。
外出は極力控えるように告げられ、ほとんど軟禁であった。ただ、憔悴していたアムロにとっては都合が良く、メディアに顔が出ていたことから迂闊に出歩けないことも理解できる。
そうしてゆっくりと、アムロはシャアの膝下で心の傷を癒すことになった。痩けていた頬は少年らしい丸みを取り戻し、目の下の隈も随分と薄くなった。失っていた表情の変化が戻り、無気力にぼんやりと過ごす時間が減って趣味の機械弄りもするようになる。
シャアは日中、アクシズの軍部で働いている。彼が帰ってくると、共に夕食を摂った。会話は少なく、シャアの質問にアムロが答えるだけの面談のようなものだったけれど、どことなく家族の団欒にも似たその時間を、アムロはひっそりと好んでいた。
やがてアムロが人並みに話せるようになると、シャアはモビルスーツの開発原案をアムロに見せたり、構造や機構、あるいは整備について意見を求めるようになる。といっても、機械弄りは趣味の範疇で、せいぜいガンダムの整備を素人なりにこなしてきただけのアムロである。流石に高度な見解などは難しい。
そう伝えれば、シャアは機械工学の参考書や論文などを持ち込んでくれた。元来、好きなことには一直線な気質のあるアムロは夢中になって読み耽り、学び、一年も経つ頃には機械工学に関してシャアと議論すらできるようになった。もはや本業と言えるほどマニアックな視点からの意見も言える。彼の学習意欲は底知れなかった。
今ではモビルスーツ開発部の幽霊開発社員である。立場的には正社員というよりアルバイト的な感じらしい。「君にも一応、開発社員としての席だけはあるぞ。貴重な意見に開発部も感謝していた」と何度目かの議論の際に、シャアにさらりと言われてアムロは仰天した。
――
そんな、穏やかな日々を過ごしていたから。アムロは少しずつシャアに惹かれていった。
それは恋愛的な意味ではなくて、友愛や親愛のものである。ホワイトベースの皆に抱いていたような、家族あるいは帰る場所、そういった愛着をシャアに抱いていた。
戦時中は散々追いかけ回されて殺されかけたことも多く、実際に肩をレイピアに貫かれたこともあったけれど、結局アムロの中のシャアのイメージは、初めて出会った時に敵兵とわかっていても助けてくれた純粋な優しさだ。さらには重力の井戸の底に沈められていたアムロを助け出し、時間と共に癒し、出来ることを与えて立場すらも作り上げてくれた。懐くのも無理はない。ストックホルム症候群みたいなものなのかな、と敵軍の佐官に抱くには危うい親愛に、アムロ自身も戸惑ったものだ。
「君が好きだ。私の恋人になってくれないか?」
だから、シャアからある日、まったく唐突にそう告げられた時には心底驚いた。
戦時中に拡大したニュータイプの能力のせいか、アムロは他人の悪意や敵意などを知らず知らずのうちに感知することが出来てしまう。シャアからはそう言った感情を感じることはなく、プレッシャーこそあれど穏やかな好意しか察せられなかった。アムロはそれを親愛の情だと思っていたのである。
そもそも『男が男をそう言った意味で好きになる』という知識や認識は、まだ彼の中にはなかった。恋人とは男女がなるもの、という固定観念があったのだ。自分とシャアが恋人になる
――
それが想像も出来ず、アムロは途方に暮れていた。
「シャア
……
あなたの言ってること、正直
……
よくわからない。男同士で、一体何をするというんですか」
「恋人に男女も何もないさ。することも、一般的な男女のそれと変わりない」
「じゃあ、女の人に頼めば
……
」
「私は君がいいんだ、アムロくん」
「う
……
ど、どうしてぼくなんか
……
」
「君が、アムロ・レイだからだ」
シャアの低く、甘い声が鼓膜を震わせる。彼が口にした『恋人』という言葉は、恋をしたことはあっても未だ男女関係の経験はないアムロとって、辞書の中にある無機質な単語に過ぎない。ましてや、男同士だ。まったく想像できない彼は困惑を隠せず、眉を下げてシャアを見返した。拒絶でも同意でもない視線は、まるで無垢な幼子のようであった。
年齢的には自慰も経験しているだろう少年の、しかし情愛を知らない眼差しは、シャアの執着をより深く歪んだものへと変質させていく。
「私は、君を繋ぎ止めるための『名前』が欲しいだけだ。同志でいいと思っていたが
……
物足りなくなってしまってね。君が望むような『家族』も悪くはないが、それよりも深いものが良い」
「ふ、深いって
……
」
ギシ、とソファフレームが音を立てる。そこに座るアムロを追い詰めるように、逃がさないように、シャアは両の肘掛けを押さえてアムロを覗き込む。
「
……
そうだな。わからないなら形から入るのも悪くない。
……
まずはキスから始めてみるのはどうだろう?」
「キス!? お、男となんて気持ち悪くないんですか
……
!?」
「君だから、私はしたい」
「
……
!」
「君は?」
シャアは薄く笑い、アムロとの距離を詰めた。鼻先が触れ合いそうなくらい近くに、シャアの端正な顔が迫る。
アムロは思わず身を引こうとして、ソファの背凭れに阻まれる。正面にはシャア。どのみち逃げ道はなかった。彼は諦めて、深く息を吐く。
「
……
っ、いいですよ。どうせ、僕には断る権利なんてないんでしょう?」
「フフ、可愛くない返答だが
……
まあいい。では、どんなキスがいい?」
「どんな!?」
試すような問いに、アムロは慌てて考える。どんなキスと言われても、キスに種類があること自体も、うっすらとしか知らないのだ。昔、フラウたちのような女学生がきゃあきゃあと騒いでいたことをどうにか思い出す。
ディープキス、バードキス、フレンチキス、チークキス
……
女学生たちが姦しく話していて耳に残っている名前だけ知っていても、それぞれのキスの意味や作法などは知らない。
一人掛けのソファを覆うシャアの腕の檻。金髪の男を見つめていると、すっかり鎮火されていたはずの、闘争心や負けん気などが顔を出す。
現状、被庇護者として守られている立場であっても、アムロにとってシャアはかつて立ち塞がった強敵で、負けたくない相手だった。知らないことを馬鹿にされたくない。
「どんなって
……
えっと、じゃあ
……
あの、フレンチキス? 軽い感じの
……
それくらいなら
……
」
すでに退路を絶たれたアムロは、この男から逃げたくない一心で、潔くシャアの口付けを受け入れる覚悟を決めていた。男とのキスなど気持ち悪いのでは、と自分で口にしておきながら、そこまで嫌だと思っていないことを、もちろん彼は自覚していない。
そして
――――
ひとつ、アムロは大きな勘違いをしていた。慌てて消去法のように提案したフレンチキス。それを小鳥が啄むような軽い挨拶のキスだと思い込んでいたのだ。いわゆる、バードキスである。
彼は、対面するシャアの瞳に宿った嗜虐的な光に、気付くことができなかった。
「
……
いいだろう。君の望み通りに、フレンチキスを」
シャアの手がゆっくりとアムロの頬を撫で、そのまま後頭部へと回された。逃がさない、その確固たる意志が指先から伝わるようだ。
近付いてくる唇に、アムロがぎゅっと目を閉じた瞬間、ぬるい他人の体温が唇に触れた。最初は、唇の形を確かめるように柔らかく
――
しかし、直後にシャアの舌先が油断していたアムロの唇を割る。ぬめる舌先が強引に中へと侵入した。
「ん
……
っ!? んんっ
……
!」
アムロの目が見開かれる。想像していた『軽い』ものとは似ても似つかない、粘膜を激しく弄り回す、略奪にも似たそれ。シャアの舌はアムロの口腔を隅々まで蹂躙し、歯列をなぞり、逃げる舌を捕らえては深く絡め取る。
「ふ、あ
……
シャ
……
ッ!」
呼吸すらままならず、肺の空気が急激に奪われていく。アムロはシャアの胸元を押し返そうとしたが、その腕は力なく震え、逆に縋るようにシャアの肩を強く握り締めてしまう。
銀色の雫が口端から溢れ、熱を帯びた吐息が混ざり合う。逃げようと頭を動かすたび、後頭部を押さえるシャアの手には力が入り、より深く、喉の奥を突くような接吻が繰り返された。
「
……
んん、っぅ
……
っ
……
は、あ
……
」
上手く呼吸が出来ない苦しみに思考が鈍る。必死に息を吸おうと開いた口に、さらに深くシャアの熱が注ぎ込まれていく。くちゅ
……
ぐち
……
と粘ついた水音と、間近に迫るシャアの肌の香りに、アムロの混乱は頂点に達した。
――
ようやく唇が離されたとき、アムロはシャアの胸に倒れ込むようにして、荒い呼吸を繰り返していた。潤んだ瞳には涙が溜まり、赤く色付いた唇がてらてらと互いの唾液で濡れている。
「
……
シャア、あなた
……
っ! これが、フレンチキスだなんて
……
」
「嘘ではないよ、アムロくん。君が望んだ『フレンチキス』とは、本来こういうものだ」
シャアは満足げに、アムロの乱れた前髪を緩く撫でた。その手つきは先ほどまでの呼吸を奪う荒々しさが嘘のように優しい。アムロはそのギャップに底知れない恐怖を感じる。彼を見つめる男の青い瞳は、まだ怪しく細められていた。
「あなたっ、わかってて
……
! それにぼくから望んだわけじゃあ
……
っん!」
「シィ、静かに
……
ン、キスの時にそう騒ぐものではない」
「
……
んうぅ
……
っ!」
アムロが抗議の声を上げる隙など、シャアは与えなかった。一度離れかけた唇は、さらに角度を変え、より深く、貪るように重ねられる。アムロの抗議などあっという間に飲み込まれた。
シャアの厚い舌は、強張るアムロの口内を我が物顔で蹂躙した。上顎の敏感な粘膜を愛撫し、逃げる舌を追い詰め、絡め取り、吸い上げる。容赦のない責めは、アムロに息苦しさだけではない何かを灯す。腹の奥からじわじわと滲むようなそれを、彼は知っている。
酸欠で視界がチカチカと点滅する。熱い。苦しい。
――
なのに、気持ちいい。
「
……
アムロくん。キスの時は、鼻で呼吸をするんだ」
唇を微かにずらし、シャアが濡れた声で囁く。その隙にアムロがヒュッと空気を吸い込むと、すかさずまた唇が塞がれた。
どうにか口を離そうと腕を突っ張っていたアムロは、とにかく息苦しさを解消するために、シャアの助言に従って鼻で息をする。
「
……
そう、上手だ」
鼓膜に直接響くような男の声。吐息と共に注ぎ込まれる甘い言葉は、アムロの理性を確実に溶かしていく。
「いい子だ
……
」
その言葉に、アムロの身体から力が抜けていく。舌を噛んで拒絶する方法だってあったはずなのに、気付けばアムロは、シャアの舌に応えるように自らのそれを絡ませていた。それがシャアに負けたくない一心によるものか、ただ与えられる快感を求めてのものなのか、アムロ自身にもわからない。キスに応えている、自覚すらない。
シャアはアムロの抵抗が止んだのを汲み取ると、さらに深く、彼を自身の腕の中に閉じ込めた。ソファに押し付けられるように、シャアの体重がアムロに圧し掛かる。
完全に逃げ場を失った体勢になったことも、アムロは気付かない。身長差ゆえに上を向かされているアムロの細い喉が、快感にひくひくと震える。
「あ、は
……
ふ、う
……
っ」
「ン
……
」
シャアの腕は、まるでアムロの肋骨を折らんばかりに強い。それなのに、アムロは不思議な浮遊感に襲われていた。これほど強く抱かれているのに、なぜかこの男の手から自分自身が永遠にこぼれ落ちてしまいそうな恐怖。
無意識のうちに、アムロの両腕が動いた。細い少年の腕が窮屈そうに持ち上がり、シャアの首筋に回る。急所に触れるその腕にシャアはピクリと反応したが、アムロはただしがみつくだけだった。
――
まるで、自らキスを強請るように。
シャアはアムロのその反応に、喉の奥で悦びに満ちた笑いを漏らした。首筋にしがみつくアムロの髪を乱暴に掻き上げ、絡み合う少年の舌先を甘く噛む。
「アムロくん
……
アムロ
……
」
「しゃ
……
」
必死に応える少年の、ぎゅっと閉ざされた瞼をシャアはうっとりと見つめ続けていた。
*
静まり返った室内には、二人の乱れた呼吸音だけが重なっていた。
ようやく離れた唇。その間を繋いでいた銀色の糸が、粘つくような名残惜しさを見せながらぷつりと断ち切れる。
アムロは、長い長いキスが終わり、シャアが動く様子がないことを確認すると、自ら男の首筋に回していた腕からゆっくりと力を抜いていく。しかし、シャアの腕の中に閉じ込められた身体は離されることもなく、居場所を見つけられなかった手は、迷うようにシャアの胸元の布地を掴んだ。
そのまま逃げ込むように彼の胸板に顔を押し付けて隠す。
「
……
っ、は
……
はあ
……
っ」
まだ熱を帯びた少年の吐息が、シャアのシャツ越しに肌へと伝わる。羞恥と、初めて知った深く濃厚なキスの余韻。それによる快楽。隠されていないアムロの耳朶やうなじは、真っ赤に染まっていた。
「
……
、
……
この先って
……
あるんですか」
籠もった声で、ぽつりと。震える唇から零れ落ちたのは、未知への恐怖と好奇心、そして純粋な『気持ちいい』を求める、抗いがたい誘惑に揺れた声だ。
「お、男同士でも
……
これ以上のことが
……
」
シャアがうっそりと笑う。無垢な少年は覚えてしまったのだ。他ならぬ自分が、それを教え込んだのだ。腕の中の愛おしい存在をさらに強く抱きしめ、その熱い耳元に唇を寄せる。
「これ以上は
……
『恋人』がやることだ」
慈しむような、それでいて逃げ道を完全に塞ぐような甘い囁き。
「今なら返答も、くれるかな?」
アムロがびくりと肩を揺らす。顔はシャアの胸に押し付けたまま、数秒。やがて、ゆっくりとその腕が動いた。己を抱き締める男の背中へとそろりと回し、先ほどよりも強く、ぎゅっと抱き返す。
それは、言葉にならない承諾だ。
――
この男に導かれるまま、泥濘のような深淵へ堕ちていくことを、少年が選んだ瞬間だった。
シャアは勝利を確信したかのように目を細め、眼前にさらされたアムロのうなじに優しく、誓いの印を残すように唇を落とした。
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