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2026-03-31 20:22:50
1763文字
Public 高諸
 

19)火の用心

高諸

住む家がことごと燃える尊ちゃんと、構わん好きだ!なのにもだもだしている高さんの話

「え、えーと、来ちゃった。……なんて」

ほら見たことか。自分の言葉も聞かずに出ていってたった1ヶ月でこのザマ。流石にすぐ受け入れる気にもなれず無視をしようにも、尊奈門が立っているのは高坂の部屋のドアの前。彼をどかさないことには部屋に入ることは叶わない。

「チェンジだ」
「あー!ごめんなさいごめんなさい!次のお家見つかるまででいいんです!!」

ここで足に縋りついた尊奈門を振り払えないのは、所謂、惚れた弱みというやつなのだろう。
高坂は聞こえるように大きなため息をついて、足に縋りついた尊奈門の首根っこを掴み、無理に立たせる。

「泣き喚くな、近所迷惑で私まで追い出される。……荷物はそれだけか?」
「はい、出かけてる間に火事になっちゃったから」

相変わらず悪運だけは強いやつ。ズボンについた汚れを払ってから仕方なく部屋に招き入れた。
尊奈門は勝手知ったる我が家のように洗面台で手を洗い、高坂が脱いだスーツの上着をハンガーに掛け始めた。

「おまえ、申し訳ないと思うなら飯くらい作れよ」
「はい!実はご飯の材料買ってきてたのですぐに作りますね〜!」

高坂の苛立つ声もなんのその。尊奈門はへらりと笑ってリュックから食材を取り出すキッチンを我が物顔で使い始めた。
住む場所がなくなったというのになんともたくましいことだ。
食事の用意ができるまで手持ち無沙汰になった高坂は、久々に湯船に浸かるために風呂を洗うことにした。




「ご馳走様」
「お粗末様でした」

一宿の礼として尊奈門が作った手料理は、高坂の好物ばかりだった。いや、尊奈門が作る料理はどれも高坂好みではあるのだが、その中でもとりわけ気に入っている料理ばかり。それが機嫌を取るためだという自覚はありつつも、食べ物に罪はないとあっという間に平らげた。
久々の手料理で腹だけでなく心も満たされた高坂は、ようやく本題を片付けるために尊奈門に声を掛けた。

 「で、今回はどこが燃えたんだ?」
……、真下の、部屋です」

だから家財一式全部燃え尽きました、と尊奈門はガックリ肩を落とした。不運な奴だという率直な感想は、尊奈門が注いだ熱いほうじ茶と共に飲み込んだ。
尊奈門の家が火事になるのはこれが初めてではない。大学進学を機に、一人暮らしを始めて早三年。部屋の全焼は二度目、全焼は免れたものの退去を余儀なくされたのを合わせれば六度目となる。
そのたびに高坂の家に転がり込み、次の住まいが見つかったらまた出ていくを繰り返していた。今回は1カ月で出戻って来たから、最短記録を更新したと言うわけだ。
正直、ここまで早く戻ってくるのは想定外であったが、またボヤ騒ぎに巻き込まれることは想像できた。
だから、今回燃えた部屋を見つけ、ここを出ていくときに、着替えの一部を部屋に置いて行かせた。それについては信用がないだの、今度は平気だのと尊奈門は反発したが、予想通りの結果に嬉しいどころか頭が痛くなった。

「消防士さんに、顔覚えられちゃってました」
「次、現場で見つかれば重要参考人だな」

こうもしょっちゅう家が燃えてれば、火災保険目当てと思われても仕方がないだろう。そう言う疑いの視線が向けられている自覚のある尊奈門は大きな大きなため息を吐いた。
そうでないことを知ってるだけに多少不憫に思う。

「次の家、ゆっくり決めろよ。できるだけセキュリティの良いところに」
「ゆっくりなんて悠長なこと言えませんよ!ここまで燃えたら逃げ場無くなっちゃうし」
……燃やす前提か」

やっと本来の調子を取り戻した尊奈門はけらけらと笑って温くなったほうじ茶を飲み干した。そのまま食器をまとめて台所で洗い物を始めたから、今日の話はここで終いの合図だ。明日も仕事がある高坂も、特に詰め寄ることをせず風呂に入ることにした。

脱衣所に入り一人だけの空間となった瞬間、高坂は項垂れた。
次こそは絶対と心に決めて送り出したのに、こうも早くそのチャンスが巡ってくるとは思っていなかった。心の準備ができていないという言い訳を、まさか自分にするなんて。情けなさに深く息を吐いた。

通算六回。
尊奈門にルームシェアを持ちかける切っ掛けは何度もあったのに、高坂が切り出せなかった回数でもある。