墨色
2026-03-31 20:15:54
2320文字
Public れめししお題
 

チワワとネコの答え合わせ

れめししお題企画「実験、撮影」お借りしました。
ケイイチワワが書きたかった。ケイイチワワになりきれてない。
無自覚両片思いが書けて満足。

『ご機嫌よう、観測者の諸君。今日も引き続き実験だ!』
 減圧機を背に、叶がお決まりの挨拶を口にしてレイメイチャンネルの撮影が始まった。
 
 
『大変だ!ケイイチ君をチワワにする実験をしていたら……合体してケイイチワワ君になってしまった!!』
 もくもくと上がるドライアイスの煙が晴れ、犬耳と尻尾を付けた獅子神の姿が映し出される。獅子神の髪の毛に合わせた、金色の毛並みの耳がピョコピョコと動く。
 『ははっ、かわいいなぁケイイチワワ君』
 撫でようと叶が手を伸ばすと、まるで威嚇するように獅子神が牙を向いた。
 『なかなか凶暴みたいだな。これは、躾が必要だ』
 叶は剣呑に瞳を細めると、チリンと鈴の鳴る首輪を獅子神の首に付けようと――

「カーットッ!!叶さん、18禁動画になっちゃうよ〜?」
 メガホン片手に、真経津が呆れた声を出す。
「まったくだ。つまらん茶番を見せるな」
「神の翼の撮影はまだか?」
 村雨と天堂も撮影に飽きてきているようだった。
 そんな中で、
「叶!なんでオレがチワワなんだよ!!」
 耳と尻尾まで付けておいて、何を今更……ではあるが、獅子神が抗議の声を上げた。
「うーん、ギャップ萌え?」
「ギャンブルの弱さを表したのだろう」
「村雨っ!てめえっ!!」
 真経津が小首を傾げる横で、村雨は思いやりに満ちた笑みを浮かべる。
「同じ犬なら獅子神君は、ゴールデンリトリバーかボルゾイあたりの方が似ているのではないか?」
「そうだよな!天堂!」
 大型犬の喩えに、獅子神が表情を輝かせる。
 そんな友人たちの言葉に、企画を立てた叶はキョトンと目を瞬かせた。
 
「え?だって、敬一君は小さくてかわいいから、チワワがピッタリだろ?」

「獅子神さんが、小さくて……
……かわいい?」
「ピッタリ……と」
 予想だにしていなかった叶の言葉に、真経津、村雨、天堂の三人は首をひねる。ひねりまくる。
「叶さん、観察眼曇ってるんじゃない?」
 瓶底眼鏡を掛け直して、真経津が指摘する。
「そうだぞ、てめえ人より少しデカいからって、人のことを小さい呼ばわりするなよ!」
 (((いや、可愛いはイイのか?!)))
 三人の心の声がハモる。
「あと臆病なところもプルプルしてるチワワっぽいだろ?」
 叶に同意を求められても、三人の首は縦には振られない。
……ちなみに、獅子神君。黎明を動物に喩えるとなんだと思う?」
「あ?叶を動物に?」
 天堂からの質問に、虚を突かれた獅子神が考え込む。
「ちょっと待った。先に僕たちが言ってみようよ」
 真経津の提案に、まずは村雨が口を開いた。
「凶暴なイタチ」
「ブラックマンバ」
「だいだらぼっち」
 次に天堂、真経津が答えると、叶がブスッと頬を膨らませる。
「礼二君、それってノロイだろ?ユミピコは毒蛇だし、晨君のは動物ですらないじゃん?!」
「まあまあ。それで、獅子神さんは?」
 水を向けられ、獅子神は叶に視線を送ると、考えがまとまったのか軽く頷いてから答えた。
 
……ネコだな。ロシアンブルーとか、プライド高くてなかなか懐かないけど、気を許したらずっと甘えてくるかわいいヤツ」

 獅子神の頭に付いた犬耳が機嫌が良さそうにピョコピョコ動く。
「えー?オレ、そんなに気まぐれじゃねえし」
「はっ、よく言うぜ」
 叶は、満更でもなさそうにゆるゆると表情を緩ませる。こちらはゴロゴロと喉が鳴りそうだ。
……あのさ、二人ともカップルチャンネルでもやるつもり?」
 あの空気を読まない真経津が、おずおずといった感じで二人に声を掛けた。
「は?何言ってんの?」
「なんで叶とカップルなんだよ?」
 しかし、返ってきた二人の言葉に、真経津と村雨、天堂の三人は顔を見合わせた。
 
「マヌケどもめ。そのマヌケな顔を鏡でよく見るんだな」
「黎明、獅子神君のことは神も綺麗だとは思うが、かわいいとは思わない」
「獅子神さん、叶さんの観測者たちがなんで叶さんをかわいいと思うか分かってる?」

 口々に二人へアドバイスを与えると、三人はその場を去ることを決めた。家主の村雨すら、この場にいることを拒んだ。
「おい、ちょっと待てよ?」
「え?みんな、残りの撮影は?」
 なぜ急に友人たちが二人を残して立ち去ろうとしているか、本気で分からないハーフライフギャンブラー。
……は盲目、とはよく言ったものだな」
「なんだよ?」
 はぁ、と村雨がため息を吐いた。
 
「一つ教えておこう。〝かわいい〟という感情は、愛おしさがないと生まれない」

 人の感情について語る村雨の横で、天堂が大きく頷いた。
「赤ん坊をかわいいと思う根底がそれだな」
 真経津は気に入っているのか、瓶底眼鏡を掛けたままの姿で人差し指を立てる。
「でも、二人は赤ちゃんじゃないもんね」
 楽しそうに口角を上げる。
 叶と獅子神の二人は、三人の言葉を反芻する。
「「……愛おしい」」
……オレが、敬一君を?」
……オレが、叶を?」
 顔を見合わせると、瞬時に二人揃って顔に耳、首まで真っ赤に染め上げた。
 ふふっ、と真経津は笑う。
「今の叶さんなら、簡単に勝てそう」
 そんな煽り文句も耳に届いていないようで、叶と獅子神の二人は視線を交わせたまま言葉を紡ごうとパクパクと金魚のように口を動かしていた。
 
 やっと答えに辿り着いた二人を見届け、真経津たち三人は村雨邸の門を出た。
「しまった」
 村雨が眉間に皺を寄せる。
「あの二人に、私の家でまぐわうなと忠告しておくのを忘れた」
 さて、村雨の心配は杞憂か……はたまた。