墨色
2026-03-31 20:11:14
1118文字
Public れめししお題
 

毒花に溺れて微睡む

れめししお題企画「毒、魅惑」お借りしました。
🦁さんの出てこない👿の独白


 オレにもあった厨二病時代。琴線に触れたワードの一つに『トランキライザー』ってのがあった。
 その頃から干支も軽く一回りしてオトナになったオレは、恋人の腕枕で天井をぼんやり眺めている。
 本来なら、腕枕はオレがしてあげる方希望なのに「オレの方が筋肉あるだろうが。オメーじゃすぐ痺れて腕が使えなくなるだろーが」と押し切られた結果である。
 そのマッチョ自慢の恋人は、俺の横ですやすやと寝息を立てている。疲れていても、こうやって腕枕をするのは、彼自身が求めていることなのだろう。どこかで体温が繋がっていたい、と。(散々繋がった後で欲張りだな)いくら身体を重ねても足りないのは同じなので、笑ったりしない。満足してしまったら、そこから上がなくなるのだ。なんてつまらない。
 天井を見ることに飽きたオレは、体を左に向けた。規則的に上下する胸板から視線を上げて、眠っているとより下がる目尻とセットされていない金色の前髪が相まって、昼の時間より幼く見える。
 幸か不幸か、オレは敬一君にすっかり魅せられてしまった。踏みつけられても咲こうとする道端の雑草に意識が向くことなんてなかったのに。オレの視界にはそんな小さな花は入ってこない。けれど、ほんの少しで致死量になる毒の花、欲してやまなくなる中毒性の高い花――雑草にだってそんなもの山程ある。
 花なんかに喩えたら、敬一君は嫌そうな顔をするんだろうな。綺麗な顔だと褒められるのは、嫌いらしい。ただ、オレは敬一君の顔も好きなので、そこは認めて欲しいものだ。
 オレを虜にする居心地の良い毒。「あのキャンドルの毒は惚れ薬だったのかもしれないな」なんて言ったこともあった。
「オレは自分の気持ちを操作なんてされてねえよ」
 オレに見せたことのない顔で怒りを顕す敬一君に、感動して興奮したことを思い出す。そんなのオレだって同じだ。もっとも、オレはとっくに恋に堕ちていたので、たとえ惚れ薬だったとして今更効きはしないだろう。
 そうやってオレの心を揺さぶる敬一君は、一方でオレの心に凪をもたらす。
 敬一君の隣で眠る日、みんなで遊んでいるときにふと合う視線、オレが敬一君の作った料理を食べているとき――オレの心がどんなに満たされ穏やかなのか、敬一君は知らない。穏やかなオレなんて、敬一君は求めていないから。
 敬一君は麻薬で、トランキライザーだ。
 あぁ、これ何て言うんだろ。マッチポンプ依存?敬一君もとっくにオレ・ホリックではあるけどな。
 ジャンキーらしく、まだ味わい足りない甘い唇を自分のそれを押し付け、仮眠は終わりだと告げる。
 薄っすらと覗く空色の瞳に、オレの心は何度だって引き寄せられる。