moto
2026-03-31 20:05:28
967文字
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春と来た

さまささワンドロワンライお題「花見」


手土産は豚まんにした。すでに夕食は済ませているが、左馬刻の部屋に着いて、夜食としてまずはひとつ食べるのがいつの間にか定番化している。簓はそれを楽しみにしていた。簡単に電子レンジで温めても、次の日蒸籠で蒸しても、どちらも美味しくて大好きな食べ方だった。
 マンションまでの道のりで、歩いている人達がふと立ち止まり上を見上げている場所があった。簓もそこに至ると同じように立ち止まった。夜道にライトアップされた桜の木をみんな見上げているのだった。オオサカではまだ桜は咲き始めたばかりだったが、こちらはもう満開になっているのだ。迫力のある満開の桜をスマホの写真に収めて、西と東、違うもんやなぁ、と感心しながらその場を離れた。
「おつカレーライス!」
 簓の挨拶を華麗にスルーして、左馬刻は「よお」とだけ返して簓を迎え入れた。
「これ豚まん」
「サンキュ、今から食うだろ?」
「食う!」
 簓が手を洗い、上着を脱いでいる間に、左馬刻は豚まんを温める準備をしている。
「ここに来る前に立派な桜の木があったわ。こっちはもう満開なんやなあ」
「そうだな。事務所の方も咲いてるわ」
「へえ〜!オオサカはまだ咲き始めたばっかりや。左馬刻はもう花見した?」
 皿を用意していた左馬刻が簓をじっと見つめた。
「ん?」
 思わず見つめ返していると、左馬刻の指が簓の髪をつまんだ。
「今した」
 そう言って笑った左馬刻の指先には桜の花びらがあった。どうやら簓が連れてきてしまったようだが、簓は「へっ」と素っ頓狂な声を上げて固まった。そこに電子レンジが軽やかなメロディを奏でる。
 豚まんの良い匂いで簓はやっと我に返った。
「何今の!?風流!?」
「なんで赤くなってんだよ」
「もお〜何〜こっちが恥ずかしなるわ」
「なんでだよ。痛えわ叩くな」
 簓は左馬刻の背中をバシバシと叩く。さほど痛そうではなく、左馬刻はまだ笑っている。ンモ〜と照れ隠しにぶつぶつ言いながらほかほかの豚まんに辛子をつける。店でもらった辛子は豚まんの数よりも倍以上のパックが入っていた。左馬刻は2パックの辛子を皿に出していた。
「食ったら散歩すっか」
「へっ」
「花見」
「する!」
 勢いよく返事をした簓の手から、開けたばかりの辛子が飛び出し、左馬刻はますます笑い声を上げたのだった。