墨色
2026-03-31 19:17:06
2431文字
Public れめししお題
 

ニセモノの星と、ホンモノの体温

れめししお題企画「星空」お借りしました。
星空を見に行く二人。


「コレなんだ?」
 叶が獅子神の家のダイニングテーブルに置かれた小さな小瓶を手にして尋ねる。
「あぁ、雑用係が沖縄に行った土産にくれたんだ」
「は?奴隷が旅行?」
 恋人の口から出る自分以外の人間の話に、叶が不機嫌に顔を顰めた。
「元奴隷だよ。今は雑用係として雇ってるから」
 そういう問題じゃないんだよ、と叶が獅子神の瞳を上方から睨みつける。
「大体、敬一君の雇い方と給料は世間から逸脱している!!」
「オメーに世間を語られるとはな」
 はあ、とため息をつきつつも、獅子神は雑用係の雇用について考え込む。
「なぁ、ここを出てもやっていけるように資格とか取らせた方がイイかな?」
「けーいちくーん!そうじゃないだろ!!もうこの話はおしまいっ!!」
 これ以上自分以外の人間のことを考えさせないために、叶は獅子神を抱き締めてその思考を奪った。
「オメーが振った話だろうが」
 やれやれと獅子神も叶の背中に腕を回して、宥めるようによしよしと手を上下にさする。
「敬一君はオレしか見ちゃダメだろ?」
「へーへー」
 適当な返事をして叶の腕から抜け出したところで、叶の手にある小瓶について言及を始めた。
「星の砂の瓶なんだよ」
「あー、オレも昔持ってたかも」
 幼い純粋だった少年レイメイだった頃、家族で行った沖縄旅行で親にねだった記憶が蘇る。
「ガキの頃、同級生でランドセルに付けてるヤツがいて。でも見せてくれとは言えなかったから、ずっと星の砂ってピカピカ光ってるモンだと思っててよ」
 星の砂を見つめながら、獅子神が語る。
「やっぱりホンモノにはなれねえもんだな」
 星の砂は、有孔虫の殻だ。なんのロマンもない、と叶は内心で毒づく。
「ニセモノが名乗るものに意味なんてないだろ」
「勝手に星なんて言われて、案外迷惑してるのかもな」
 小さく笑うと、獅子神はテーブルに小瓶を置いた。
「それじゃ、ホンモノの星でも見にいくか?」
「ホンモノ?」
 そうだなー、と叶がスマホを操作する。
「関東……とは微妙だけど、近場だと長野とか?環境省認定の日本一星空が綺麗な村があるって」
 向けられたスマホの画面には、満天の星空が映し出されている。
「美星町って名前の岡山の町もあるな。オレも岡山は行ったことないからコレもイイな」
 再び叶がスマホを操作し、『願いがかなう町』のキャッチコピーとともに、星空と天文台を見せられた。
「オレも久しぶりに望遠鏡でも出してみるかな」
……何に使ってたかは聞かねえからな」
 まともな趣味の方であることを願っているが、返された視線から察するに、そうではなさそうだ。
「敬一君、行ってみたい場所はあったか?」
 聞かれて、獅子神の脳裏に一箇所思い浮かぶ場所があった。
「長野……の、野辺山天文台とか行けんのかな?」
 意外なご指名に、叶はパシパシと瞳を瞬かせた。
「敬一君」
 ジト目を向けられ、獅子神は視線を逸らす。
「見た目は子供な名探偵、観たのか」
…………
 沈黙は肯定だ。子供向けのアニメを見て、それに影響されたことが恥ずかしく、獅子神は言葉を噤んだ。
 (そこがカワイイんだから、隠さなくても……いや、オレ以外には見せてもらっちゃ困るな)
 今度、過去の映画でも一緒に観ようと叶は思考を着地させた。
「まあ、敬一君が興味あるならソレでもイイけど……あー、冬はやってないのか」
「そうなのか?」
「めちゃくちゃ雪降るとこだろうしな」
 シュンとする獅子神の肩に、勝手に罪悪感を感じる。春になったら行こうな、と声を掛けるしかない。
 (春になったら、横浜中華街に行きたがるかもしれないけど)
 あの名探偵、全国各地に行きすぎだろう。
「ホンモノって言えば、星に名前つけたり、月の土地も買えたりするらしいぞ」
「へえ、スゲえな」
「オレらの名前でも付けちゃうか?宇宙にオレらの愛が刻まれるなんてサイコーだろ?」
……そんな恥ずかしいこと……出来ねぇ……いや、うん……悪くは……
 ブツブツと呟き考え込む獅子神の姿をニヤニヤと眺める叶は、正式な名称ではないので、他の人間がその名前で呼ぶことはないことを知っている。だがもちろん、ソレを教えたりはしない。
「どんな名前をつけるか考える時間も必要だし、今日のところはニセモノの星でも見に行くか」
「ニセモノ?おい、沖縄なんかすぐに行けねえぞ」
 星の砂を指差し、獅子神が止める。
「そうじゃないよ、プラネタリウムだ」
 叶の持つスマホの画面は、すでにチケット購入決済画面になっていた。
「たまたまペアシートが空いてて良かったな」
 獅子神でも知っている人気のプラネタリウムだ。当日でその席が空いていないのは察しがつく。
「最初からその予定だったのかよ」
「ホントは拉致ってサプライズしたかったんだけどな」
「平和的な誘いになって何よりだ」
 ため息をついて、獅子神は上着を手にした。
「ちなみに、レストランはまだリクエスト受付中だ」
「それなら、移動中に決めるか」
 叶に差し出された車のキーを受け取り、二人で玄関へと向かった。

 ******
 
 プラネタリウムの室内は、上映前でも薄暗い。指定されたペアシートを探して、二人で寝転ぶ。デカい男二人ではいささか窮屈なのは当然だろう。
「楽しみだな」
 耳元で囁くと、叶は獅子神の手に自分の指を絡めた。
「おいっ、やめろよ」
 小声で抗議するが、涼しい顔でスルーされる。
「暗くて見えないし、誰もオレたちのことなんて見てないぞ」
 繋いでない方の手で天井を指差す。
「みんな星に夢中だからな」
 それはそうなのだが、と思いつつも獅子神は周りが気になる。ただ、繋がるそこから伝わる体温は心地良い。
「さ、始まるぞ」
 ニセモノの星で埋め尽くされる空間で、獅子神は隣にいるホンモノの体温を確かめるようにその手を握り返した。