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山茶花
2026-03-31 13:36:50
3648文字
Public
[シルデュ]シリアス・ダーク系
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破鏡【228SR018】
手を伸ばす話/同棲シルデュ/ホラー/3500字程度
*シルデュ地味に年齢操作(将来捏造)+同棲後です
*あんま怖くないです。ホラー詐欺。
以上大丈夫な方はスクロール↓
それが起こったのは、いつもと変わらない休日のことだった。
なんとなく胸騒ぎがして目覚めると、目の前には俺を起こしにきていたのか、デュースの姿があった。
「おはようシルバー、今日も早いな」
そう言って俺の頭を撫で、笑うデュースに、少しの違和感を覚える。
……
今日も? 俺は普段、朝起きるのがとにかく下手で、毎日のようにデュースに叩き起こされているくらいで、こんな風に自分から目覚めるのは珍しいくらいだが
……
。
まあ、いい。デュースも疲れているか、寝ぼけてでもいるのだろう、と。気にはしないことにした。
朝起きてすぐのモーニングルーティンとして、洗面台へ顔を洗いに行こうとする。
ギィ、と軽く鳴るドアを開け、鏡とシンクの前につき、ざあ、と音を立て、ひねった水道から出てくる水で、バシャバシャ、と音を立てて顔を洗った。
そのときのことだった。コンコン、とノックの音がした。
「
……
?」
誰か、というかデュースが、洗面室のドアを叩いているのかと思ったが、そうでもなさそうだ。
何故なら、コンコン、コンコン、と繰り返されるノックの音は、すぐ近くからする。
コンコン、コンコン、コンコンコンコン、と。次第に切羽詰まるように大きく、早くなっていくノックの音に、顔を上げる。
すると、鏡には、鏡を見つめる俺すら、何も映っておらず。
『きづいて』
と書かれた血の文字だけが、浮かび上がっていた。
「っ!?」
驚いてデュースの元へ向かい、慌てて報告する。
「デュ、デュース。洗面台の鏡に、血が」
「何? 血? 今行く」
そしてデュースは血の付いた鏡を見ると、ふん、と鼻を鳴らしてその辺にあったタオルで血文字を拭きとった。
「なんだこれ? 心霊現象か? 迷惑だな。今度、不動産屋に文句言いに行くか」
ゴシゴシと、なんでもないような顔で血文字を拭き取るデュースに、俺も少し落ち着く。
そんなものでいいのか、この現象に対する対応は、と。
「ま、大した迷惑があるわけじゃないし。これが続くようなら引っ越そうぜ」
ああ、そうだな、と俺は頷く。そうして、いつも通りにデュースが用意してくれているはずの朝食を食べた。
……
が。
「今日は、ずいぶん簡単なのだな」
食卓に並んでいたのは、切っていないバナナやヨーグルトに、焼いていないパン。
まあ、朝食としては無難だが、いつもと様子が違ったので俺は驚いた。
いつもならデュースは得意の目玉焼きを必ず焼いて、ベーコンを横につけ、トマトとレタスくらいは添えたプレートを出すからだ。
「疲れていたのか? そして、デュース。お前の分は?」
「ああ、まあ、そうなのかもな。ちょっと食欲、なくってさ」
「そうか
……
、何、無理をすることはない。むしろ、疲れていたのに用意させてしまい、悪かったな。次は言ってくれ」
そういうときは自分でどうにかするから、と言うと、デュースは、分かった、と言った。
そしてあまり会話の弾まない朝食を終えたあと、リビングのソファで俺はくつろぎはじめる。
適当なテレビをつけながら、さて今日は何をすべきか、と。
溜まっていた家事でもこなすか、それとも気晴らしにデュースと外へ出かけてみるか、どうするか。
だが、デュースは何やら疲れていそうだったから、あまり連れ回すのも忍びない、と考えていたところ。
ソファの隣に、デュースが座った。
『
……
次のニュースです。
……
近郊で、行方不明事件が多発中
……
』
その瞬間、なぜかニュースキャスターの声が、やけに鮮明に聞こえるような気がした。
何故、なのだろう。穏やかな休日のはずなのに。朝から続く、この違和感はなんなのだろう、と疑問に思っていると。
とん、と、肩に何かが乗せられた。
それは、デュースの頭だった。
「
……
」
虚ろな目で頭を乗せているデュースの姿に、本当に今日は疲れているのだな、と思い。俺はその頭を抱き寄せ撫でてやる。
するとデュースは、ソファに置いていた俺の手に、指を絡めてきた。
「なあ、シルバー。
……
今日、しない、か? ほら、せっかく時間あるんだからさ
……
」
僕たちの今後のためにもさ、とデュースは言う。
だが、俺はなんとなく、デュースの触れ方に違和感を覚え
……
その誘いを、断った。
なんというか、ちぐはぐだというか。疲れているというわりには、ベタベタと遠慮なく触れてくる、というか。
本来デュースに対してそういう感想を持つことは少ないのだが、今は、わずかな嫌悪感を持った。
「すまない、その。まだ昼間だし
……
、今日はまだ、そういう気分ではなくて」
それに、疲れているお前に無理をさせるのも本意ではない。
もし夜、その気になったらすぐに声をかけるから、今はまだ勘弁してくれないか、と告げると。
デュースは少し、目を吊り上げ、口を結んだ。
……
しまった、機嫌が悪くなってしまったみたいだな。
「代わりにできることなら、してやるから」
そう告げると、デュースは言った。
「なら、キスだけでもいいから、してくれないか?」
キスだけでもいいから、たくさんしてほしい、と甘えるデュースに。俺は、それくらいなら、分かった、と頷く。
そして、宥めのキスを与えてやろうと指先でデュースの顎を引いたとき。
『ダメだ!!』
大きな声が部屋中に響き、そして、部屋全体がガタガタと揺れた。
「な、なんだ、地震か
……
っ!?」
「
……
」
ガタガタと揺れる部屋の中で、家具や物が物理法則を無視してあちこちに飛び回る。
数十秒経って揺れや動きが収まったあと、部屋はめちゃくちゃになった。
「今のは、一体
……
?」
俺が驚きの中、状況を理解できないでいると、チッと舌打ちしたあと、すくりとデュースは立ち上がった。
そして、一直線に工具箱へ向かい、そこからハンマーを取り出すと、洗面台へ向かう。
「ニセモノの分際で、邪魔すんなよな」
そう告げて鏡に向かい、ハンマーを振りかぶるデュースの、いや、ソイツの手を。俺は止めた。
「待て。
……
お前は、『誰』だ?」
俺が尋ねた瞬間。デュース、だったモノ、そうだと思い込んでいた何か、は。
笑った、と思うと。明らかに人間がする表情ではない形に笑みを歪めて。
半月の記号だけで出来たような笑いを浮かべ、黒く歪んだ帯のような形状になり、俺を嘲り、笑い飛ばした。
『あはははははは!! あと少しだったのに、あと少しだったのに
……
!!! 残念、残念!!』と。
黒い帯状の何かは、けたたましい笑い声を残して、窓から外に、流れるように出ていった。
残された俺は、それから、ハッと気付く。
「そうだ、デュース
……
!!」
何者かが割ろうとしていた鏡をじっと見つめると、その向こうに、うっすらとデュースの影が見えた気がした。
「
……
!!」
思わず、夢中で手を伸ばしていた。鏡に向かって手を伸ばすと、湖面に手を突っ込んだかのように、鏡の中に手を入れることができた。その中で掴み返された手のひらの感触をぎゅっと握りしめて、思い切り引っ張り出す。
勢いよく外に出てきたのは、やはり、デュースそのものの全身だった。
「シルバー
……
っ!!」
「
……
怖かったな、もう、大丈夫だ
……
!!」
ぎゅっと、デュースと抱きしめ合う。お互いに、もう一度真実の恋人に出会えたことへの安堵で、いっぱいいっぱいになっていた。
それから俺たちは、部屋の片付けもしないまま、すぐに教会へ向かい、悪魔祓いをしてもらう。
「今日はお義父さんに事情を説明して、実家に泊めてもらおう」
と話し合い、親父殿に事情を説明してふたりとも泊めてもらうことになった。
「あの鏡はどっか専門のとこに引き取ってもらって、で、僕らは引っ越しするか
……
」
そう告げるデュースの言葉に、俺は、それがいい、と頷いた。
――
その後、俺たちは新たな家へと引っ越したが、あれからは一度も、同じようなことは起きていない。
それでも、俺は時折、ふと、思うことがあるのだ。
あの時、咄嗟のことで鏡から連れ出したデュースは、本当に、本物のデュースだったのか?
だが、鏡も消え、時間が経った今となっては、俺にはその真偽は分からない。確かめる術が、ないからだ。
ならば今ここにいる、俺の選び、掴み取ったデュースのことを本物だと信じて、守っていくほかないだろう。
「なあ、デュース。お前は、その
……
本物のデュースだよな?」
「何、馬鹿なこと言ってんだよ。本物に決まってるだろ、シルバー!」
そう言って俺にくちづけるデュースの向こう側で。新しく買ったはずの洗面台の鏡に、また。
半月のような笑顔が浮かんだ気がした。
*おしまい
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