フリンズさんの髪の毛で遊ばせて貰う話

※三つ編みをする話 の後の話になります。

「雨だなぁ」
「そうですねぇ」
「よし、フリンズの髪型で遊ぶ日だね」
……いま、なんと?」

 外は雨。二人ともお休みの日。そういえばこんな状況、以前にもあったなぁと思い出したのだ。
「フリンズの綺麗で大好きな髪を使って、色んな髪型で遊ぶ日にしよう、と言いました」
……僕の聞き間違いではなさそうですね」
 大きな手で形の整った目元を覆って、はぁ……と彼はため息を一つ吐いた。
 
「一応お聞きしますけど、どうしてそのような話に?」
「聞きたい?」
……はい」
 手で覆った顔を上げてから、なぜか言い淀みつつ返事をするフリンズ。私のニッコニコな笑顔と目が合ってしまい、嫌な予感を感じ取ったようで彼は眉をひそめる。その直感は正解だよ、フリンズくん。
「これ、見てよ」
「これは、この前のお祭りの時の写真ですか?」
 彼に差し出したのは、ナシャタウンでのイベントで友達みんなで撮った写真だ。旅人さんにラウマさん、ネフェルさん、ヤフォダちゃん、コロンビーナちゃんまで写っている。いわゆる女子会の写真だった。
 
「この時にね、みんなで普段の髪型の話をしたの」
……
「でね、それぞれの髪型の編み方を教えてもらったの」
…………
「試してみても、良いよね?」
…………なぜそれを、僕に?」
 
 まさか……と目を見開いて驚きつつも、彼の中で見当は付いているようだ。あえて私の口からお伝えしましょう。
「フリンズが一番髪が長くてアレンジし放題だからだよっ」
 語尾に音符が付きそうな言い方で笑顔を崩さぬまま彼に伝えると、今度は自身の顔を両手で覆って項垂れてしまった。


 低めのソファに座り直してもらい、櫛とヘアオイルなどを手にしてフリンズの元へ戻る。
「うーん……ヤフォダちゃんの髪型試してもいい? 三つ編みをくるりと纏めたあの髪型」
……勘弁してください。あれは、ヤフォダさんだから似合うのだと思いますよ」
「えー、フリンズにも似合うと思うけどなぁ……。仕方ない、三つ編みで我慢するね」
 彼の前には、私のおすすめの小説や雑誌を数冊準備済みだ。ジャンル問わず読書を好む彼なので、私の趣味でも何かヒットするかもしれない。「気に入った本あったら教えてね」と伝えて、まずは一冊目として彼が好きそうな本を渡しておいた。
 私が集中して顔の両サイドに三つ編みを作っていると、ペラペラと紙を捲る音がしてきた。お?やっぱりこの本なら気にいると思ったんだよね。この本を最初に渡して良かった。そして――私はこの時を狙っていたのだ。
 油断しているフリンズが気付かないように、何気なく三つ編みを持ち上げて、髪ゴムとヘアピンで固定して……ほら出来た。

「じゃーん! できました、ヤフォダちゃんの髪型‼︎」
…………話が、違うのではありませんか?」

 フリンズの前へ回り込み、手鏡を彼が見えるように向ける。まあるい三つ編みが自身の顔の横から二つ生えているのを目に入れてしまい、呆然とするフリンズが面白かった。いやでもね、髪色の青と紫のグラデーションが特徴的で、ヤフォダちゃんとはまた種類が異なる可愛さがあって、とても好き。
 ――なのだが、フリンズはとても物言いたげな目で私も見て訴えてくる。不思議だね。

「楽しくなってきちゃった。次はお団子とか試していい?」
……どうぞ、お好きなように」
 諦めたのか、手元の本を読み進めたいのか分からないけれども、彼はふっと小さく笑ってまたページを捲り始めた。


 先程のヤフォダちゃんヘアを一度解いて、髪の毛を整える。私が「うーん次は何にしようかなぁ」などと呟いても、フリンズは無言で私を横目で見ただけだった。これは不満なのか、それとも呆れているのか。
 フリンズの後ろ側にもう一度立って、耳の後ろに指を差し入れて、上下半分に分ける。それが少しくすぐったかったのか、ふふっとフリンズが笑った。そのままハーフアップにして髪ゴムで結んで、真ん中に髪の毛を差し入れる。いわゆる『くるりんぱ』にして、残った髪の毛と合わせて大きな一つの三つ編みを編む。
 三つ編みの毛束を少し引き出して、緩い三つ編みにしてみたところ――
「これは……美人さんになる予感がする……! いや元々だったわ」
……どんな独り言なんですか、それは」
「あ! この三つ編みの間にお花挿したら、完璧なお姫様では⁈」
「僕は、姫を目指すつもりはないのですが……?」
「ちょっと外でお花とか取ってきますね!」
 思いついたら即行動!急いで外へ向かって駆け出した。

 ◆ ◆ ◆

……僕の声は届いてないようですね。相変わらず、何かに夢中になると周りが見えなくなってしまう、貴女らしいといえばそうなのですが」
 読んでいた本をパタンと閉じる。目線を自身の肩に向けると、彼女が先程まで楽しそうに遊んでいた三つ編みが見えた。……ふむ。
 
「戻る前にこれを解いてしまっていたら、多少は怒るのでしょうね」
 かつての身分による古い慣習で伸ばしている髪ではあるが、彼女がこれだけ気に入っているのであれば、伸ばしていて良かったと思う。ただ、ここまで好きにされていると、多少思うことも……なくはない。
 
「となると、仕返しが……必要になりますね」

 ◆ ◆ ◆

「戻りましたよー!って……フリンズが、居ない?」
 外の灯台周辺を歩きながらフロストランプなどの花を集めて部屋に戻ったのだが、目当ての人物が消えていた。やばい、流石に私だけが楽しい遊びすぎて……怒っちゃったかな。でも、好きにしていいって言ってたし。本心からの発言か、呆れてそう言ったのか。いや明らかに後者ではあるのだが。

――僕はここに居ますよ」

 声を掛けられて後ろを振り向くと、緩い三つ編みを大きく揺らしながらゆっくりと近づいてくるフリンズが居た。怒っているわけでは無さそうで、少し安堵する。
「これを取ってきました」
 そう言って目の前に差し出されたのは、私が以前買っていたヘアアレンジの特集雑誌だった。しかしなぜ、いまこれを……あっ!
「もっと他にも試していいってこと⁈」
 そうならそうと早く言ってくれたら……とは思ったが、フリンズは首を横に振る。違ったみたいだ。
 フリンズがいつもの穏やかな表情とは違う、少し意地悪な笑みを浮かべ、握ったままの左手を私に差し出してきた。何なに?と思いながら彼の手に目線を向けていると、フリンズが静かに手を開く。その手のひらにあったのは、……ヘアピンと、髪ゴム?

「次は僕が、貴女に試す髪型を選ぶ番……ですね」

 あぁ……なるほど?この後は交代という事らしい。……交代するの⁇
 私は呆気に取られてしまい目を丸くしていると、彼は右手で私の髪の毛を一房掬い取り、私に目を合わせながら髪に口付ける。そんな彼の行動に私は更に目を見開いて、声にならない悲鳴を上げ、心臓が跳ね上がってしまう。
 私の反応に満足したのか、彼は大人しくソファに戻ってくれた。三つ編み飾りの続きをさせてくれるらしい。先程よりも上機嫌で、ヘアアレンジの雑誌をペラペラと捲るフリンズ。
 
 自分の火照ってしまった顔を紛らわせるためにパタパタと手で仰ぐが、あまり効果はなかった。……私も十分楽しませて貰ったからね、うん。
 そもそもフリンズに髪の毛触られるのは好きだし、これはこれで私へのご褒美なのでは……



『実は僕も手先が器用なので、得意なのですよ?』