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野うさぎ
2026-03-29 22:56:41
6182文字
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春のお出かけ
猫耳しっぽの猫の男の子にゃすらん(5才くらい)と社会人英二の日常のお話
休日の朝はいつもよりお布団の中で少しのんびりしている英二とにゃすらんですが、今日は違います。
英二は仕事の時と同じくらいに起き、テキパキと洗濯機を回し、朝ごはんの準備をしてにゃすらんを起こします。
「にゃすらん起きて、朝だよ。」
朝が苦手なにゃすらんは、うーんと言っただけでまだ夢の中のようです。英二はもう一度声をかけます。
「にゃすらん、昨日お手伝いしてくれるって約束したでしょ。」
うーん、その言葉にぴこぴことにゃすらんの猫耳が動いて、お布団の中からもぞもぞと眠そうなにゃすらんがでてきました。
「・・・つだい・・おてつだい・・・する。」それだけ言うとまた頭から枕に向かってぽすんっと倒れ込んでしましました。
眠いのに頑張って起きようとする姿に、かわいいなぁと英二はもっと寝かせてあげたい気持ちになりましたが、今日はそうはいきません。
にゃすらんをなんとか起こして朝ご飯を一緒に食べます。
トーストとサラダに牛乳はおかわりもして、目を覚ましたにゃすらんは元気いっぱいです。
ピーーーッピーーーッピーーーッ、洗濯が終わった合図がしました。
「僕が洗濯物干し終わったら、にゃすらんお手伝いしてね。」
「うんっ!」
昨日の夜からにゃすらんは今日をとても楽しみにしていました。
食べ終わったお皿をシンクまで運んで、たたたたっと走ってお手伝いをする時用に英二が買ってくれた水色の真ん中に付いてるポケットの中から鳥のキャラクターノリノリくんが覗いているエプロンを急いで身につけるとたたたたっとまた走って戻ってきました。
「おっ、準備万端じゃないか。」洗濯物を干し終わった英二はエプロン姿のにゃすらんを見ていいました。
「食べ終わったお皿も運んでくれたんだ、ありがとう。」英二の手がキラキラ輝いているにゃすらんの髪を優しく撫でました。
もっと撫でてほしいにゃすらんでしたが、これからはじまる楽しみな一日の事を思ってぐっと堪えて言いました。
「もうお手伝いできるよ。エージ早く作ろ。」
「そうだね、それじゃはじめようか。」
「うん。」
さっきまで朝ご飯を食べていたテーブルの上に英二はボウルに入ったご飯を持ってきて、赤しそのふりかけをかけて混ぜました。
「僕がおにぎりを作るから、にゃすらんはご飯の上に青しそ、海老天の順番に載せてくれるかな。」
「うん、わかった。」
お箸を持ってにゃすらんはやる気まんまんです。英二は自分の手におにぎり一個分のご飯を
乗せるとくぼみを作ってにゃすらんにお願いしました。
「青じそと海老天、ここに乗せて。」
「はーい、僕にまかせて!」
にゃすらんはお箸を上手に使って青しそと海老天をご飯の上にのせました。
固く握り過ぎないように気をつけて英二はご飯をきゅっと握って海老天の尻尾だけ出たおにぎりの形にしました。
海老の天ぷらは、昨日の夕飯の時に合わせて作っておいたものをトースターで少し温めて衣をカリッとさせてあります。
初めてにしてはなかなか上手に出来たかなと英二は思いました。
「よーし、じゃんじゃんつくるぞ」
ご飯、青しそ海老天、ぎゅっ、ご飯、青しそ海老天、ぎゅっ、ご飯、青しそ海老天・・・
英二とにゃすらんは息の合ったコンビネーションで次々とおにぎりを作っていきます。
「エージ、海老天最後のいっこだよ。」
「ご飯もこれで終わりだからちょうど良かった。」
最後まで息がぴったり。
「次はこれに海苔を巻いていくよ。」
ぱりぱりの焼き海苔を二人で手分けしておにぎりのの回りにくるりと巻きつけて、英二とにゃすらんの特製天むすの完成です。
「たくさんできたね。これだけあればたりるかな。」
「美味しそう、エージいっこ食べてもいい?」
ずらーっと並んだ天むすに、思わずにゃすらんはおねだりしてしまいました。
「ふふふ、にゃすらんのお手伝いのおかげで随分助かったし、味見もかねて半分こ食べてみようか。」
英二は最初の方に作った少し形がいまいちなおにぎりを選んで半分にすると、にゃすらんに海老天の大きい方を渡しました。
「わーい、いただきます。」
大きくお口を開いてぱくり、もぐもぐ。
「とってもおいしい。」
にゃすらんの緑の瞳が美味しさでキラキラ輝いて、しっぽもゆらゆらゆれてます。
英二もぱくりと一口。
「うん、美味しいね。きっとみんな喜んでくれるよ。集合時間が十一時半だからそろそろ出かけけようか。」
おにぎりと水筒をリュックに詰めたら準備はオッケー。
「エージ。はーやーーくーーっ。」
お出かけが待ちきれないにゃすらんは、靴を履いて英二が来るのを玄関で待っています。
「ごめんごめん、ガスの元栓締めたか気になっちゃってさ。」
「ぼく、ちゃんと確認したよ!」
「そっか、ありがとう。にゃすらんに聞けばよかったね。」
「うん、ぼくもっとエージのお手伝いできるよ。」
小さなにゃすらんが自分のために何かをしたいと思ってくれていることに英二は嬉しくて胸がキュッとなりました。
そして、にゃすらんはこれからどんどん自分でできることが増えて、僕よりしっかり者になりそうだなと思いました。
玄関の鍵をかけて、出発です。
今日の目的地は、いつも二人が行く公園を通り越して、もう少し先にある大きなグランドも整備されている河川敷です。
気持ちの良いぽかぽか晴れた日差しの中、仲良く手をつないで一緒に歌を歌たりしながら歩いていると、二人の気持ちもぽっかぽかです。
同じ方向に向かう人々が増え次第に賑やかになり、土手の斜面が見えてきました。目的地はすぐそこです。
「そこの階段を上ったら到着だよ。もう一息だ。」
土手の上へと続く少し傾斜が急な石の階段を頑張って登り終えると、にゃすらんは驚きました。
「わぁ、エージ桜いっぱい咲いてる!」
「綺麗だね、にゃすらん。ちょうど桜満開だ。」
そうです、今日はお花見をするために、朝からお握りを作ってここまで来ました。
河川敷の土手には淡い薄桃色を纏った美しい桜の木がずらりと並んで咲き誇っています。時々ひらひらと花びらが舞い落ち、並木の下を歩いていると何だかいつもと違う世界みたいだとにゃすらんは思いました。
英二は先ほどから辺りを見渡し何かを探しているようです。
「この辺のはずなんだけどな。」
携帯を取り出して、連絡を取ろうとしたその時です。
「英ちゃーーーん!こっちこっち。!」
英二を呼ぶ大きな声が少し先の方から聞こえ、声がする方に顔を向けました。
(エイチャン?)にゃすらんが英二を見て不思議に思っていると、にゃすらんを呼ぶ声も聞こえてきました。
「よーう、にゃすらん。こっちだぜ。」
英ちゃんと呼んだ男の人と一緒にショーターがこっちに向かって両手をブンブン振っています。ショーターのお姉さんマーディアもいます。
「今行きま
――
す!」
英二も右手を大き。く振って返事をしました。
「よし、にゃすらん。ショーターたちのところまで競争だ。よーい、どんっ!」
「待ってエージ。」
英二とにゃすらんは元気に走りだしました。英二はにゃすらんに並んで走るように加減をしていましたが、にゃすらんはなかなかに足が速いようです。
「どっちが速いか、やっぱ英二か。にゃすらんか~!」
ショーターが大きな声で実況をはじめました。
「どっちだ、どっちだ~。これは・・・」
英二とにゃすらんは勢いよくショーターの横を通り過ぎて止まりました。
「こりゃ同着だな。ドロー、引き分けだ。にゃすらんお前、小さいのに足早いな。」
「本当にすごく速かったわ。」
ショーターとマーディアに褒められてにゃすらんは嬉しそうです。
土手から桜並木を通り過ぎグラウンドの方まで全力で走て、息が弾んだにゃすらんのほっぺは桜よりも桜色になっています。
英二は先ほど英ちゃんと呼ばれていた男の人に向かって言いました。
「伊部さん、場所取りお願いしてすいませんでした。」
「待ってる間にいい桜の写真も撮れたし、丁度良かったよ。気にしなくていいよ。」
にゃすらんは知らない人が英二と仲良く話しているのが気になって英二の傍にやって来ました。
「どうしたんだい、にゃすらん。」
「んー。」
知らない大人の人を前に、にゃすらんはどうしていいかわからず警戒して英二の後ろに隠れて少しだけ顔を覗かせました。
その様子を見て伊部さんは、にゃすらんと目線が合うように屈んで話しかけました。
「やぁ、君がにゃすらん君かい?はじめまして。とても賢いいい子なんだって、話をよく聞いてるよ。僕は英ちゃんと一緒に仕事してる伊部って言うんだ。よろしくね。」
「
―
はじめまして、にゃすらんです。」
どうやら伊部さんは悪い人ではないようでにゃすらんは安心しました。伊部さんの言葉で、英二がにゃすらんのことを賢くいい子だと思ってくれてるのかと嬉しくなりましたが、同時に自分を残して仕事に行っている間、この人とずっと一緒にいるのかなとも思い複雑な気持ちにもなりました。
「僕は写真を撮るのが好きなんだ。君の写真も撮ってもいいかい?」
手に持ったカメラを見せて尋ねる伊部さんに
「英二と一緒なら撮ってもいい。でもSNSやネットに載せるのはダメ」とにゃすらんはちょっとばかりぶっきらぼうに答えました。
「にゃすらんそんなことどこで覚えたの?」
英二は驚いてにゃすらんを見ました。
「知らない人が英二を見てストーカーしたらだめだもんっ。常識だよ。
「えっ、僕の心配なの?」更に英二は驚きました。
「いやー、最近の子はしっかりしてるな。大丈夫そんなことはしないから。撮った写真は後であげるよ」
「おーい、いつまでも立ち話してないで早く座って飯食おうぜ」
ショーターが、伊部さんが場所取りをしてくれていたシートに座って声をかけました。
もうそろそろお昼の十二時です。朝早く起きて、おにぎりを作って、頑張って歩いた英二とにゃすらんは気づけばお腹がぺこぺこでした。
伊部さんはグラウンド横に咲いている桜の下にシートで場所を取ってくれていました。
そこからは土手の桜並木がずらっとよく見渡せます。
マーディアが風呂敷を解くと重箱があらわれました。英二はリュックの中から大きいタッパーを取り出します。
二人が蓋を開くと
――
一段目のお重には、唐揚げと春巻きにレタスの付け合せ、二段目のお重には卵焼きと中国風のゴマ団子、タッパーには勿論にゃしゅらんが一生懸命お手伝いをして作った天むすが並んでいます。
「おぉ、豪華だな。マーディアも英ちゃんも準備するの大変だっただろ。ありがとう。」
「この天むすはにゃすらんが手伝ってくて、とても美味しそうにできたんです。」
「すごいわね、にゃすらん。私に一つもらえるかしら」
「うん!ちょっと待ってね・・・はいどうぞ。僕が海老と紫蘇をのせて海苔をまいたんだ」
にゃすらんは紙皿に特に上手にできた天むすを選んでマーディアに渡しました。
「上手にできてるわ。ありがとう。」
いつも張大で美味しい料理を食べさせてくる料理上手なマーディアに褒められてにゃすらんは嬉しそうです。
「にゃすらんだけじゃなく、俺も朝からしっかり手伝ったんだぜ。みんな遠慮なく食ってくれ。」
ショーターの何気ないその一言に、今まさに重箱に箸を付けようとしていたにゃすらん、英二、伊部さんの動きが止まりました。
なぜなら張大が行きつけの3人は、よーく知っています。ショーターの料理は何とも言えない宇宙の味がすることを・・・
「大丈夫よ。手伝ったと言ってもこの子、春巻きを包むのと後は揚げ物してもらっただけだから」
マーディアがにこやかにフォローを入れ、三人は安心して自分のお皿に料理を撮りました。
「ちぇっ、何だよみんなして傷つくなぁ」と全くそんな素振りも見せずにショーターはケロっとした顔で天むすを頬張りました。
「うまいっ。にゃすらん、この天むすなら張大のメニューに出せるぜ。俺の揚げた春巻きも食ってみろよ。」
「にゃすらんの好きなエビとアボカド入れてみたのよ」
「エビたくさん入ってる」
パリパリの春巻きの皮をかじったにゃすらんの瞳が輝いています。
「マーディアさんこの卵焼きの作り方教えてもらえますか?すごく美味しいです。」
みんなは今花より団子という言葉がぴったりのようです。
伊部さんは天むす片手に、カシャッ、カシャッとシャッターを切ってそんなみんなをカメラに収めています。
「おにぎりみんなが喜んでくれてよかったね。にゃすらんのおかげで上手につくれたよ、ありがとう。」
「僕、エージとおにぎり屋さんできるよ。中身は一緒に考えるけど、天むすと鮭とおかかとシーチキンは絶対作るんだ。」
にゃすらんのしっぽが嬉しそうにゆらゆら揺れています。
「おにぎり屋さんか、いいね。それにしても中身がお魚ばっかりじゃないか。」
「えー、だって全部美味しいもん。」
英二はその答えを聞いて、あはは、と笑いました。笑った英二を見てにゃすらんも、えへへ、と笑いました。
「お魚美味しいもんね。美味しいと言えば、このマーディアさんのお料理どれもおいしいから、にゃすらんにおうちでも作ってあげたくて、さっき卵焼きの作り方教えてもらったんだ。」
「・・・」
「にゃすらん?」
天むすを持ったまま急に動かなくなってしまったにゃすらんを心配して英二は聞きました。
「
―
、すごく嬉しかっただけ」
にゃすらんは英二にだけ聞こえるくらいの声でそう言うと天むすに勢いよくがぶっとかぶりつきました。
「そっか、卵焼き嬉しいね。マーディアさんくらい美味しいの作れるようにがんばるから。」
英二はにゃすらんに向かって微笑みました。
にゃすらんは卵焼きより何より、英二が自分の事を自分が知らない間にも考えて、自分のために何かをしてあげたいと思ってくれてたことが嬉しくて、嬉しすぎて、その気持ちを英二に伝えるぴったりの言葉が頭の中に見つからなくて動けなくなってしまったのでした。
そんな二人のやり取りを隣でみていたマーディアはにゃすらんの猫耳に手を当ててこっそりと言いました。
「こういう時は、英二大好きって言うのはどうかしら。」
「・・・ダイ・・スキ。」
なんだか気持ちが軽くなったにゃすらんは、マーディアににっこり、マーディアもにゃすらんににっこり。
柔らかい風が頬を撫で、にゃすらんは、卵焼きをぱくりと一口食べました。
口の中には優しい卵の甘さと後からほんのり鰹だしの味が広がります。もぐもぐ味わいながら周りに目を向けると、桜の花びらが舞う中、英二もショーターもマーディアも伊部さんもみんながとても楽しそう。にゃすらんも自然と笑顔になって、心がほわほわになりました。
さらに周りを見ると、にゃすらんたちの他にも同じようにレジャーシートを広げて桜を楽しんでいる人、歩きながら桜を楽しんでいる人がたくさんいます。家族の人、友だちの人、恋人の人、犬と一緒の人、一人の人、どの人も桜の下で楽しそう。そう気づいたにゃすらんは、ほわほわした気持ちで自分もみんなも幸せなんだと感じたら猫耳としっぽまで、ほわほわと動きました。
■ まだつづきます (=ΦエΦ=)
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