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風花莉亜
2026-03-29 21:59:11
5950文字
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泣いてる顔より笑った顔の方が良いに決まっている。
第37回とどち版ワンドロワンライ参加作品。藤堂くん視点。2人とも大学生。暗めで千早くんの親に二人の関係がバレてしまった事から、別れ話になるまで。一応途中途中甘さは含んでいて、藤堂くんも安定のクサイ事言ってくれるのでそんなに暗くないかもです。そしてラストはハピエンです
いつも通り何でも大丈夫な方向け
「俺達、距離置きませんか?」
「は?」
ザーザーと雨が降りしきる中、千早の声だけが嫌にはっきりと聞こえた───
……
今日の千早は元気がない。
高校を卒業し、それぞれ別の大学へと進学した俺達は、毎日のように顔を合わせていたあの頃に比べて、格段に会う回数が減った。
それでも週に一回は確実に会いたいという俺の希望もあって、最低でも週一の頻度で会っている。
多い時はもっと会うが、それは珍しい事だ。
野球を一番に考えている俺達には、時間がいくらあっても足りなかった。
そんな生活が一年程続いたある日。
自宅デートだと千早を自分の家に呼び、ウキウキした気持ちで玄関先に立つ千早を迎え入れたのだが、「お邪魔します」と言ったその顔は嬉しそうではなくて困惑した。
いつもならば、可愛らしい笑みを浮かべて「会いたかったです」なんて可愛らしいセリフ付きでハグくらいはするのに。
ごめん、嘘言った。
いつも、ではなくて、たまに。
そんな日もあったりなかったりだが、基本的には機嫌が良さそうなのに、今日は下を向いて沈んだ声を出しているではないか。
何かあったのは間違いないので、とりあえず中へと通して話を聞いてやろうと、頼れる彼氏の出番だな! なんてこの時は呑気に考えていた。
手洗いうがいを済ませた千早は定位置となっているお気に入りのソファーへと、これまた置いてあったお気に入りのクッションを抱えながら座る。
ストン、と静かに腰を下ろしたその姿は小さく、儚げに見えて狼狽えてしまった。
ど、どうした、何があった?
良くわからないが、千早のお気に入りである紅茶を用意しつつ様子を窺っていると、ポスン、とクッションに顔を埋めてしまった。
これでは、表情がわからない。
え、もしかして泣いてる?
そんな事を思っていると、よそ見をしていた為に手元が狂って茶葉を打ち撒けそうになった。
その際にカラン、と缶の蓋が鳴ってしまって、やべぇ、と慌てる。
まぁまぁお高めの茶葉だ、打ち撒けたりなんかしたら千早に何を言われるかわかったものではない。
ヒヤヒヤしながらソファーを見れば、千早は相変わらずクッションに顔を埋めたままで、こちらを見てすらいなかった。
あ、セーフ。
バレてないと安心したものの、やはりあんな千早の姿を見てしまっては心配になる。
あからさまに落ち込んでます、なんて状態を見た事が今までなかったから尚更だ。
「千早、紅茶淹れたぞ」
カップをソーサーごとテーブルに置くと、弱々しく「ありがとうございます」と返ってきた。
しかし、顔は上がらない。
どうしたもんか、と頬を掻きながら、千早の隣へと腰を下ろす。
俺の体重を受けてソファーが軽く沈むが、千早は微動だにしなかった。
「あー、その
……
何か、悩み事か?」
このまま放っておく事は出来ずにそっと声をかけると、軽く反応を示したがやはり顔は上がらないし、何も言ってはくれない。
無理矢理聞き出すのもひとつの手ではあるが、これは自ら言い出すまでそっとしておく方が良い気がして、それ以上は聞かない事にした。
代わりに、手を伸ばして頭を撫でる。
珍しくセットされていない髪に指を通し、時折遊んではまた撫でる。
それの繰り返し。
傍にいるから大丈夫、口には出さなかったが、きっと伝わっているに違いない。
だって千早は俺なんかよりも聡いのだから。
紅茶が冷めた頃に漸くクッションから顔を上げた千早は、すっかり冷めきったそれを一気に喉に流し込んだ。
美味しく飲める頃合いを遠の昔に過ぎた紅茶に千早は一瞬眉を顰めたが、それだけだった。
ふぅ、と小さく息をついて、それから俺に視線を向ける。
言う覚悟が決まったのなら、なんでも話してくれ。
もう一度手を伸ばして今度は頬に触れると、千早は俺の手に手を重ねて目を閉じる。
それからもう一度目を開け、「あの、」と前置きをしてから話しだした。
「親に、藤堂くんと付き合ってるのがバレました」
「え」
「一応断っておくと、反対された訳ではないんです」
「うん? じゃあなんでそんな落ち込んでンだ?」
「反対はされなかったけど、良い顔もしてなかったです。寧ろ複雑そうでした。その顔見てたら、あー、こんな顔させたかった訳じゃないのになぁって
……
」
泣いてはいないけれど、泣きそうな顔と声で千早は言った。
それを見て胸がズキン、と痛んだ。
俺達の関係はマイノリティで、誰にでも理解されるものではない事はわかっている。
だからと言って俺は、千早と付き合ってる事に後ろめたさなんか感じないし、寧ろ自慢の恋人だと胸を張って言える、なんて事が言えるのは、俺の家族が俺達の関係に好意的だったからだろう。
まぁ、反対されたとて別れるつもりはサラサラないし、やっぱり自慢の恋人である事には変わりなかった訳だが、家族に認められる事はめちゃくちゃ大きな安心感があるのだ。
肯定してもらてるって、自信になるんだよなぁ。
「で? その後はどうしたんだ?」
「別れる気はないとだけ言って逃げちゃいました」
「そんで今ココ、か」
「そうです」
「一層の事、喧嘩にでもなってりゃ多少はスッキリしたかもしれないのにな?」
俺だったら多分、色々と自分の意見を打ち撒けてる。
そんで相手が姉貴だったのなら尚更激しいだろうな、なんて考えて苦笑した。
実際にはそんな未来にはならなかったからこんな風に思えるのだ、理解して納得してくれた家族には一生頭が上がらない。
うちがそんな感じだったからと言って別に千早の親が悪い訳じゃないし、認めてもらえないのだって想像していた事。
良い顔はされないのは、うちと違って一人息子だって事もあるのだろう。
しかし俺は、この先も千早と一緒に居たいと考えているから、時間をかけてゆっくりでも、俺達の事を納得してもらう他ない。
早めに俺自身が千早ん家出向いて挨拶して、誠意を示さないとだよなぁ。
どれだけ千早の事が大切なのか、どれだけ千早の事を好きなのか、どれだけこの先の未来を千早と一緒に歩みたいのか。
上手く言葉にする自信はないけれど、ちゃんと聞いてもらいたい。
出来ればちゃんと、認めてもらいたい。
でもまぁ、その前に。
おいで、と千早に向かって両腕を広げると、素直に身体を預けてきたので、やっぱりだいぶ弱ってるなと思う。
甘えたくて仕方がない、みたいな時ですら何かかしらの照れ隠しの嫌味をひとつ零してからでないと、俺の腕の中へと来てくれないのに。
ぎゅう、と一回り小さな身体を抱き締めて、頭を撫でながら髪を梳く。
「今度、千早ん家に挨拶行かないとな」
「え」
「大事だろ。それに、時間はかかるかもだけどちゃんと認めてもらいてェ」
「でも」
「でも、じゃねーの」
「
……
、っ」
まだ何か言いそうな唇を咄嗟に塞ぐ。
デロデロに甘やかしてやりたくて、今は全部忘れさせたくて、そのままソファーへと沈めた。
*****
昨日は千早を自宅へと泊め、迎えた朝。
ベッドでスヤスヤ眠る姿が可愛くて、起こさないように注意しつつ頬にキスを贈ってから起き上がった。
リビングのカーテンを開けると外は生憎の空模様で、耳をすませば、雨粒がアスファルトを叩く音がする。
あまり雨足は強くはないが、今日が千早と出かける日ではなくて良かったと思う。
だって折角のデートは、晴れている方が楽しめるだろ?
でもまぁ、雨の中だろうと千早となら、などと考えてしまうのは、今日はお互い講義があり、二人の時間はもう少しで終わりを告げるからだろうか。
一日中一緒にいる事は出来ないので、何でもいいから一緒にいたい、そんな所だ。
朝食の準備をして千早を起こし、一緒に『いただきます』をして食べた。
こんな事をする度に、一緒に暮らせたらいいのに、と思いが一段と強くなったのは、昨日の千早の話を聞いたせい。
それから、あんな弱った姿を見たせい。
一人にさせたくないなぁ。
まだ顔が曇っている千早を見て、そう思った。
「ちはやー」
「なんです?」
「今日、休めねェ?」
「は?」
「まだ一緒にいたい」
「っ、だめ、です
……
」
駄目だと言いながらもその顔は赤く染っていて、押したらイケそうな気がする。
目が泳いでるし、やっぱりイケそう。
一層の事押し倒そうかと考えていると、先手を打つように立ち上り、食べ終えた食器を片付けに入られてしまった。
ちぇっ、残念。
機会を逃した俺は、諦めるしかなかった。
「「行ってきます」」
玄関で出る時、顔を見合せて声を揃えた。
互いの家に来た時は、『お邪魔します』じゃなくて『ただいま』で、『お邪魔しました』じゃなくて『行ってきます』と言うようにしている。
いやもう、一緒暮らそうぜ!
前に言った時は断られてしまったけれど、そろそろもう一度言ってみるかな? なんて、この時の俺はだいぶ浮かれぽんちだった。
外に出てみると雨足が強くなっていて、起きた時に聞いたアスファルトを叩く音よりも更に大きくなっていた。
土砂降りとまではいかないが、まぁまぁの強さだ。
そんな状況にげんなりしつつも、特に気にした様子のない千早が先に傘を差して雨の中へと出て行ってしまったので、慌てて俺も傘を開いて後を追うように足を踏み出す。
パシャリ、といきなり水溜まりに足を突っ込んでしまい、ズボンにシミを作った。
やってしまった、早々にツイてない。
見ればあちこちに水溜まりを作っている事から、どうやら夜中には既に降り始めていたのだろう。
雨の日は、空の下で思いっきり野球が出来ないので好きではない。
設備は整っているので、室内でもやれる事は高校の頃よりも増えたが、例え同じメニューでも外でやる方にはどうしたって敵わない。
気持ちの問題なのはわかっているが、球児が青い空に焦がれるのは必然の事だと思う。
それは前を歩く千早だって同じだろうって、何か、スピード速くね?
まるで、俺の隣は歩きたくないとでも言いたげの速さで歩いているのは気の所為か。
「千早くーん、スピード落としてー」
そう声をかけると、何故か千早は突然歩みを止めた。
その背に追い付いてどうした、と傘の中を覗くと、今にも泣き出しそうな顔があって慌てる。
「ちちちち千早!? どうした!? お腹痛い!?」
ワタワタしながら問いかけると、フルフルと首を振られる。
じゃあ、どうしたんだよ。
訳がわからないままだったが、とりあえず道の端に避けようとして見付けた、屋根の軒下に入って傘を閉じる。
すると千早も同じように傘を閉じたので、どうやら話をする気はあるようだったが、その顔はまだ泣きそうだ。
昨日の事は解決はしてないにしろ、一応は一段落付いたんじゃなかったンか?
わっかんねー
……
。
頭をガシガシ掻きながら千早の様子を窺っていると、雨の音に掻き消されそうな小さな声で俺を呼んだ。
それにすぐさま答えると、泣きそうな顔はそのままに、けれど真っ直ぐに俺を、俺の瞳を見た。
きゅっ、と引き結んだ唇が震えている。
「藤堂くん
……
」
「うん?」
「俺達、距離置きませんか?」
「は?」
雷に打たれたような気持ちだった。
それともナイフで心臓を一突き?
どちらにせよ致命傷は間違いない。
何で距離置くなどと言われたのか理解出来なくて、意味がわからないと、一瞬で頭に血が上るのだけはわかった。
けれどその後は一気に冷めていく感覚がして、顔から表情が消えていく。
「距離置くって何? 別れるって事?」
「別れ
……
るのもアリですかねぇ
……
」
「絶対認めねーけど」
「
……
ずっと思ってた事でもあるんですよ。藤堂くんは俺じゃない誰かとの方が、幸せになれるんじゃないかって」
「誰かって誰だよ」
「それは、俺にはわかりませんけど。きっとその内、現れます」
「ふざけんな
……
っ」
ぎゅっ、と握り締めた手のひらに長くはない爪が痕を付ける。
食いしばった歯が、ギリ、と音を立てる。
なんで千早は、自分じゃない誰かと俺が幸せになれると思っているのだろう。
俺の一番は千早で、この先の未来もそれが変わる事はない、そんな風に言い切れる程に好きで大好きで愛してるのに、千早には伝わっていないらしい。
何度も何度も言葉にしてきたのに、行動にしてきたのに、それなのに。
泣きたいのはこちらも同じだ。
俺の事を想ってくれるのなら、俺の手を離さないで欲しい、ずっとずっと未来永劫握ってて欲しい。
誰よりも傍に、いて欲しい。
俯く目の前の旋毛を見つめながら、じわ、と視界が滲んできて慌てて袖で拭った。
それから、間違っても顔を見られないように、千早の身体をキツく抱き締める。
突然の外でのハグに、千早は驚いて俺の腕から逃れようとするが力の差は歴然で、ジタバタと藻掻いていたが途中で諦めたらしく、大人しくなった。
まぁ、「離せ」なんて可愛くない事はずっと口にしているが、無視だ無視。
「なァ、そんなに別れたいなら、俺の腕から逃れられたら承諾してやるよ。やれるもんならやってみろ、って感じだがな」
「狡くないですか? さっきので俺、疲れたんですけど」
「知らねー知らねー」
「はぁ
……
。藤堂くんって、たまに凄く子供っぽい事しますよね」
「何とでも言え」
子供でも何でもいい、形振り構ってられねーの。
俺が幸せでいられる未来がここで消滅するくらいなら、例え千早本人に呆れられたって構わない。
なんだっていいンだよ、お前を繋ぎ止めておけるのなら、なんだって。
更に背中へと回した腕に力を込めると、「苦しい、バカ」と足を踏まれた。
地味に痛いが、抱き締めるのはやめない。
一応、力は緩めたけど。
その隙をついて逃げる事も出来ただろうに、千早は俺の腕に収まったままで、だからつまりそれが答え。
お前だって別れたくないんじゃねーかよ。
欲しい物は欲しいって言えないタイプなのはわかるけど、俺の事だけは欲しがってほしい。
強欲になってくれよ。
「お前の負け、な」
少し離れて顔を覗き込むと、ユラユラ揺れた瞳から涙が一筋零れた。
それから、「はい
……
」と鼻を啜りながら言うものだから、愛おしくて思いっきり笑ってしまった。
なァ、千早。
きっと俺達の未来だって、この空みたいに晴れると思うぜ?
あれだけ降っていた雨が嘘のように止み、厚い雲が少しづつ薄くなっていた。
もう少ししたら雲の隙間から太陽が顔を出すのだろう。
だから千早、
「笑ってくれ」
END
内容が内容だからか長くなってしまった
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