ひよこ豆
2026-03-29 17:22:42
2266文字
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つかいまのつくりかた

ファンタジーパロヒュアキ、アキラくんのつかいま誕生回。あんまりいちゃつきはしてないです。

魔力を込めて編んだ、ナナカマドの枝の骨組み。
羊草(バロメッツ)の綿に白狐の毛を少々。
染色した女郎蜘蛛(アラクネー)の糸。
お手製の布人形。

まず布人形に骨組みと綿を詰める。
詰めきったら、布人形の背中を縫い合わせて綴じる。
羊皮紙に小型石人形(ミニゴーレム)用の魔法陣を描き、中心に人形を設置。
さいごに魔力を送れば、立派な使い魔の出来上がりだ。

「さて……上手くいってくれるかどうか」

魔法陣に魔力を送り、しばらく待つ。
すると。
ぴくり、と布人形の狐を模した耳がかすかに動いた。
これはと思ううち、布人形の小さな目がぱちぱちまたたいた。
アキラがこわごわ見守る中、布人形はむっくり起き上がり、伸びをしてふわぁとあくびをした。

「よかった、成功だ……!」
ほっと息をついたアキラを見上げ、きょろきょろ辺りを見回す布人形。
補強のために白狐の毛を入れたせいだろうか。魔力を通した瞬間に狐耳としっぽが生えた時はどうしようかと思ったが、無事成功して何よりだ。
たどたどしく歩く姿は、歩き方を覚えた子供のようでなんとも微笑ましい。
数歩進んだら疲れたのか、布人形はぺたりと座り込む。
視線はじっとこちらを見て、ふいにこてん、と小首を傾げた。
う、と思わず胸を押さえる。

「これは……我ながら凄いものを作ってしまったかもしれないな……
「ほう。それは実に興味深い」
――うわ。驚かさないでくれ」
いつの間にやら背後から声がかかり、アキラは心臓をばくばくさせながら振り向いた。
「いやはや、失敬。君が集中しているゆえ、声を掛けづらく」
「そうだったのか。すまない、気づかなくて」
「なに、音もなく忍び寄った俺の落ち度だ」
そう言われると身も蓋もない。
しかし声をかけられて集中が途切れていた可能性を考えると、後から話しかけられてびっくりするなんてのは何ともなかった。

「みゃっ」
「あ、おいこら」
不意に、ヒューゴの外套から元気な声がする。
ごそごそやって、ぷはっと深呼吸をしながら現れたのは、彼の『使い魔』だ。
アキラは個人的に彼を「ちびくん」と呼んでいる。
「やあ。君も来てくれたんだね」
「みゃー!」
ちびくんは外套からひょいと抜け出し、ぴょんと滑空してアキラの広げた手のひらに見事な着地をした。
指をすこし曲げると、擦り寄って握手するように小さな手で握ってくれる。
……端的に言って、とてもかわいい。
頬がゆるんで仕方ない。

「み?」
「この子が気になるかい?僕の使い魔なんだ。まだ生まれたてだよ」
ちびくんにせっつかれたので表情を引き締める。
彼はテーブルに座るアキラの使い魔を指さして興味深そうにしていた。
それならば、と手をかたわらに寄せてそっと近くへ下ろす。
ちびくんはよじよじと手を下りて使い魔へ元気よく挨拶をした。
「みっ!」
「きゅー」
――使い魔同士で、何やら謎のコミュニケーションが発生したらしい。
ちびくんは早速アキラの使い魔を気に入ってくれたようで、きゃあきゃあとはしゃぎながら、しきりに話しかけたり、スキンシップを図っている。
彼の熱量に対して、アキラの使い魔はゆっくり頷いたりただにこにこしたり、どうもおっとりしているらしい。けれど鬱陶しがったり嫌ったりする様子はないので一安心した。

……そしてはしゃぎ倒すちびくんの姿を見つめ、また何とも言えない顔をする本体の方。

「なんというか。苦虫を噛み潰しながら高濃度ポーションを飲んでいるような顔だ」
……そんなに酷い顔をしているか」
「いいや。美形はどんな顔をしていても格好いいから得だね」
「お褒めに預かり光栄」
分かりにくい冗談を交わしあったら、ヒューゴの機嫌も少しは上向いたようだった。

「それにしても、君が使い魔を作るとは。手が足りないようには見えなかったが」
事実、アキラの魔術――特に薬草学や降霊術は誰もが認めるほどの腕だ。本人は性格上、謙遜するが。
「うん、そこに問題があるわけじゃないんだ。ただ最近一人の時間がどうも、少し……寂しくて」
もういい歳なのにね、とアキラは自嘲の意味をこめて苦笑した。
アキラはリンと2人、この家でつつましく暮らしていた。
過去形なのは、リンがギルドにほど近い都会の家に越して、冒険者活動を積極的に行っているからだ。
妹のやりたいことをさせてやりたい気持ちはもちろんあるが、それと同じくらい寂しさもあった。

「なら、君が寂しさを覚える暇もないほど、戸を叩きに現れよう」
「君がかい?ふふ、優しいな」
アキラは一瞬きょとんとしたが、ヒューゴがあまりに親切なのでおかしくなってしまった。

傍から聞くと、吸血鬼が夜訪れるなどただの犯行予告だ。けれどアキラにとっては何より嬉しい予定になる。
ヒューゴはふ、と微笑んでアキラの手をそっと取り上げた。
なんて事ない動作なのに、なぜだかアキラの心臓は跳ねる。
何か言わなければ、と思っていたそのとき。
「みゃーっ!!」
自分もいるぞとばかりに声をあげてちびくんも主張した。
緊張はすぐさま霧散し、アキラはちびくんのお腹を人差し指でこちょこちょとくすぐってやった。
「あはは、そうだね。君を忘れる訳にはいかない」
ちびくんはきゃははとひっくり返ってはしゃぎ、それを見つめるアキラの使い魔も嬉しそうに順番待ちをしていた。

……俺の使い魔というなら少しは空気を読め」
1人だけ和やかな空気に取り残された哀れな吸血鬼の呟きは、まだ誰も知らない。