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みがきにしん
2026-03-29 00:35:42
1928文字
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「本物の海なんてクソだな」
「兄者、かなり楽しんでただろ……あれ、これ言わない方がよかったか?」
ディープブルーとレッドホットがマジでコスタ・デル・ソルに来る前に書きたかったので一時間で書きました。
――
本物の海なんてクソだ。
ディープブルーはそう思う。
これがキープ内の人工海洋プールなら、砂浜は熱くなかった。太陽の当たる砂浜はフライパンの上のように熱くて、足を付けた時は思わず飛び上がってしまった。
これがキープ内の人工海洋プールなら、水はこんなに塩っ辛くなかった。口に入った海水は、驚いてぺっと吐き出すほどに塩辛く、少し苦かった。
これがキープ内の人工海洋プールなら、人間以外の生き物はいなかった。水中には色鮮やかな魚が泳ぎ、空を見れば鳥が飛んでいて、目移りして集中できない。
これがキープ内の人工海洋プールなら、自分たちのための波はいつだってすぐにやってきてくれた。けれど本物の海は気まぐれで、数時間待っても来ないときもある。
コスタ・デル・ソル。この海と土地はそういう名前らしい。ここ数日、ディープブルーとレッドホットはこの海のそばに滞在していた。もちろん、本物の海で波に乗るためだ。
「はい、どうぞ」
生身の挑戦者、いや、統一王者が軽食を手渡してきた。串に刺さった何かを口に含むと、香ばしい匂いと強い旨味、レモンの風味と潮の匂いが口の中いっぱいに広がる。
海の幸串焼きだとか言ったか、いつの間にか火を焚いて作ってくれていたらしい。隣で弟もむぐむぐと口を動かして、せっせとその量を減らしている。
空を見上げれば太陽は傾きかけていて、あと少しすれば海に呑み込まれそうだった。つい先程まで青かった波間は白く染まってひどく眩しく、ディープブルーは目を細める。
「残念だったね、今日は」
黙ったままのディープブルーとレッドホットの代わりに、統一王者だけが言葉を投げかける。ついでに、ドリンクも手渡してくる。濃いオレンジ色で爽やかな香りのするそれは、キープ内で同じ味を名乗って売られているものとは全く違って、少し酸っぱい。
太陽はどんどん傾いて、とうとう海に触れ始めた。白から黄色、黄色から赤に波間の色が移り変わり、頭上はまだ青いのに、その近辺の空だけは同じ色に染まっていく。
「
……
良い波が来なくて」
太陽も空も赤とオレンジ色に染まる。空に浮かぶ雲は誰かがふざけてちぎった紙のように薄く、それも同じ色に染まっている。あれがヘリテージファウンドに浮かんでいるものと同じものだとは思えなかった。
――
今日は一度も波に乗れなかった。昨日は3度乗ったが、いずれも思ったようには乗れなかったし、波のサイズも自体も小さかった。一日ずっと海のそばで波を待って過ごしたが、この有様だ。
満足できる結果とは言えなかったが、明日には帰らなければならない。
「
……
本物の海なんてクソだな」
串焼きを食べ終わり、もらった瓶を空にして、ディープブルーは立ち上がった。砂浜に座ると、尻や足にざらざらしてちょっとべたつく砂が付く。なかなかに落ちにくいそれを払いながら、ぐっと身体を伸ばす。同じく立ち上がった弟も、砂を落とそうと服を叩いている。
統一王者は眉を下げながら苦笑し、真っ赤に染まる海に目を向けながら口を開く。
「今回は残念だったけど、よかったらまた
……
あ」
「
……
あ?」
かの人が目を瞬いて海の方を指差す。寄せては引いてを繰り返し、今日少しも気を遣ってくれなかった海が、その瞬間ぐうっと強く下がった。
「兄者!」
レッドホットが大声を上げてボードを掴み走り出す。しかしディープブルーはその声を聞く前にすでに砂浜を蹴って駆けだしていた。海の表面が大きく持ち上がっていくのがスローモーションに見えて舌打ちをする。間に合え、間に合え!
昼間よりはだいぶマシだとはいえ足元の砂が熱いが気にもしなかった。飛沫が上がり口に海水が入って塩っぱいがどうでもいい。水の中には昼間散々見た魚もいるに違いないが、もう頭から飛んでいた。
ボードに乗り、波の頂点へ向かう。少し後ろにはレッドホットもいた。きっと今、同じ顔で水を掻いている。
ボードの上に立つ。砕けながら落ちていく波を滑り降りる。すぐ後ろを水の壁が追ってきていて、飛沫が掛かった。たまらない高揚感が喉から勝手に吹き上がる。徐々に覆い被さってきてトンネルのようになっていく水の中を突き進めば、広すぎて信じられないほどだったこの海と、とうとう一つになったようだった。
びしょびしょになった身体で二人浜に倒れ込めば、全身べったりと砂が付く。けれど今だけは、全くそれが気にならない。全身が痺れ震えるほどの興奮が、未だに心臓を捕らえて放さない。
駆け寄ってくる統一王者を視界の隅に捕らえながら、ディープブルーは呟いた。
「
……
やっぱ、本物の海なんてクソだな」
また来たくなっちまうじゃねえか。
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