うすねず
2026-03-28 19:58:04
2758文字
Public カイスト
 

グランさん夢

滞在していた村の少女とグランさん
と、ちょっとフログラ
グランさんがピアスつけようとしたら刺したピアスがそのまま押し出されて落ちるのかなって……それはエロすぎるなって……

昔、村長の家にしばらく滞在していた人がいる。
グラン・ジーというらしいその人を、わたしたちはおじさんと呼んでいた。

おじさんはすごい人で、どんな病人もけが人も瞬く間に治してしまう。
事故で右腕を失った隣の家のお兄さんも、川に落ちて溺れた男の子も、村外れに住んでるめくらのおじいさんも、みんなおじさんに治してもらったらしい。
わたしもすぐに咳が出てしまってあまり動き回れなかったのに、おじさんがわたしの胸に手を当ててむーっとしたらすっかり元気になってしまった。
走るのって、すごくたのしい。今では村で一番足が速いのはわたしだと思う。
おじさんは不思議だ。
村の大人とも、キャラバンの大人とも違う。
お母さんはおじさんは遠い外から来た人だから礼儀正しくしなさいって言うけど、おじさんはそんなこと気にしないってわたしたち子どもはみんな知ってる。
でもおじさんのことは好きだからたくさん親切にしたい。といっても、わたしにできることなんてこっそり隠しておいたおやつを分けてあげるくらいだけど。おじさんは美味しいものが好きなのだ。
おじさんはわたしたちが遊んでいるといっしょに遊んでくれたり、手品を見せてくれたりする。
でもかけっこはあまり強くない。
そんなおじさんは次のキャラバンが来たら一緒に出ていってしまうらしい。
どうしよう、おじさん、この村にはもう来れないって言ってた。おじさんは絶対に嘘をつかないから、きっと本当にもう二度と会えない。
そうだ、もう会えなくなっちゃうんなら……

急いで家に戻るとわたしは道具箱の中に大事にしまっていた銀の耳飾りを取り出す。
少し幅広の環に魔除けの文様を彫り込んだシンプルな耳飾りは、数日前にわたしが初めて作ったものだ。
わたしの家は代々金属で作った装飾品を売って暮らしている。この辺りでは珍しいことでもない。村に住む住民のうち半分以上は金属の加工品をキャラバンに売って生計を立てている。
金属は大切な売り物だから、子どもは金属を使ったものは作らせてもらえない。
金属を扱えるのは一人前……とまでは行かなくても、ちゃんと仕事ができるようになった証なのだ。
だから、初めて作ったものは売り物にしないで取っておく。その後どうするかはそれぞれだけど、わたしのお父さんはお母さんに求婚する時に贈ったらしい。
いくつもある装飾品の中からこの形を選んだのは、わたしが一番得意な形だったのと、耳に刺して固定する耳飾りなら旅をするのに邪魔にならないだろうと思ったからだった。
おじさんと結婚したいわけじゃない。でも、これを作る時、わたしはおじさんのことを考えていた。
だから、渡すならおじさんしかいないと思うのだ。



おじさんはいつも通り、広場の切り株に座って幼い子たちを見守っていた。
転んだ子がいると怪我をなおしてくれたり、喧嘩になったら仲裁したりしてくれるのだ。
おじさんは争いを収めるのがうまい。おじさんが間に入ると、なぜか苛立っていた気持ちが収まってしまう。
「おじさんっ」
「どうしたんだい、そんなに急いでたら転んじまうよ」
「これ、わたしが作ったの。おじさんにあげる」
おじさんはきっと喜んでくれると思った。
わたしがおやつを渡したときは喜んで食べていたし、木彫りの装飾品を見せるといつも褒めてくれたから。
「それ、初めてつくったやつだろ。大切な人にあげるもんじゃないのかい」
受け取ってくれると思ったのに、ゆったりとした口調で、困ったように断られてわたしは愕然とした。
「わたしの大切な人はおじさんだよ」
「いやあ、そう言ってくれるのは嬉しいけど……おいらはつけられないから申し訳ないよ。大事に取っておきな」
「つけられないってどういうこと、おじさんなら似合うよ。おじさんのこと考えながら作ったんだもん」
必死に説明するわたしをおじさんはやっぱり困った顔で見つめていた。
「うーん、……わかった」
「貰ってくれるのっ」
「んーと、ちょっと見てな」
おじさんはわたしの手から耳飾りを取ると、そのまま耳にあてがう。
「あっ、そのままだと刺さらないよ。先に針とかで穴を開けてから」
「大丈夫」
そんなに力を込めたようにも見えないのに、おじさんの柔らかそうな耳たぶに冷たい金属が突き刺さる。
そしてそのままスルッと落ちてしまった。
「えっ なんで」
「ほら、おいらにはつけられないんだよ」
顔を寄せて見せてくれたおじさんの耳には傷一つない。
たしかに刺さるところが見えたはずなのに。
「またあの手品でしょ。もう騙されないんだから」
「種も仕掛けもないんだがなあ」
「いつもそう言うじゃない。……そんなにイヤなの」
「嫌ってわけじゃあないんだが……
頬を搔くおじさんの目をじっとみつめる。
逸らされそうになったので追いかけて見つめ続ける。
「わかったわかった。着けられないけど、それでもいいなら受け取るよ」
そうしてしばらくおじさんの周りをグルグルしていると、ようやくおじさんが頷いてくれた。
「ほんとっ。うん、それでもいいよ」
「ただ、いつまで持っていられるかはわからないぜ。おいらもいろんなところに行くから、何かの拍子になくしちまうかもしれないし、壊しちまうかもしれない。それでもいいかい」
……うん。わかった。でも、それまではきっと大事にしてね。約束だよ」
「ああ、約束する」
そう言って笑いながら撫でてくれたおじさんの手のひらを、わたしはずっと忘れられないでいる。





「何持ってるんだ」
「ん、フロウか。前に貰った物なんだが」
ブラブラしていたら知ってる奴がいた。
なんか大事そうに持っていたので面白いもんならちょっかいをかけてやろうと声をかけたのだ。
グランの手に乗っているのは小さな円状の金属だった。簡易な装飾が彫ってあるが大きさからして指輪じゃないな。ピアスだろう。
「貰ったはいいが、おいらはつけられないからな。たまに眺めてるんだ」
そう言いながら懐かしそうに眺めるグランの手からピアスをひったくる。
「あっ、何するんだ」
そのままグランの耳にぶっ刺すと、一瞬固定されたピアスは再生しようとする肉に押し出される。
ま、そうなるよな。
「失くしたらどうするんだ」
グランは落ちるピアスを慌てて受け止めるとホッとしたように息をついた。
「その時はその時だろ。そもそも、そんなもんいちいち大事にしてたらキリがないぜ」
「そうだけどさあ」
失くすまでは大事にするって約束しちまったしな。
手の中でピアスを弄びながら呟くグランを見ていたらなんとなく気が削がれたので、そのまま立ち去ることにした。
まあ、たまにはそういう物があってもいいんじゃないかってことで。