ortensia
2026-03-28 16:26:59
1032文字
Public 傭リ
 

ファンタジー傭リ。リが人外(オルゴール)。

ウセモノターミナル2ってゲームがめちゃくちゃ好きで、前作も良かったけど2のラスト最高だった。3は?←

 扉をそっと開ける。例えば、中の繊細な男を驚かせないように。きっとそういう意味ではヤワではない。ただこちらが、勝手にそうしているだけだ。だからただの例え話。繊細で美しいとは言え、爪は金属で硬い。人が触れて良いものではない。
 しかしそれが爪弾く歌声は、その姿に相応しい細やかな美術品のような音だ。それでいて普段は隠されているその扉の内側は、実に優雅に構えている太々しさがある。そして金属の力技で奏でる演奏のくせに、影に馴染む霧のようにひっそりとしたものだった。
 遊び心で扉を軽くつつく。ノック音は微かな笑い声。きっとそうしたこちらの顔も笑っている。
「もう歌えませんよ。」
 なのにそんな悲しいことを言う。楽しげな声で、そんな。
 今も男が奏でる歌声を鮮明に思い出せる。
 初めは知らない曲だった。馴染みのない国のメロディで、新鮮さは不気味さも感じられた。知らないことを理由に嫌厭することは、珍しいことでもない。自分だってそうされて来たようなものだ。
 そうは思ってもちっとも手放す気なんかなくて、制圧下にとっくに滅んだ街の一室、こんなものより食べ物や武器の方が必要なのに、今も手の中にある。
 当時は芸術家か誰かが暮らしていたのか、部屋には絵の残骸が何枚か散らばっており、その中の踊り子の絵のそばにあった。崩れた家屋の中で奇跡的に新品同様というわけには勿論いかなく、その時から既に壊れの兆しはあった。
 それが余計に壊れを早めると分かっていても、さして用もないのに悪戯に扉を開いては、仕方のない人と笑われながらも歌声を差し出された。閉ざされた扉はそれにも関わらずいつでもこちらを歓迎しているようで、つい手が伸びてしまうのだ。そうして何度も歌声をねだった。
 それは今でも変わらない。男が壊れてしまった、今でも。
 今では扉を開けても何音か飛ぶ。折れているのが爪か板か、きっと両方だ。扉の蝶番すらおかしい。
「もう何も生み出せませんよ。」
 見付けた時から様子のおかしかった男は、どんどん壊れていく。
 それでもこの手に触れて、笑っているようだ。
 覚えていると思っていた初めの元々の歌を、自分が覚えているのか、本当にはもう分からない。狂った音色。こちらの記憶もきっと簡単に狂わす。
 崩壊を助長しているのは、歌をねだるこちらのせいだ。しかしやめることが出来ない。先程開けたばかりの扉を、性懲りもなくまた開く。さあ、何度でも聴かせてもらおうか、壊れた歌を。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。