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遊悟
2026-03-28 16:00:21
1825文字
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手紙~拝啓、遠い空の下で暮らす貴方へ~
※1時間クオリティ。矢車草の花言葉は「教育・信頼・繊細・優雅・優美」
「ああ、いたいた。七三子、俺だよ俺」
見下七三子が愛犬の
―――
ハヤタを連れ、近所の公園を歩いていると、背後から声をかけられた。
「よかった、ここで会えて」
「なんでそんなオレオレ詐欺みたいな声かけするんですか
……
?」
聞き覚えのあるその声に七三子が振り返ると、そこには強面の偉丈夫が立っていた。
その名は五百住遊悟。仮にも、警視庁に籍を置く捜査官である。
「七三子なら、気配だけでも判別できるだろうと思って」
「五百住さん、私のこと、何だと思ってるんですか」
呆れ半分で肩をすくめる七三子の前に、遊悟は手紙を差し出してきた。
矢車菊が描かれた白い封筒に、ミミズの這ったような筆跡で「七三子さんへ」としたためられている。
「
……
?」
手紙を出されるなんて、思い当たる節がない。ましてや、遊悟から手渡されるなんて。
首を傾げながら受け取り、封筒をひっくり返してみると、綺麗な字で「Gerda」と書かれていた。
「ゲルダ
……
」
読み上げて、ハッとする。以前、事件から救出した少女の名ではないか。
慌てて中身を確認しようとして、片手がハヤタを繋ぐリードで塞がっていることに気づく。
「ハヤタ、ちょっと俺と遊ぼうか」
七三子の気持ちを察したらしい遊悟が自然な仕草でリードを受け取り、そのままハヤタをワシャワシャ撫で始めた。
「すみません」
「いや、俺もハヤタと遊びたかったから、おかまいなく」
「はい
……
」
自由になった手で手紙の封を切る。
中から出てきたのは、白い紙面に灰色の簡素な罫線が引かれただけの、シンプルな便せん。
しかし、重要なのはそこではない。罫線の上に踊る文字が語る内容だ。
『はいけい みしたなみこさま』
ブルーブラックのペンでしたためられた拙い文字は、そのまま今の彼女のさまを表しているようだった。
『あの時、たすけてくれて、ありがとうございました』
手紙には、あの事件
―――
天使化事変で、自分を救ってくれたことに対する感謝が、たどたどしい日本語でしたためられていた。
危険を顧みずに村にやってきて、頑なな自分を外へと引っ張り出してくれたこと。
大切な家族
―――
愛犬のサミーを置き去りにせず、共に連れ出してくれたこと。
母と最期の会話を交わす時間を作ってくれたこと。
七三子たちがゲルダにしたことに対する感謝と、それから。
『ほんとに困っているだれか。そのひとのため、みらいのため、道をつくる。そのすがたは、まぶしかったです』
―――
その姿に対する憧れが、記されていた。
あなたたちのようになりたいと。
生き延びてしまったが故の代償としてではなく、純粋な憧憬として「七三子たちのような人間になりたい」のだと書かれていた。
『いつか、ちゃんとお礼をいわせてください。それでは、その日まで、また』
「お礼だなんて
……
もう十分手伝ってもらったのに
……
」
ゲルダには、決死戦の時に手を貸して貰った。
それで十分礼になったというのに、まだ礼を述べたいだなんて。
「そこまでのことは、してません」
「いいじゃねぇか。素直に恩を感じさせておけよ」
ぽつりと七三子が呟けば、ハヤタの顔をのぞき込んだままで遊悟が口を開いた。
「お前たちの存在が、ゲルダの生きる道標になる。
ゲルダは天使になっちまった。もう元には戻れない。
なら
―――
戦い方を、自分の身の守り方を、覚えなきゃいけないんだから」
どうせ目標にするならば、強い人間の方が良い。
遊悟の言葉に、七三子は肩を落とす。
「私、か弱い戦闘員ですよ?」
「か弱いヤツは、靴に鉄板仕込んだりしねぇんだってば」
七三子の弱々しい反論さえ、遊悟は笑い飛ばす。
「今はまだ自分の見目が気になって外に出るのが怖いらしいが
……
いずれひとりで外出できる勇気が湧いたら、お前たちに会いに来たいと言ってた」
―――
なってやれよ、目標に。
そう言うと、遊悟はハヤタのリードを七三子へと返した。
「少々荷が重いですが」
「お前ひとりが背負うもんじゃない。ちょっとずつ分けて持つモンだ。
気負わなくていい。ただ、構えてりゃいいだけさ」
じゃあまたなと手を振ると、遊悟は警邏へと
―――
仕事へと戻っていった。
「
……
できるでしょうか。私が、誰かの憧れに、なんて」
「わん!」
誰に聞かせるとでもなく呟かれた七三子の言葉に、ハヤタが元気よく応えたのであった。
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